二人は、幼少の頃に知り合い、共に想いを馳せ逢った仲でした・・・。
だからこそ、そんな二人が力を合わせ、協力し合えば、どんな敵でも敵う者などいないのです。
秋:はっ!よくも、おいらの可愛いしのを、可愛がってくれたなぁ、塊閻! いやさ、崇徳上皇!
このお礼は、たんまりとしてやるからなぁ・・・覚悟しろい!
し:恥ずかしいよ・・・蝉ちゃん。
でも、嬉しい・・・ボクの事を、そんなにも思ってくれてたなんて―――
だから、征ける・・・今こそこの刃、塊閻に届けてみせる!!
そう云うと、紫の電光を身に纏い、「紫電」の術を行使し始めるしの。
それと共に、秋定も、自身が修めた、「ある流派」の構えをとったのです。
その、「ある流派」こそ―――
市:あの「構え」は―――!!
蓮:お気付きになられたか、市子殿・・・。
いかにも、秋定が修めた流派こそ、古今に比類なき、並ぶ者さえいないと云われた「大武辺者」―――「前田慶次郎利益」が考案したる、「穀蔵院一刀流」・・・!!
これで、或いは・・・
秋:残念ながら・・・そんなに、巧く行くとは思ってやしねえよ―――
なにしろヤツは、伝説にまでなる妖物だからなぁ・・・「あわよくば」―――なんて、思ってもいやしねえ。
以前、退けさせた「欠片」が、抜け殻だと判る位に、自分達の目の前にはだかる異妖は、手強そうに見えました。
身の丈は、まるで小山を思わせるように巨く、古代の妖物「八岐大蛇」を連想させるかのように、太く巨く長い・・・とぐろを巻いている身体、
神仏の内でも、「夜叉」の類に属し、特に戦闘能力の特化した「阿修羅」の様に、複数の腕を持つ存在・・・
それが「塊閻」の―――「大怨霊」「大魔障」と成り果てた、「崇徳上皇」の正体だったのです。
第九十四話;撤退
すると、自分に刃向う勢が揃った事を知覚し始めた、「三大悪妖怪」の一人に、ある変化が・・・
塊:フン・・・有象無象共が、集まりおったか・・・
だが―――オレの野望を邪魔するとあれば、踏み潰すまで・・・
而して、その「変化」とは、著しいモノでありました。
それと云うのも、先程までの、巨大な化生の態より、一挙に集約し始め、
これから、目障りな者達を一掃する為に、最も動き易い形態・・・つまり、「人型大」の大きさになったのです。
しかも、この危険性を認識したのは、ある「お役目」によって、「崇徳上皇」の事を知っていた、秋定だけではなく・・・
サ:(ち・・・随分と、予定を早めてきやがったな―――
なら、仕様がない、ここは予め云われていた通り・・・)
「子爵」サヤは、今回の行動に、及ぶに先立ち、「ある人物」から、頼まれていた事がありました。
その「頼まれ事」とは、「さある者の正体の解明」と、その者が、本来の姿を曝け出した時・・・
それはそうと、秋定も、「妖改方」の「評定」で、知っていただけに、人間の姿に戻った「崇徳上皇」―――ストゥク=カイエン=グワゴゼウスの姿を見たとき・・・
秋:やぁべえ―――ここは一先ず、ずらかるぜ!!
リ:ぁあ? なんだよ、それ・・・それじゃ、ここへと来た意味が―――
秋:バカヤロウ! あの、化生ん時の姿は「仮」だ!
あの優男―――人間の姿に戻った時が、一番ヤベえんだ・・・と、「妖魎御定書」にも、そう書いてあったんだ。
だが・・・ありゃあ、書かれていた以上のモンだぜ・・・。
塊:フン・・・目障りだぞ、消え失せよ―――・・・
それは・・・「戯れ」―――
戯れに、空を手で扇いだだけ・・・
「それだけ」なのに―――突風並みの、風当たりを感じました。
しかしそれは、本来ならば、全員が全員―――吹き飛ばされても可笑しくはなかったのに、
その「突風」を、防ぐ事の出来る人物が、二人いたお陰で、全員が無事に居られたのです。
それよりも、その「二人の人物」とは・・・?
