未来の地球を、背負って立ってくれる人物が出て来てくれた事に、ジョカリーヌは喜びを隠しきれませんでした。
とは云え、事は慎重に運ばなければいけない・・・
一口に云って、「評議員」の仕事とは、そんなには簡単ではなく、寧ろ、気負う処の方が多いのかもしれない・・・。
けれど―――ここに、一人の「モデル・ケース」が居てくれた事に、ジョカリーヌは安堵していたのです。
それが、リリア―――・・・
彼女は、本来は大変な仕事でもある、「評議員」の事を、そんな風には捉えてはおらず・・・
況してや、地位の方も、一つの国家元首よりも、格は上である事を、仄めかせたりはしていない・・・
まるで―――自分と云う「存在」に、「おまけ」が付いてきた感覚ですらない・・・
そしてジョカリーヌは、今回、新たに「北の評議員」となった、イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマスに、必要以上に気負う事のないよう、助言を贈り、
後は、それぞれが、それぞれの国や地域に戻るよう、そう促そうとしたところ・・・
し:今まで―――色々とありがとうございました。
それに、会えるのは、今回が最後になるかもしれません・・・。
ジ:―――そうか、君は確か・・・報告にもあったように、お父さんを、例の「塊閻」・・・ストゥク=カイエン=グワゴゼウスに、殺されたのだったね・・・。
確かに、その事は気の毒には思うけれど・・・所詮、「憎し」で、相手に立ち向かっては・・・
し:それ―――ユリアさんからも云われました・・・
けど、どうしてもボクは、奴の事が赦せないんです。
ジ:そうか・・・総て、承知の上なんだね―――
では、私の方も、手を貸すのは、これで最後にするとしよう。
しの・・・加東紫乃は、ユリアから齎された情報を基に、父・段蔵の仇敵である、「塊閻」を追って、この「エグゼビア大陸」まで来ていました。
そして、そこで、ジョカリーヌと云う人物の助けを借りて、どうにか「塊閻」を撃退できたものと思ったのですが・・・
実は、その時その場にいた「塊閻」は、ジョカリーヌから逃げ出す為の「抜け殻」の様なものであり、
その本体は―――しのや、蓮也、市子達の故郷でもある、「常磐」へと逃れている事が、ジョカリーヌからの証言で、明らかとなったのです。
しかも・・・聞く処によれば、ストゥク=カイエン=グワゴゼウスが、最初に地球に降下してきた場所が、「常磐」の「讃岐」と云う地域であり、
降下してきた年代も、「崇徳上皇」が、彼の地へ流されて数年後・・・と、くれば―――
往時の、「崇徳上皇」の表情を知っていた、たまもにしてみれば、「讃岐」にて悶死した上皇が、「大魔障」に取って代わった理由・・・
まるで、人相が変わっていたと云うのも、ここにきて得心が出来た―――と、云う処の様です。
そうした事情を聴いて、本来の仇敵の居場所が判った、しのとたまもは・・・
そこに居た、こんな自分達にでも、なんでもしてくれた「仲間達」に、もしかすると、これから会えなくなるかもしれない・・・と、云った様な、
ある種の、「決死」の覚悟の表明をして見せたのです。
そこをジョカリーヌは、「復讐」は、結局は何も産みはしない事を、諭そうとするのですが・・・
その少女の眸に見た、「覚悟」の現れを、総てを承知の上で―――と、したジョカリーヌは、
ならばせめてもの手向け・・・とでも云いた気に、しのとたまもを、仇敵が逃げたとされる、彼女達の故郷へと、転送させたのでした。
しかし―――それを、目の前で見ていて、黙っていられなかった・・・
リ:あっ―――ちょっ・・・ジョカリーヌさん!
なんだって、あいつらだけを・・・
ジ:ああ云った眼をした人はね、いくら私が説得を行ったとしても、ダメなんだよ・・・。
それに、彼女自身―――お父さんの仇敵を、自分が討たなければ、意味がない事だともしている・・・。
リ:だからと云って―――・・・
タ:あなたほどの方が、事態をあのままにしておくと云うのは、嘗てあなたを主君に仰いでいたワシからしてみれば、至極不自然に映るのですが・・・
もしかしますと―――あなたの「姉上」方達の、采配を仰ごうと・・・?
ジ:フ・・・君がいる前で、する事ではなかったようだね―――
ま・・・「彼」を、「欠片」であれ、なんであれ、確保することが、今回帯びた、私の使命・・・
それに、もし確保が出来なかった場合、「彼」の、「存在抹消」の許可は得ている・・・
だけど、一応の事態が収拾できた、今だから云えるけれど、今回そこまでしなくて良かったのは、不幸中の幸い・・・と、云った処だよ。
てっきり―――自分達も、「条件付き」で、しの達を助けてあげなさい・・・と、云ってくれるものだと思っていたリリアは、
ほぼ無条件で、しのとたまもの二人を、常磐へと戻したジョカリーヌに、抗議を申し立てようとしました。
そこへ―――以前、ジョカリーヌに仕えた事のあるタケルが、「落着」にまで至っていない事態を、放置しようとしている事に疑問を抱き、そこの処を糺して見ると・・・
やはり、「上層」の判断を仰ごうとしていた・・・
それに・・・タケルは、知っていたのです―――
なぜ、ジョカリーヌほどの人物が、こんな事の為に、わざわざ出向いて来なければならなかったのか・・・を―――
それは、やはり―――「彼女自身が望んでいた」事に過ぎなかったのです。
第八十九話;いざ、東の最果てへ・・・
そこの処の事情を、急激に知ったリリア達にしてみれば、何のことかさっぱり判らないのですが・・・
しかし、事態の方は、確実に動いているのでした。
エグゼビアでの動乱が、終息に向かった処で、彼の地に居る意義を喪ってしまったリリアに蓮也は、ジョカリーヌの計らいもあり、
彼らの故郷でもある、エクステナーの「テラ国」へと戻されたのでした。
一方、治療の必要な市子は、やはり同じくして、ジョカリーヌからの計らいもあり、ガルバディアの「パライソ国」にあると云う、
ヘライトスが開いている治療院で、眼の治療に専念することになったのでした。
それから・・・幾許かの時間が経ち―――
もう、誰しもが、「あの事件」のことを、忘れたかと思われた、ある時に・・・
リ:―――なあ、蓮也・・・一つ、聞いて云いか。
蓮:なんでござろう。
いつもと同じように、蓮也が組んでいる庵に顔を出し、そこでいつものように、蓮也のしている事を、邪魔せず眺めていたリリアが・・・
なぜか、この時ばかりは、唐突に話題を切り出してきたのでした。
しかし・・・そう―――いつになく、不自然に感じていたのは、「その時までの」リリアの挙動・・・
蓮也や、他の誰もが知る、「普段通り」のリリアならば、自らが率先して動き―――好んで渦中へと跳び込んだモノだったのに・・・
それが―――エグゼビアから、強制送還されて今日までの間は、大人しくしていた・・・
こんな、不気味かつ不自然なことが、あっていいものなのか―――と、思っていた矢先に、
その時になるまで、何らかの計画を練り上げていたと見られる、リリアからの言葉に、蓮也は緊張を持って、聞かないわけにはいきませんでした。
しかも、この時、リリアから切り出してきたモノとは、ある「質問」でした―――
リ:お前や・・・市子達は、どうやって、この地へと来たんだ?
蓮:道なりに沿って―――で、ござるが・・・なぜその事を、今になって・・・
リ:フ・・・いや―――な・・・
ちょっと、私も気になってな。
お前たち二人や、しの達の故郷に、興味が湧いてきたのさ。
確かに・・・「目的」の一つには、それはあるのかも知れない―――
けれど、そんなモノは、所詮、「建前」であり、「本音」が別の処にある事を、既に蓮也は気付いていました。
それに、そんなリリアの真意に気付き、質そうとする蓮也に、敢えてリリアは―――・・・
蓮:リリア殿―――まさか、そなたは・・・
リ:今更、そんな事を聞いてどうするんだよ。
本当の処は、蓮也も・・・強いヤツと闘ってみたいんだろう。
だったら―――難しい話しは、抜きにしようじゃないか。
私は―――私より強いヤツに会いに征く・・・それで充分だろ。
直線的であって、乱暴・・・けれども、回りくどい言い回しをして、誤魔化す事を嫌う事が、相手の性分であることを、よく心得ていた士は、最早、それ以上の事は聞きませんでした。
その証しに、リリアの意志に呼応するかのように、長旅の身支度をする蓮也・・・。
その翌日に、出発の集合場所へと来てみれば、既にリリアは到着しており、蓮也が来るのを待っていたのです。
蓮:これはリリア殿―――待たせましたか。
リ:いや・・・ちょっと、私が早く来すぎただけなのさ。
蓮:然様でござるか・・・では、参りますかな。
リ:ちょっと待ちなよ・・・まだあと一人―――
まだ・・・誰もが目覚め、朝の支度をする前から、出立の約束をしていたかのように、町の外れにある「目標」にて待ち合わせた、男女二人・・・
男は―――自身が、そんなに遅く、家を出たつもりはなかったのですが、待ち合わせをしていた女を、待たせてしまった事に詫びを入れましたが・・・
女にしてみれば―――自分の、この逸る気持ちを抑えられなかった所為もあり、柄にもなく、早く到着し過ぎてしまった事が、そこで語られたのです。
そして―――これでようやく揃ったのだから、すぐにでも出発しようとしたところ・・・
そこをリリアは、あともう少しだけ待つよう、蓮也に促すのでした。
そのすがらに、リリアは―――・・・
リ:私達、三人は―――さ・・・もう、どんな事があっても、離れられやしないのさ。
私達三人・・・その誰もが、欠けたりしてもダメなんだ。
なぁに―――あいつには、今回の事は伝えてやしないけど、あいつならば必ず来る・・・私は、そう信じてる。
そのリリアの、言葉の内には、「誰」だと、個人を特定してしまう様なモノは、仄めかされてはいませんでしたが、
敢えて、その場で明言しなくても、蓮也には、誰の事だか判りました。
そして・・・その、僅かな後に、朝靄の向こうから、人影が・・・
しかしその人影は、もしかしなくても―――
市:お待ちになって、下さっていたのですね・・・。
リ:市子・・・もう、視えるのか―――
市:はい・・・ご心配、なさらずとも―――
市子は、完全に視力を回復させ、以前よりもよく視えるようになっていました。
それに・・・彼ら三人は、初めて出会ってからのその後―――ほぼ、行動を等しくしていた事もあり、そこで強い「仲間意識」が芽生えていたのかもしれない・・・
だからリリアは、最後に市子が合流すると、すぐに二人の故郷である、常磐へと旅立ったのです。
=続く=