意気揚々にして、エクステナー大陸の、東の最果てにあると云う、「常磐」へと旅立ったリリア一行。
その道中で、リリアは、その国の出身者である、蓮也と市子の二人から、「常磐」と云う国のあらましを、聴取したのでした。
その国の歴史・・・権力の移り変わり―――
内でも、取り分け、今回最大の「敵」と目されている、「崇徳上皇」について、じっくりと聴いたのです。
とは云え・・・当面気になるのは―――
リ:大分、今回のヤツの事は判ってきたけど・・・
先に送られた、しのやたまのヤツは、大丈夫なんだろうか。
第一ヤツは、「抜け殻」だったとしても、あれだけの異様だったんだぜ。
それを・・・以前は、どうやって―――
蓮:拙者が知る一節には、崇徳上皇は、自分に冷たく当たった朝廷を恨み、失意の上に亡くなった―――と・・・
そして、その「怨み」は、上皇を強大な「魔障」に変え、当時起きたとされる「天災」「飢饉」などは、総て上皇の「怨霊」による仕業だ・・・と、
世間では、そう解釈されていたのでござる。
市:けれど・・・あの当時の天災の総てが、故人一人の怨みによるモノだとは、甚だ疑問とする処はありましたが・・・
ですが、何分にも、やんごとなき身分の方々の云い分が、「是」となり、その様な「異論」を、差し挟む余地さえなかったのは、事実なのです。
そんなには、科学技術が発達していない―――と、云う事は、
過去に起きたとされた、数々の事象の説明のつけようがなく、
その事を、一様にして―――「怨みを遺して死んだ亡者」の「祟り」とするのには、少々当てつけがましいのでは・・・と、皆誰しもが思っていました。
しかし、如何にせよ、そのことを裏付ける、証明が為されないままでは、そんな邪推に頼るしか他はなく、
云わば、そんな迷信めいたモノを、永年信じ込まされていたモノだったのです。
しかし―――ならば・・・
なぜ、崇徳上皇は・・・いや、「ストゥク=カイエン=グワゴゼウス」は、自らが持つ、未知なる技術や異能をして、常磐を掌握しなかったのか・・・
「出来なかった」―――と、するならば、何を以て、自分の野望を、断念せざるを得なかったのか・・・
そこの処に、「論点」は集約されるのです。
とは云っても・・・所詮は、宮中での出来事―――
「封建社会」が確立している「常磐」の内では、高貴な身分の方々の考えている事は、下々の者達にしてみても、推し量るべき処ではなかったのです。
そこで思い当たるのは・・・以前まで、自分達の仲間として一緒に行動をしていた、あの人物・・・
当時の宮中で、崇徳上皇の排斥に加担したとみられる、「たまも」に聞かなければならないとはするのですが・・・
いかんせん、たまもは、先頃しのと同じく、自分達より先立って常磐へと戻っており、今や、その行方を探り当てるなど、
闇夜の中で鴉を見つけるより、困難とされていたのです。
第九十話;魔都潜入
そして・・・かれこれ、凡そ三週間の時間を要し、ようやく、常磐に入る関門に差し掛かり、
三者三様は、旅人を装い、無事、常磐入国を果たしたのです。
ところが・・・この国は既に、蓮也や市子が出奔してからの数年で、その様相を一変させているのでした。
リ:・・・なんだ、こりゃ―――これじゃ、まだ私達の国の下町の方が、まだましだぜ・・・。
市:それに・・・この町は、常磐の都である「洛中」より、かなり離れていると云うのに―――・・・ここまで、廃れていようとは・・・
蓮:拙者達が、出奔している間に、何があったのでござろうか・・・。
嘗ての・・・自分達が知っていた光景は、そこにはなく―――
淀み、穢れた瘴気が蔓延し、常緑の木々は、皆、葉を落とし・・・建物の壁や塀は、崩れたまま・・・
所謂、荒廃しきった現状の、常磐の有り様が、国境近くのこの町にも、色濃く表れているのを、目の当たりにしてしまったのです。
だからこそ、尚のこと・・・先行している、しのにたまものことが、気掛かりになってくるのですが・・・
すると、その時―――
兵:おい、貴様達・・・この国の人間では、ないようだな―――
ただでさえ、衰退が進んでいる国―――だからなのか、入出国には、殊の外厳しかった処があり、
審査の時に、「怪しい」・・・と、目をつけられ、尾行されていたのを気付かずにいた処、不意に呼び止められてしまった―――・・・
それに、自分達では、巧くやり過ごせた・・・と、思っていただけに、そうした行為は、本当に「不意」を衝かれたモノと見え、
すっかりと油断しきっていた、リリアは―――・・・
リ:あ? あ・・・あ・あ―――ち、チガウヨ? わ、ワタシャ、ココノ国の人・・・アルヨ??
背後から、唐突に声を掛けられたモノだから、動揺しきってしまい、話し言葉をおかしくしてしまった、リリアがいたのです。
それに、これでは拙い―――と、弁明をする為、振り向いたリリアが見たモノとは・・・
リ:―――つて・・・ああ〜〜っ! お前・・・ラスネール?
なぁんで、またこんな処に・・・
ラ:フフ―――お嬢のサポートをしに来た・・・と、云ってやりたいところなんだが、残念ながら、今回のワシの役割は、「伝言役」と云う奴さ。
リ:は〜〜伝言ねぇ・・・で―――誰からの、どゆこと??
侯爵・マキの下僕である、ラスネール・・・その彼が、リリア達よりも前に、常磐入りをしていたことにも驚きなのですが、
今回のリリア達の行動を予測し、予めラスネールを、この地へと出向かせていた人物も、また敬服に値するのです。
それよりも、気になるのが・・・ラスネールが、「ある人物」より、言付かっていた「内容」―――なのですが・・・
ラ:配信してるのは、今更誰だと云わんでも判るだろう・・・
それより、内容だがな―――「前に潜伏している、「子爵」様に接触を図り、指示を乞え・・・」だとさ。
リ:「子爵」?? ―――なんだか・・・マキさんと、似たような呼び方だよなぁ。
ラ:つまりは、そう云うこった―――「子爵」様も、ワシの主である「侯爵」様と、同じ一族。
だが、気をつけろ・・・その気が短いのは、お嬢以上だからな。
「失礼な事を云う奴だ・・・」とはしながらも、三人は、「子爵」に警戒を払わざるを得ませんでした。
死することなく、驚異の回復・再生能力を持つとされる、最凶の魔物・・・
それに―――詳しい事を、後に聞いた処によれば、「子爵」は、「侯爵」よりも、先んじてヴァンパイアになっており、
永らくの間は、「公爵」の跡目は、「子爵」だともされていたのです。
けれど・・・そうは、ならなかった―――・・・
現実には、須らく、「公爵」の後継者は、「侯爵」であると承認されており、そのことはまた、「子爵」からも同意を得ている、ともされていたのです。
処変わって・・・
ここは―――街道筋より離れた場所に建つ、元は、立派な寺院だと思われる建物・・・。
そんな場所で、数人が、向い合せになりながら、何やら一つの陶器に、「チンチロリン」と鳴る、二つの賽の目を巡りて、「半」「丁」と、掛け合っていたのです。
しかしながら、そう・・・それは、所謂「賭博」―――
この辺り一帯を占める、「胴元」と呼ばれる顔役が仕切り、日頃、真面目に働かない・・・「ならず者」達が集う場所。
而して、その「ならず者」達が「徒党」を組み、また新たな「任侠」の一家が生まれるのです。
そして・・・ここも、そんな場所の一つ―――
薄暗い、廃墟寸前の狭い屋内で、蝋燭の灯一つで賭け事とは・・・
最早、不健康―――もとい、狂気の沙汰の極致でもあるのです。
徒・・・そうした事が無くならないのは、そうした事の「旨み」を知っているからであり、何よりも、完全なる「需要」と「供給」が、成り立っていたからではなかったでしょうか。
けれども・・・そうした場所に集いし者と、警察機構とは、「犬猿の仲」―――
今も、この場所にて、開催されている「賭け事」を、某かの密告によって取り巻いた、「奉行所」の一隊と見られる集団が・・・
奉:―――神妙に致せい! 御用改めである!
元:やべぇ・・・奉行所の、筆頭与力のお出ましだ―――
先生―――先生!出番ですぜ!!
この時、賭場に踏み込み、取り締まったのは、常磐の副都である「穢戸」に設置されてある、「南町奉行所」の「筆頭与力」である、「鷹山冶部少輔秋定」なる人物だったのです。
片や・・・折角の客を捕えられては、一家の名折れ―――と、ばかりに、ここぞと云う時に、雇っていた「用心棒」を呼ぶ、元締めの声に、
賭場の、奥まった隅の方で、様子を窺っていた、「それ」と見られる人物が、ゆっくりと腰を上げ・・・雇われた時に交わした契約を履行する為に、
奉行所の一役人である、鷹山冶部少輔に近付いてきたのです。
しかも、この用心棒―――良く見ると、女性・・・
紺青の長髪に、琥珀の眸・・・整った貌なれど―――危険な香りを漂わせる・・・
そんな人物だったのです。
=続く=