「転移」の為の魔法陣を潜り抜けるとき、恍惚にも似た軽い眩暈の後・・・リリアが目を開けると―――そこは既にある建物の内部でした。
しかもその仕様は、オデッセイアやサライの国にある城や屋敷などの建築様式にもない・・・とても絢爛豪華なモノ―――
床は最高級の大理石を用い、壁や柱には玉や金細工を施した・・・まさしく贅の限りを尽くした、宮殿・御殿様式―――
それに、漂う空気すら心落ち着かせるものがあり、耳を澄ませると雅やかな楽曲が奏でられている気さえしてくる・・・
ここはこの世の楽園ではあるまいか―――・・・
リリアがそう思うのにも無理がありませんでした。
何しろ今まで自分がいた「エクステナー大陸」から一瞬でここ―――「ガルバディア大陸」のさある国に来ていたのですから。
そう・・・紛れもなく、現在リリアがいたのは―――・・・
マ:お〜〜い!リリアちゃ〜ん―――こっち、こっち! 置いてっちゃうぞ〜〜―――!
この建物の広さに圧倒されて、半ば呆けているリリアを余所に、早く来るよう促せるマキ―――
それに、一度でも迷って入ったら、二度と同じ場所に出れないのではないかと思ってしまえるほど、複雑多様にしてある扉や入り口・・・
だから慌てて、自分をこの建物に案内してくれたマキを追ったのです。
そう・・・リリアが現在いる場所は、「ガルバディア大陸」を統一し、統治する国・・・「パライソ国」にある「皇城・シャクラディア」だったのです
それに・・・先程の「大広間」から、今度は―――恐らくこの国を統治している「王」なる者の部屋なのだろう・・
それまでに行き着くまでの回廊の、なんと長大で幅も広い・・・それだけではなく、壁や床・天井に設えた調度品などの美術様式の―――なんと発達した事か・・・
普段はそんなモノには興味を示さないリリアでしたが、流石にこの時ばかりは目を奪われたモノと見え―――
リ:す―――凄い・・・なんだか凄い処に住んでるんだな・・・あんた達の主・・・
マ:そぉ?―――なのかね、バルちゃん。
ラ:ま・・・お嬢がそう思うのも無理はねぇわな―――云ってみりゃ、ここにはそれに似合うだけのお人が棲んでいるってことなのさ。
マキとラスネールの案内により、大広間から統治者である「王」自身の部屋に行き着くまで、この建物には他に色々な施設があるのを目に収めて行くリリア。
自分とは馴染みのある「サライ国」にもある「人工湖」―――ここには、その数倍もの広さがあると思われる「湖の庭園」や、
この国が抱える全官吏が一度に入っても、まだ空席があるのではないかと思われる「大食堂」・・・
更には、国内で定める法律を決める、重要な会議などを執り行う部屋―――それらを横目で見ながらも、世間には未だ自分も知らない事が沢山ある事を思い知らされるのです。
マ:いっやぁ〜〜―――それにしても、10年経っても変わんないモンだね・・・ここは。
ラ:全くだ―――偶には戻ってきたりするもんですなぁ・・・侯爵様。
リ:そ・・・それより〜〜こんな大層な処にお住まいの〜〜あんた達の主―――って・・・一体何者・・・
マ:ん〜〜? 気になるかね・・・そだね―――ま、そのお方は、そんな呼ばれ方をされるのは、あんまし好きじゃないみたいなんだけどさ、
この国を統べるからには、他に相応しい呼び方が浮かばなくってさぁ〜〜―――
リ:だから〜! そんな勿体つけなくてもいいだろうよ―――誰なのさ・・・一体。
すると、ラスネールの口から、余り彼に似つかわしくない重厚な口調で、こう呼んだのです―――・・・
第九話;大皇
リ:え? オオ―――キミ・・・?
ラ:総ての王たる者の頂点に立ち・・・やがては総てを統治する者―――の、意味らしいんだがな・・・
マ:ニャハハ〜♪ そんな呼ばれ方があんまし好きくなくっても、この国治めちゃってる〜〜ってことは―――
リ:本当の処は・・・自分でもそう呼ばれるのが気に入ってるから―――?
