自分の父親を、殺した憎い仇敵(か た き)―――

その者が、また常磐に戻っている事を知り、復讐者は、復讐の刃を研ぐと共に、

更なる詳しい場所を割り出す為の、調査を欠かす事はありませんでした。

 

しかし・・・それは、云ってしまえば「諸刃の刃」―――

 

亡父の仇を取る為、さある諜報機関を抜けた復讐者は、その機関からも命を狙われてしまう処となり、

一口に、「父の仇を取る」―――とは云っても、そんなに易くはなかったのです。

 

 

そうした中、復讐者とは知らぬ間柄―――「仲間」と認識した者達は、常磐に集結していたのです。

 

今も、何者からかの計らいにより、手助けをしてくれると云う「子爵」に会う為、

なぜか、その人物が現在居ると云う、「南町奉行所」の「地下牢」を訪ねようとする一行が・・・

 

そして、その一報は、同奉行所に勤めている、「筆頭与力」の耳にも入る処となり・・・

 

 

 

与:―――あっ、鷹山さん、鷹山さん!

秋:―――どうしたい・・・ちゃんと働いてるぜ?

 

与:そうじゃないんですよ・・・なんでも、あなたを訪ねて、浪人風の男が・・・

秋:(浪人?)・・・悪ぃが、士官の口利きをしてやれる程、閑じゃねえんだ。

  他を当たってくんない―――と、その御仁に、丁重にお断りをしといてくれ。

 

与:ところがですね・・・その、浪人風の男―――

  よく見れば、九曜巴紋をつけてたみたいで・・・

秋:なぁにぃ?!(「九曜」の「巴」・・・)

  ―――まさか??

 

 

 

調べ物も一段落ついた処で、床に寝そべって、何事かを考えている仕草をしていた、その人物の態様(たいよう)に、苦言を(てい)しに来たと思われた、同僚の与力・・・

しかし、同僚の与力は、そうする為に、その人物を探していたのではなく、その人物を訪ねて、浪人風の男が来ている事を知らせたのです。

 

そのことに、その人物―――「鷹山冶部少輔秋定(たかやまじぶしょうゆうときさだ)」は、自分を頼って奉行所に来た、浪人風の男に対し、飽くまで居留守を使おう―――と、したのですが・・・

自身に、身に覚えのある風体(ふうてい)である事を知り、急に会う決心をしたのです。

 

そして、その浪人風の男を待たせてある、奉行所の門前まで出てみると―――・・・

 

 

 

秋:(やはり!)お前だったか―――蓮也!!

蓮:久しぶりだな。

  なんでも、聞くには―――目出度く筆頭与力に昇進したと云うではないか。

 

秋:けっ、よせやい―――逆に、面倒な事を押し付けられる機会が増えたってもんだよ。

 

 

 

二人の会話を聞くうちに、この二人が親しき仲である事を、知って行く連れの女二人・・・

それにしてもやはり、秋定(ときさだ)と蓮也の二人は、互いが昔からよく知る間柄だったようです。

それは、さておき―――

 

 

 

秋:ところで、お主より先に、武者修行に出た(たける)のヤツはどうした。

  まだ会えてないのか?

蓮:・・・それが―――

 

 

 

やはり―――親しき仲だから、その事を聞いてくるモノだとは思っていました。

だから蓮也は、言葉を濁しながらも、事実を伝えたのです。

 

すると、秋定(ときさだ)は―――

 

 

 

秋:・・・そうか、どうやら、つまらねえ事を聞いちまったみたいだな―――

  ところで・・・お主にしてみればは、(えら)く羽振りがよさそうじゃないか。

蓮:秋定(ときさだ)・・・そなたが、何をどう思っておるかは知らぬが―――

  このお二方は、(それがし)と、そう云う関係にはない。

  こちらの方は、リリア殿―――拙者と、武の練達を競う為、寝食を共にしている御仁にござる。

  そして、こちらの方は・・・細川の分家筋が息女、市子殿にござる。

 

秋:(!!)なに・・・細川―――?!

 

 

 

恐らくは、三人とも・・・武芸の腕前を競ってきたのでしょう。

そうした、同じ志の仲間が、既に亡くなってしまっていた事に、「つまらない事を聞いた」と、言葉を濁す秋定(ときさだ)ではありましたが、

すぐに話題を切り替え、自分が知る上でも、異性との交流に疎かった友の、現在の状況を(かんが)みて、囃したてる場面もあったのです。

 

しかし、そこを蓮也は―――自分達三人が、睦み合う仲である事を否定し、

秋定(ときさだ)もまた、「相も変わらず、難苦(かたくる)しい事を抜かす奴」と思った処で、市子の事を紹介された時、

(わず)かに秋定(ときさだ)の表情が曇ったのを、市子は見逃さなかったのです。

 

しかも―――「秋定(ときさだ)の表情が曇った」と云うのも・・・

 

 

 

市:私は、既に細川とは縁を切った身にございます。

  とは云え・・・先程の、鷹山様の表情―――既に関係のないとは云え、一度は細川の家に生まれたこの身・・・気になってきます・・・

  そこで、願わくば・・・お教えしてはくれませぬでしょうか。

 

 

 

常磐の名家である「細川家」に産まれても、そこで何があったかは、余り知られてはいない―――

けれど、結果としては、市子は生家と絶縁し、現在では、「テラ国」の一家臣として収まっているのです。

 

 

第九十二話;明かされゆく事実

 

 