サ:ふぃ〜〜・・・助かった―――間一髪だったよ。
私一人じゃ、心許なかったんだけど・・・やればできるじゃん。
リ:ふひ〜〜ふひ〜〜 で・・・出た??
つーより・・・本当に私達がピンチにならないと出てこないコレ・・・って、燃費悪過ぎ。
蓮:ですが・・・また、リリア殿のお陰で助かったでござる。
それにここは、一致団結して、一気に斃すべきかと。
ヴァンパイア独自の魔術、「裏面式」を用い、防御の陣を形成したサヤと、
自らが修得していた、「完全防御」の特異能力―――「晄楯」により、またも全員を護る事が出来た、リリア・・・
この二人のお陰で、「崇徳上皇」の、討伐の道が開けた―――と、思えるのですが・・・
サ:待ちな―――あんた達ほどの人間が、判らないわけじゃないだろう。
市:・・・ならば、どうしようと―――
サ:決まってんだろ、「逃げる」のさ。
そこの旦那も、同じ事を考えてるはずさ・・・。
手前の大事な女を、救った後にどうするか・・・「三十六計、逃げるに如かず」―――
お前が、大事な職務を放り出して、こんな処に居る・・・って云うのは、とどのつまりはそう云うこったろ―――秋定。
秋:へっ・・・見透かしてやがったか、流石に油断のならねえ野郎だ・・・。
で・・・どんな算段で、この場からふける気だったんだ―――小夜・・・
サ:なぁに、簡単なことよ―――形成した、この陣を転化させ・・・おわっ!?
塊:むざむざ逃がすものと思っていたのか―――オレのこの姿・・・見た者は、死あるべし!!
サ:やあっべえじゃあん??! あいつ・・・思ってたより―――・・・
なんとも、間の抜けた話しで・・・
自分達が逃げ出す算段を、相手の目の前で話してしまったモノだから、相手は、陣の崩壊を狙ってきたのです。
そして、相手の思惑通り、陣は崩壊し、これにより、進退窮まったか・・・と、思われた時―――
サ:・・・てな風に、私が動揺したら、さぞかしお前は、図に乗ってくるだろうな―――
相も変わらず、進歩のねえ野郎だ・・・時間が経ったから、ちったぁマシになったかと思ってたが・・・すっかり当てが外れちまったよ。
ここは、「あの人」の云う様に、「あの人」に任せた方がよさそうだ・・・
塊:・・・なんだと? なんだ、それは―――
それではまるで、以前オレと会っていたかのような、口ぶりではないか・・・
秋:おい―――ちょっ・・・待てよ、小夜・・・お前、なに云ってるんだ??
こいつが―――「塊閻」が・・・「崇徳上皇」が暴れてたのは、今から・・・400年以上も前の話し―――なんだぜ??
それを、なぜ・・・お前―――(!!)
まさか・・・その時―――こいつを討伐する為に、出た軍の内にいたって云う・・・「謎の剣士」が―――
サ:違ぇよ―――
そんなの、お前らんとこのお偉いさんが、自分達の都合よく編纂した、書き物の件だろうが―――
だけどよ・・・近からずとも、遠からじ―――てなことだ。
この後の始末の事は、私を「確認」の役目の為に、この地へと派遣した人が、してくれる・・・
だから―――私の役目はここまで・・・「また」討ち損なって、残念だぜ・・・グワゴゼウス―――
なんとも・・・謎めいた、サヤの言動―――
彼女の言葉は、以前にも、塊閻―――ストゥク=カイエン=グワゴゼウスと、会っていた事を臭わせるモノであり、
また、秋定の方も、塊閻―――崇徳上皇が、如何にして封じられたか・・・その顛末の事を記した文書の事を、思い出していたのでした。
そう・・・あれは確か―――上皇が流された「讃岐」の地に、不吉な光が落ちて、その後、すぐに上皇が「大怨霊」となって、都「洛中」を襲ってきた・・・
その事を、当時の「天皇」であった「後白河」は、自分達に恨みを遺して逝った上皇を畏れ、すぐさま討伐の軍が編成されたモノだったのでしたが、
敢え無く、その討伐軍は、たった一人を遺して「壊滅」―――・・・
しかし、その「たった一人」の、「謎の剣士」によって、上皇は封じられ、
400年以上たった現在、その封の効力が弱まり、こうしてまた、世に混沌を蔓延らせる為に、復活してきたのだ・・・と、されていたのです。
けれど・・・どうやら、サヤの言動を確かめて行く内に、その解釈は間違っている―――??
それに・・・「また」「討ち損なった」とは・・・??
そんな、動揺する彼らとは裏腹に、サヤによって召喚せられた人物がいました。
しかも、サヤからの言葉を聞いて行く内に、自分が尊敬している、「あの人物」だと思っていたリリアは―――
し:あれ? あの人は―――・・・
リ:ユリア・・・さん? ジョカリーヌさんじゃなくて??
ユ:ウフフ・・・ご期待に添えず、申し訳ありませんでしたが―――総ては、わたくしが描いていた、青写真の通りでしたね。
「東」の評議員・・・ユリア=フォゲットミーノット=クロイツェル――――
そう・・・サヤに、例の指令を出していたのは、この人物―――
しかも、ユリアは、「ある事件」が起こった当初、自分達が所属する、組織が抱えている問題の対処に追われていた為、
その「事件」の事に関しては、事後に知らされた経緯があったのです。
そして・・・今回の件に関わる、常磐内での「政変」―――「保元の乱」・・・
この「政変」は、後の報告で聞く限り、どうやら自分が所属する組織内の、「ある人物」の関与が、囁かれていたのです。
それに、実は、ユリアは・・・自分が暮らす「ロマリア」に、しのとたまもが舞い込んできた事に、非常に狂喜したモノでした。
それと云うのも、自分の「友」の、仇の「関係者」が、「まだ生きていた」事が知れたのだから・・・。
だからすぐに、自分の共有者に知らせ、鬱積している思いを雪がせるようにしたのだけれど、「あと一歩」の処で、逃れられてしまった・・・
本当の事を云えば・・・この自分が、この憎い者を、即刻この場で、捻じり殺してやりたい・・・
けれど、そうした衝動は、自分の共有者に比べると、微々たるモノの様に、思えてならなかった・・・
だからこそ―――ここは・・・
ユ:それにしても、やはり「塊閻」とは、あなたの事でしたか―――グワゴゼウス・・・。
塊:オレの名を・・・? なぜ知る―――小虫の分際で。
ユ:あらあら、わたくしのことを「小虫」ですか・・・云うようになったモノですね。
ですが、それも結構―――やがてその「虫」は、いずれ、常闇の世に輝ける一条の光となる・・・
そして、その「光」は、万世を照らしめる「暁」へ―――・・・
しかし、今はこちらから、退らせて頂きましょう。
あなたを討つに相応しいのは・・・このわたくしや、サヤさんや、況してやこの子達ですらあり得ない・・・
ですが、その前―――あなたが討たれる前に、どう云った面構えなのか、この目に収めようとしましたが・・・
・・・・・・・・。
塊:な―――なんだ!
ユ:・・・申し訳ありませんが、あまりもの印象の薄さに、記憶に残るのかさえ、定かではありません。
まあ・・・所詮、あなた達の価値なんて、その程度のモノ―――
塊:おのれ―――オレを侮辱するか!!
ユ:フフ・・・では、ご機嫌よう―――「グリフォン」のグワゴゼウス・・・
ユリアが、今回計画し、サヤに出していた指令とは。
先頃、協力を約束した、しの達の追う「塊閻」と、自分達が知る、「ある者」の「関係者」が、同一の存在ではないか・・・と、思い、
過去に、直接「彼」に会った事のあると云うサヤに、その確認と―――「彼」との接触に成功した場合、自分を召喚てくれるように頼んだのでした。
そして・・・会ってみれば・・・やはり、「違いはなかった」―――
それにやはり、「彼」は、「ある者」と深い関わりを持っていたのです。
そしてその事は、奇しくも、ユリアの別離れ際の、あの言葉に集約されていたのです。
=続く=