マ:違うよぉ〜! う〜ん・・・あんまし大きい声では云えないんだけどさ―――ホントは、そんなのやりたくなかったんだよ・・・
リ:は? なにそれ・・・訳わかんない―――だったらなんで・・・
ラ:いなかったのさ―――さっきワシが云った事を、やってのけれるだけの人物が・・・な。
それに、あの方が上に立たなきゃ、またこの国は千々に乱れちまう―――そうやって周囲りの連中が説き伏せてくれたお蔭で、この国はこんなにも平和になっているのさ。
なんとも仰々過ぎる呼ばれ方に権限―――そしてこんなにまで絢爛豪華な住まいを与えられているのにも拘らず、
その「大皇」なる人物は、機会さえ見つかれば、すぐにでも現在就いている地位を放棄したいとさえ願っていた・・・
ならば、どうしてそんなにまでやりたくない事を、無理矢理させられようとしているのか―――その明確な答えは、ラスネールからの一言が総てを物語っていました。
現在、見かけの上だけでは自分達の大陸より遥かに技術が発達し、平和を謳歌しているように見えるこの国でも・・・
過去には大変大きな戦争などがあり、各国同士が鎬を削って覇権を争い合っていた―――そんな大陸を一つに纏める大事業・・・「統一」。
総ての国家を自らの傘下に置き、一つの意思に纏める・・・「大皇」は、そんな事が唯一出来る人物だ―――と、彼の者の臣下である彼らは云うのです。
それに、それまでの「大皇」なる人物の評価を、マキやラスネールから聞き、どんな人物なのだろう・・・と、想像の内だけでその人の「像」を膨らませて行くリリア―――
そうこうしている内に、目的としていた場所―――「大皇」なる人物の、私的な空間である部屋の前に辿り着くと・・・
マ:おいっす―――久しぶりぃ〜♪ 元気してた―――? 乾ちゃん、坤ちゃん。
その部屋の前には、微として動かず―――得てして創られた像のように侍立し、不審な人間を簡単に入らせないように守護する二の門番・・・
しかもこの時、侯爵マキが親しげに敬称まで付けて呼んだものの、彼方からの反応はないままでした。
だから・・・本当に何かで出来た像なのか―――と、思い・・・近付いて覗き込んで見た処・・・
リ:・・・―――う・わ?! 目・・・目が合った―――つか、動いた??
乾:・・・侯爵様におかれましては、私共の様な身分卑しき者に声をおかけ頂き―――
坤:・・・真、恐悦至極に存じ上げる次第にございまする―――
マ:あぁん〜もぉぉ〜〜そんな畏まらなくたっていいのにさぁ〜〜・・・
たくぅ・・・そんなんだから石頭だ―――って云われるんだよぅ・・・
乾:そう云うあなた様は、もっと礼節を身につけるべきだ―――と、子爵様が云っておられました・・・。
マ:あいいぃ・・・その名前出されちゃうとな〜〜―――まあいいや、それより・・・今、内にいる?
坤:ご予定では、この時間帯ですと・・・「空中庭園」の方に出向かれ、新しい苗木の植樹をされておいでの筈です。
マ:「空中庭園」・・・あそこかぁ〜〜―――いや・・・判ったよ、ありがと。
自分の方を「じろり」と見つめる視線―――と、云うより、「像」であるはずの物体が・・・動いた?!
いや・・・けれどそれは、まさしくその像が生きている―――つまりは「生身の人間」である証しなのです。
リリアはそのことには驚きましたが、侯爵マキからの質問に淡々とした口調で答える守護者―――
その会話の内には親しさのみがありましたが、この二人がマキから話しかけられても沈黙を守り通したのは、この二人が任務に実に忠実だった事が改めて伺えられるのです。
それよりも、渦中にあるこの部屋の主にして、この城の・・・果ては一国の主であり、一つの大陸を統べる者が、現在は別の場所に身を置いていることが判ってきた・・・
しかもそれは、マキにしてみれば頭の痛かった事のようで―――・・・その理由を、渋い表情をしているマキに訊ねてみると・・・
マ:え? ああ・・・うん・・・今どこにいるのか、判るには判ったんだけどさぁ〜〜―――
リ:どうしたっての? なんか拙い事でもあるわけ?
マ:ええ〜っ?! あぁん〜〜・・・
ラ:はっはっは―――侯爵様はな、これから何層もある庭園を、隈なく探さにゃならなくなってきてる事に、ちと腐り始めているのさ。
マ:ンなこと云うなよ―――だったらパルちゃんもやんのかい。
ラ:願い下げ―――ですかなぁ、ワシはw
マ:だろ〜ね・・・ま、いいや―――ちょいと時間かかるかもしれないからさ、リリアちゃんはこの城でも散策してなよ。
この二人をして―――「億劫」と云わさしめる、「空中庭園」と呼ばれる施設・・・
しかも・・・それがどうやら、原因はその施設自体にあったのです。
リリア達が現在いる場所―――「皇城・シャクラディア」・・・その内にある「大広間」。
広さとしては、そこと比肩する「庭園」が幾層にも重なり、まるで空中に存在するかのような―――そんな、その当時としては技術の粋を集めて創られた場所・・・
しかもその施設は、「大皇」自らが設計にも携わっており、それに作業自体もほぼ・・・「大皇」自らが行っていた―――・・・
強き者を従えさせる者―――にして、草木や植物などに造詣深いと見られる、謎の人物・・・「大皇」。
その人物と見える為、リリアは異邦の地より来訪しているのです。
=続く=