自分の昔馴染みが―――同じくして、自分が所属している、もう一つの秘密組織・・・「妖改方(あやかしあらためがた)」の記した、「妖魎御定書(ようりょうおさだめがき)」の、

それも「最重要」「機密事項」に匹敵する妖物と一緒にいる事を、鷹山秋定(たかやまときさだ)は憂慮したのです。

 

「金毛白面九尾」・・・またの名を、「玉藻前」と呼ばれる、常磐の有史以来、「最大の悪」とされた、「三大悪妖怪」の一人が、

なぜ、同じ「三大悪妖怪」の一人である、「崇徳上皇」と対立しているのか・・・

そこは、秋定(ときさだ)でも、予測の範疇を越えるモノではありませんでした。

 

それに、秋定(ときさだ)は、自身が単独にて行動することは、決して許される事ではない事を、よく心得ており、

しかしそれが、「組織」「集団」単位で動かなければならない、「お役所勤め」の長所でもあり、短所でもあったのです。

 

 

ともあれ、リリア達は、「仲間」である、しのやたまも達を救援する為の準備を整え、宵闇の刻を待ったのです。

 

そして、常磐の都・・・嘗ては、「華の都」とまで讃えられていた、洛中に入った一行の見たモノとは・・・

 

 

 

リ:なんだか・・・色んな意味で凄いのな―――

  ここが、本当に常磐の「都」なのか??

市:その通りですが・・・それにしても、ここまで様変わりをしていたとは。

  とてもではありませんが、直視できません。

蓮:しかし、これも(ひとえ)に、凶悪なる「魔障」の仕業によるモノでござろう。

  彼の者を、退治出来れば、あるいは・・・

 

 

 

本来、「都」とは、華やいだ場所であり、その国の本来の影響力を、そのまま反映している場所でもあったのです。

 

ですが、今の常磐の都は・・・瓦礫が山のように積まれ、人か・・・果ては、獣のモノとも判らぬ、生乾きの生物(しょうぶつ)の死骸が、至る所に目につく有り様となっていたのです。

 

その惨状に、市子でなくとも、眼を背けたくなってくるのですが、そうも云っていられない現状でもあるので、先を急ぐと、なんとそこには―――・・・

 

 

 

秋:いよう、遅かったじゃねえか―――待ちくたびれちまったぜ。

 

蓮:秋定(ときさだ)・・・お主、いつの間に―――

サ:それより、いいのかい・・・私らより、早く着いてた―――ってことは、上の方にも云ってやしねえんだろ。

  知らねえぜ〜? あとでどやされても―――・・・

 

秋:フン・・・そんなこたぁ、今更云われるまでもねえ! (もと)より覚悟のうえよ!!

 

 

 

信じ難い事に、鷹山秋定(たかやまときさだ)が、自分たちよりも先んじて、洛中入りをしていたのです。

しかも、秋定(ときさだ)自身、「(はら)(くく)った」・・・いわゆる、覚悟の上での行動であるとみられ、既に、出仕の際に使われる、自分の名を記した木札を持参していたのです。

 

それにしても、どうして・・・折角苦労をして、出世をしたのだろうに・・・役目を免じてまで、自分達に肩入れする道理が、リリア達には判りませんでした。

ですが、秋定(ときさだ)は何も、リリア達には肩入れなどしてはいなかったのです。

(そこの処は、追々(おいおい)判ってくるのですが・・・)

 

 

時に、しのは―――頃合いを見計らい、自分を塊閻(かいえん)の結界の(なか)に入れ、匿ってくれたたまもに別離(わ か)れを告げると、亡父の仇敵(か た き)のいる「太極殿」を目指すのでした。

 

そんな・・・復讐者の娘の―――姿を、たまもは、どんな目で見送ったのでしょう・・・

(なか)ば、(かな)わぬとは知りながらも・・・ひょっとすると、亡き父の(あとをおわ)せるため―――?

けれども、本当の処など、誰も知る由などないのです。

ただ、知るのは・・・たまも本人のみ―――今は、幼き身に、潜ませる憂いや(おもんばか)りなどは、余人の知る処ではなかったのです。

 

 

第九十三話;名を()ぐる(ことわり)

 

 

そんな中、リリア達が、「崇徳上皇」・・・「ストゥク=カイエン=グワゴゼウス」が、自身の力を取り戻す為、洛中にある宮殿の、「太極殿」に巣食っている事を、

「子爵」であるサヤから知らされ、その場に踏み入ってみれば・・・そこでは既に、「何者」かが、塊閻(かいえん)と斬り結んでいるのでした。

 

しかも、その「何者」かとは、最早疑いようもなく―――・・・

 

 

 

リ:あっ、あれは―――しの!

  あいつ、無茶しやがる・・・やっぱ刺し違えるつもりでいたんだな。

市:では・・・その事を知りながら、玉藻前様は・・・。

 

リ:見損なったぜ、たまのやつ・・・

  このまま、しのだけを―――って、おい?!!