そうは云っても、秋定(ときさだ)の表情が、余りにも神妙だったために、流石の市子も気にはなってきたようで、

そこで、「細川家」に何があったのか―――聞いてみる事にしたのです。

 

すると、秋定(ときさだ)の口からは、ある意外な事実が・・・

 

 

 

秋:いやさ・・・な―――実は、ここ数日前、細川宗家本宅が、何者かに襲われたんだと。

  それに、現惣領も行方知れずとなるし・・・

  それと―――これは、ここだけの話しなんだがな・・・おいらの仲間内じゃ、その襲った「何者」か・・・

  それがどうも、「崇徳上皇」の仕業じゃねえか・・・って、話しで持ちきりなんだ。

  ま・・・事の定かは、現地へと赴いてみなけりゃ、なんとも云えねえけど・・・な。

 

 

 

その「事実」とは、市子の家元である、「細川宗家」―――そこが、得体の知れない何者かによって、襲撃・壊滅されせれた報なのでした。

その事実に、流石の市子も動揺せざるを得ませんでしたが、何分(なにぶん)にも秋定(ときさだ)の話しは、「噂の域」を出るモノではなく、

それでも、秋定(ときさだ)の属している、ある「お役目」の仲間内では、「ある存在」のことが、(まこと)しやかに囁かれ出していたのです。

 

それが、「崇徳上皇」―――

 

ですが、それも今となっては、「ストゥク=カイエン=グワゴゼウス」と、同一の存在である事を知っている者達の胸中は、さぞかし穏やかではなかった事でしょう。

 

とは云え、当初の―――「ここ」へと来た目的を果たす為、秋定(ときさだ)立ち会いの下、

地下牢に収容されている、「ある人物」に会う為、その場所へと赴いてみた処・・・

 

 

 

小:ようやく来たかい―――南の評議員さん。

リ:あっ―――あんたは・・・サヤさん??

  するってと・・・「子爵」ってのは、あんたのことだったのか?

 

サ:そうだよ―――っと・・・

  じゃ、こっから出る事にするわ、世話んなったな、秋定(ときさだ)

 

 

 

初見の人物が、地下牢に収容されている人物の事を知っていたのにも驚かされましたが、

秋定(ときさだ)がまだ驚いたのには、地下牢に収容されている人物―――サヤは・・・頑丈な錠前や、格子があるにも拘わらず・・・難なく―――

 

 

 

秋:あっ?! あっ・あっ・あ・・・なんてこった―――すり抜けちまいやがった・・・

  小夜―――お前ぇ・・・

サ:へへ―――悪いのな。

  ま、そこんとこの入り組んだ事情は、また今度だ・・・

  今は、取り分け急いでやらなくちゃならん事があるもんで―――な・・・。

 

 

 

牢屋の出入り口に設置してある、格子も錠前も、開けることなく・・・また壊す事もなく―――

すり抜ける・・・と、云うよりかは、「人間」であるはずのサヤの肉体が、牢屋の材と同化し、やがては外へ・・・

 

この現象を目の当たりにし、秋定(ときさだ)は、とても人間業だとは思えなかった―――

まるで、自分のもう一つの「お役目」・・・「妖改方(あやかしあらためがた)」の「人別帖」―――「妖魎御定書(ようりょうおさだめがき)」に載っている、人外の連中の仕業のように思えたのです。

 

そんな、放心状態の秋定(ときさだ)を余所に、サヤは、自身でも云っていたように、「取り分け急いで」―――

つまりは、その場で、「ある情報」を、リリア達に知らせたのです。

 

 

 

リ:なんだって・・・しのと、「カイエン」てヤツの、居場所が特定できたのか。

サ:ああ―――ここ数日の動向を探っていたら、「カイエン」とかいう奴は、十中の十、都の「洛中」に根を張っている・・・。

  それとあと、しのと云う嬢ちゃんの事なんだが・・・奴が張っている結界の(なか)に潜み、ひたすら隙を窺っているみたいだ。

 

市:なんと無謀な―――あのような、凶悪な「魔障」の、結界の内側で・・・

サ:そこは、どうやら違うみたいだ―――ほら、なんでも、あの嬢ちゃんには、強力な助っ人が付いているって云うじゃないか。

蓮:玉藻前殿・・・

 

 

 

次から次へと出てくる新事実に、リリア達は耳を傾けないわけにはいきませんでした。

が―――・・・その、リリア達以上に、耳を・・・()してや、洞察を研ぎ澄まして聞き入っていた人物が、そこにはいたのです。

 

とは云え、そんな事は露ほども知らないリリア達は、仲間であるしのとたまもに、加勢する段取りを決め・・・

 

 

 

サ:ま―――そうは云っても、今夜辺りがヤマだろうな・・・。

  夜陰に乗じて相手を仕留めるのは、定石だからな・・・。

蓮:しかし―――「闇」はまた、妖物を活性させるとも、聞き及びまするが・・・算段は、如何ほどに。

 

サ:そこは、考えてあるさ―――・・・

 

 

 

命を()る―――存在を滅する・・・には、夜の闇は、これ程都合のよい状況はなく、絶好の好機だとも云えるのですが・・・

反面、蓮也も云っていたように、そうした状況は、「妖」―――人外にとっては、能力などが底上げされ、最大限の威力を活かしてくる畏れもあったのです。

 

その事に、こちらも体制を万全に整えるべきだ―――との声が上がるのですが、

「子爵」は、「大丈夫だ―――」と、云うばかり・・・

しかし市子には、その言葉が、どうしても違って聞こえて、仕方ならなかったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと