栄誉ある撤退―――と、云うべきか・・・いずれにしろ、目の前にいる敵と、火花を散らすことなく、退き下がったモノでしたが・・・
思ってもいなかった判断の下、しかも、半強制的に戦場を離脱した事に、強敵と闘る気満々だったリリアは、不満を漏らしていました。
その事は、しのも「そう」だろう・・・折角、亡父の仇を目の前にし、自分の意思を反映されないままに、自分達と撤退をしたのだから、
その不満は、自分以上だろう―――と、思っていたら・・・
リ:あぁ〜あ、なんか、勿体なかったよな―――それに、ユリアさんも、あの後、なんだかんだ云っときながら、結局すぐにいなくなっちゃったし・・・
それよりも、しの、残念だったな、お前の親父さんの仇を、目の前にしときながら・・・
し:うん・・・でも、本当の事を云っちゃうと、正直「ほっ」としているんです。
口では、あれだけ大きなことを云っときながら・・・あんなのを目にしちゃうと、膝が笑っちゃって・・・
怖くて―――恐ろしくて・・・今でも、震えが止まらないんです・・・。
でも―――蝉ちゃんが助けに来てくれて、ボクの為に駆け付けてくれて・・・本当に嬉しかったんです!
現在の、自分の実力では、萎縮するしかない・・・と、悔しさだけが残った反面、
昔は、自分だけが想っていた―――いわゆる、「片想い」ばかりだと思っていた相手が、自分の窮地に駆け付けてくれた事に、つい、惚気てしまったのです。
その様子に、やり場のない感情が出てきそうになるリリアを余所に、窮地から離脱した先である「堺」に場所を移し、
この間、絶えずしのを支援し続けていた「しのの協力者」に後事を託すと、ユリア自身は、何かしらの理由で、すぐにまたどこかへ転移してしまっていたのです。
そう・・・つまりそこには、たまももいたのです。
た:(やはり、無理であったか・・・だが・・・)無事で何よりじゃ。
それにしても秋定、思い切った事をしたモノじゃのう。
秋:なぁに―――いずれは、こうするつもりだったんだ。
ただ、「遅かれ」「早かれ」の違いよ。
た:だがの、お主はそうしたくとも、「中納言」は、そうはさせまいよw
秋:ち・・・「柵」ってなヤツかい、良いお家に産まれ落ちるのも、考えもんだなぁ・・・。
市:それより鷹山様、細川宗家、壊滅の報―――今一つ詳しく、お教えして頂けぬモノでしょうか。
秋:うん? う〜〜ん・・・
いや、話してやりたいところだがな、おいらも実は、あんまし突っ込んだ処までは知らされておらんのだ、済まねえな・・・。
ユリアが、撤退先に選んだ場所は、「洛中」とは、眼と鼻の先にある「堺」―――
この場にて、一時の英気を養い、また作戦を立て直す機会を見図ろうとしていたのです。
それに、市子にしても、自分の家の「宗家」が襲われ、壊滅してしまった事実を、もう少し詳しく知る為に、
その報せを最初に齎してくれた秋定から、聞こうとしたのですが・・・
秋定も、「細川宗家壊滅」の事実以外は知らされていなかったので、その事は正直に述べたのです。
ですが・・・これでは、それ以上の詳しい事が判らない―――だから、どうしたモノか・・・と、思っていたら、
実に、意外な処から、核心に迫る言葉が発せられたのです。
た:「細川」・・・か―――そう云えば、崇徳が退治され、封ぜられるときに、当時の「惣領」が関わっていたとも聞く。
だから、或いは「そう」やもしれんな・・・。
「大魔障」に堕ち、当時の常磐の人々を、恐怖の淵に追いやった「崇徳上皇」―――
そんな、人為災害を鎮めるべく、立った「討伐軍」の内に、当時の「細川家惣領」がいた事を、
やはり、当時の事を詳しく知るたまもから聞かされた時、市子は項垂れるしかありませんでした。
それに、そんな市子自身も、現在では細川家とは縁を切っており、それ以上の事は出来ずにいたのです。
それよりも・・・大事なのは、「これから」のことを、どうするのか―――話し合おうとした処に・・・
た:お主ら、崇徳と闘わずして撤退したとは云え、今はさぞや疲れておる事じゃろう。
どれ、わしが休まる処を都合してやるから、今はそこで休むがよい。
強敵と、一つの火花を散らさず退いたとは云え、精神的に疲れているだろうとの配慮から、
たまもが式神で組んだ休憩所で、戦士達は一時の安らぎを得たのでした・・・。
第九十五話;招かれし者
こうして―――その場所で一晩を明かし、心身共に回復した戦士達は、
このお礼をするべく、たまもの処へと押し掛けてみれば・・・
リ:―――あれ? なんだここ・・・昨日とは、また豪く、入口が狭いじゃないか・・・。
蓮:・・・これは―――「茶室」。
リ:は? なに?? 「チャシツ」??
市:はい・・・。
常磐では、風情を愉しみ―――趣を馳せる処・・・それに、或る意味で、「客を応接する間」でもあるのです。
昨日、立ち寄った場所とは、同じとは思えない・・・まるで違って見える、その場所―――
しかも、見た目にも違って見えました。
そう・・・異様に、出入り口が狭くなっていたのです。
そのことに、リリアは少々疑問に感じるのですが、蓮也と市子、しのと秋定の、いわゆる「常磐出身者」達は、「それ」がなんであるかを知っていました。
「風流人」が、知人や客を接待する時に、使用する場所―――
でも、これからの決戦を前に、悠長に構えていられないと、リリアは反発するのですが・・・
それでも尚、この場所は、特異な場所でもあったのです。
り:やい! こら―――たま、お前・・・
たま・・・お前―――
悠長に構えているたまもに、リリアは文句をつけようと、戸口を乱暴に開けた処・・・
すると、なんとそこには、この「茶室」にて、リリア達が来るのを待っていた者がいたのです。
そして、その者の姿を見るなり、リリアは気付くのです・・・
そう―――そこにいたのは、普段日頃の、「女児」の姿ではない・・・以前に一度、エグゼビア大陸にて、本来の姿を晒した者・・・
成熟な形をした、艶美な女性―――
而して、その女性の名を、良く知る者は、こう呼ぶのです・・・。
市:玉藻前様―――すると、ここはやはり・・・
玉:静かにしとおせ―――お主らが騒いでおっては、折角の上撰が、濁るでな・・・
なぜたまもが、本来の姿である「玉藻前」になって、この「茶室」でリリア達を待っていたのか・・・
その理由とは、簡潔にして明白―――
本来、しのの手に余る「仇討ち」を、この短い期間で心を通じ合わせた「仲間達」と合力して、成就させてやろう・・・と、云う配慮の下―――
そして、本来の姿になったのも、この一時ばかりの間に、自分で施しておいた戒めを、些か緩めたから―――
それに、実はもう一つ、理由があったからなのです。
リ:おい・・・たま―――お前、これからなにをしようと・・・
玉:結論のみを急ぐのではない。
それに、お主の胸の内、わしはよう心得ておる・・・。
リ:だったら、なんで―――!
玉:まあ、待ちとおせ・・・なにも、わしがここへと招いたのは、お主たちだけではあらじ・・・なのじゃからな。
「六合」の部屋で、5人が膝を詰めなければ、とてもではないけれど、入りきれなかった―――
それでも尚、玉藻前は、リリア達の他に、まだ「招待客」がいたとしたのです。
それにしても、今でさえ窮屈に感じるのに、これ以上窮屈にしてどうするのか―――と、そう思っていた矢先に・・・
玉:(―――来たか・・・)
入り口は開いておりまするぞ、どうぞ、入られませい。
最後の「客」が到着した―――・・・
その事を知る玉藻前から、促せる言葉がありましたが、その「客」は、容易には入ってきませんでした。
内にいる者達を、警戒しての事なのか・・・
自分が招かれた、この部屋が、存外に窮屈に感じたからなのか・・・
しかしそれは―――そのどちらでもなく・・・
実に、リリアにしてみれば、良く聞き馴染んだ事のある「声」が、この「設え」に感銘していたのです。
では・・・玉藻前が招いた「最後の客」―――とは・・・
声:ウフフ・・・これは、気の利いた事をしてくれるね。
閑静な場所に佇む、一件の庵・・・それに、これはどうだろう―――いくら身分が高くとも、必ずや頭を下げないと入れない「設え」・・・
まさに、「上莫シの設え」とは・・・気に入ったよ。
リ:(・・・この声―――)ジョカリーヌさん??
「東」「西」「南」「北」の評議員を纏める、「評議長」―――にして、「大皇」である、ジョカリーヌ=サガルマータ=ガラドリエル・・・
その彼女こそが、この「茶室」に招かれた、「最後の客」・・・に、して、「ある事件」の真相を知る「一人」でもあったのです。
=続く=