 

 

 

やはり、その「何者」かとは、加東紫乃でした。

それによく見てみれば、協力者であるたまもの姿は見えず、あたら「見殺し」のようにも見えたのです。

 

でもそれは、少し違っていました。

 

この時しのが、普段通りに動けていたのは、この・・・塊閻(かいえん)の結界内で、たまもが、塊閻(かいえん)からの影響力を、半永久的に「相殺(そうさい)」する加持祈祷を行っていたから・・・

 

ならば、リリア達は―――と、思うのですが、彼女達の場合は、「子爵」であるサヤが、その役割を担っていたのです。

これにより、なぜサヤが、リリアと共に行動をしたのか、それと、誰からの命により動いていたのかが、朧げながらに判ってくると云うモノ・・・

それに、サヤは「ヴァンパイア」の一族・・・「闇」を統べ、強力な魔力を抱き、不死の身体を持つとされる「魔族」・・・

 

とは云え、そんな理由が判らなかったにしても、自分達の秘密組織が要注意をしている、妖物の結界内に入っても、自由が利くことを認識した秋定(ときさだ)は、

リリアが制止する声すらも聞かずに、一目散に「三大悪妖怪」の一人と対峙している、しのの(もと)へと駆け寄ったのです。

 

 

 

秋:お―――い、しのぉ〜〜!!

 

し:・・・え?(この声―――)

  ・・・(せん)ちゃん??

 

 

 

鷹山冶部少輔秋定(たかやまじぶしょうゆうときさだ)―――幼名を、蝉助(せんのすけ)と呼ばれていました。

けれど、そんなモノは、秋定(ときさだ)の事を幼い時分(じ ぶ ん)から知る者しか、知らない事実であり、その事は、斯く云う蓮也もその一人でもあったのです。

 

では・・・そんな名を、知るしのも―――

 

 

実は、しのは、幼い時分(じ ぶ ん)に、鷹山家へ奉公に出されていた時期がありました。

でも、当時・・・しのの父である加東段蔵は、常磐を荒らし回る大盗賊の頭領として知られており、

奉行所も、彼の捕縛に、血眼になって躍起になっていた頃でもあったのです。

 

そんな時に・・・なぜ段蔵は、愛娘であるしのを、鷹山家へと奉公に出したのか・・・

また、鷹山家も、なぜしのを、大盗賊の娘であると云う事を知りながら、預かったのか・・・

 

その事実は、今や知るべくもないのです―――が・・・

彼ら二人が、その時分(じ ぶ ん)に出会い、「想い」を馳せ逢っていたのは、どうやら事実のようで・・・

 

 

 

し:(せん)ちゃん・・・ダメだよ、ボク―――やっぱり、敵いそうもない・・・お(とう)の仇なんて、取れそうにないよ・・・

  だから―――助けてよ・・・

 

秋:・・・「助けてよ」?

  莫迦云ってるんじゃねえ―――云われなくても助けるよ、だからこそ、ここへと来てやったんじゃねえか。

  それに、お前ぇは―――・・・

 

し:うん・・・そうだよね、ボクがお(とう)の仇を取らなきゃ、誰が・・・

  ゴメン―――弱気になんか、なっちゃったりして・・・それに、ボクは、鷹山家お庭番、加東段蔵の娘・・・

  そして、お(とう)の名は―――第17代加東段蔵は、このボクが継ぐんだ!!

 

秋:へっへっ―――云うようになったじゃねえか・・・それでこそしのだ。

  なら、いつものように、合力(ごうりき)してヤツにひと泡吹かせるぞ!!

し:―――うん!!

 

 

 

市子や・・・蓮也でさえも知られざる事実―――

それは、当時の常磐を騒がせた、大盗賊であり、九魔忍軍の頭領でもあった、加東段蔵―――

その彼の、もう一つの顔・・・それが、「鷹山家お庭番」としてのお役目だったのです。

 

大店(おおだな)や武家屋敷に押し入り、金品などを強奪する半面、「将軍」に盾突こうとする勢力の情報を、奉行所勤めの鷹山家に提供していたのです。

 

そのことで、鷹山家は株を上げる一方でしたが、この事は、同時に・・・同業者である「盗賊」や「忍」達の動きも筒抜けになることであり、

宜しく「九魔一族」・・・果ては、盗賊連中からも、命を狙われる羽目になってしまったのです。

 

―――と・・・ここまでくれば、謎めいていた段蔵の死の真相も、いくらか判って来ようと云うモノ・・・

確かに、段蔵の命を奪った「実行犯」は、「塊閻(かいえん)」かもしれませんが・・・

当時、段蔵を恨んでいた連中との、利害関係が一致したとなれば・・・

 

それよりも今は、憎き亡父の仇敵(か た き)を前にし、しのは、更なる復讐の炎を、燃え栄えさせていたのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと