恐らく・・・ではなくとも、現在のこの地球で、一番の権力を有していたのは、四人もの評議員の上に立つ、「評議長」であり、
また、「パライソ国・大皇」であった、ジョカリーヌその人でしょう。
そんな、高貴な身分の人物でも、頭を低くしないと入れない、部屋の仕掛けに、リリアは不満を漏らしました。
けれど、当のジョカリーヌは・・・
ジ:いいんだよ、リリア―――私も、こちらの方が、幾分か気が楽だ。
それに、今回話し合う事に、「身分」は関係ないからね。
リ:ジョカリーヌ・・・さん―――
やっぱ、器量の大っきい人は、どこか云う事が違うわ・・・
玉:・・・ではよいかの、早速始めるぞ。
第九十六話;茶会
それは・・・玉藻前が主催した、ささやかなる「茶会」―――
何より、玉藻前は、さある目的を以て、催したモノでした。
それよりも先ず、「お茶」の作法・・・
適度に湧いた、茶釜の湯を、柄杓で掬い取り、予め、人数分用意しておいた其々の茶器に、お茶を淹れて「上撰」に仕立て上げたのです。
それに、招いた客、其々に用意した茶器にも、ちゃんとした意味があり、
一番親しいしのには、色付けも華やかな「磁器」を・・・
市子や蓮也や秋定には、重厚な風合いの「陶器」を・・・
そして―――リリアや、ジョカリーヌには・・・
リ:ああっ! なんだよ・・・これ! 割れてるヤツを修繕したヤツじゃんよ!!
それに・・・修すんだったら、もうちょっと、判んないように修せよ―――しかも・・・あ〜あ、ジョカリーヌさんのは、私のよりまだ酷いじゃん。
どう云うつもりなんだよ、たま! お前、この人が―――・・・
玉:騒がしい奴よ・・・「客」は、「主人」が持て成した興に、甘んじるだけで良い。
リ:「良い」・・・って、なあ―――・・・
ジ:でも、この「器」―――見かけは地味だけど、彼らのより、上品な風合いが漂っているように感じるね・・・。
ひょっとすると、君自身の「お気に入り」でもあるのかな。
リ:いいっ・・・こんなのが―――??
玉:フ・・・何もかもお見通しと見ゆる、いかが―――かな?
ジ:・・・うん―――思っていたより、いいね。
特に、この・・・お茶を飲み干したあとに覗いてきたこの子は、どこか今の君を反映しているように感じるよ。
リリアや、ジョカリーヌの茶器は、彼女達以外の「客」の様に「完品」ではなく、どこか他人前に出すのが、恥ずかしくなる様な・・・
以前、過ちて割れてしまったモノを、修繕した茶器だったのです。
リリアに出された茶器は、真っ二つに割れた後、「金」で継ぎ止めていた―――見た目でも、派手で奥ゆかしさがないモノ・・・逆に云ってしまえば、豪快そのモノ・・・
そんな、大雑把な修し方を、リリアは気に入らずにいたのです。
一方の、ジョカリーヌに出された茶器は、細かい破片に割れてはいたのですが、それもどこかリリアとは、また違った趣向のモノでした。
細かい破片の其々は、一つの茶器の「それ」ではなく、色々な茶器のモノを、掻き集めて「一つ」と成したモノ・・・
しかも、其々の破片の「個性」が、主張し合いながらも、対立し合わず、それが新たな茶器の「個性」として、惹き立たせていたのです。
つまり・・・その「茶器」は、玉藻前の感性の「集大成」であり、
また・・・ジョカリーヌも感じ入った様に、茶器の中央にて、小さな狐が、こちらを向いてお辞儀をしている姿の絵付けが為されてあった―――
この事に、現在の玉藻前の心境が現れており、この「茶会」を催した主旨も、多少なりとも酌む事が出来るのです。
玉:ジョカリーヌ殿・・・そこまで判っておられるなら、最早多くは語りませぬ。
何卒、しのに代わりて、「塊閻」を・・・崇徳を討ち参らせて下さりませ!
リ:はあ? でも・・・しのの親父さんの仇は、しの自身が討たなきゃならない―――って、お前も云ってたじゃんか。
それに、今のお前なら・・・
玉:それではいかんのじゃ!
あ奴とわしとの間には、深い因縁がある・・・
その昔、「鳥羽院」の側室で、「美福門院」と呼ばれておったわしは、さある時に、あ奴めを罠にかけて、「讃岐」へと流させたのじゃ・・・。
権力闘争の渦中とは云え、そこで、あ奴とわしとの間には、決定的な溝が生じ、結果、あ奴は「大怨霊」に成り果ててしもうた・・・
後の世に、「玉藻前」と「崇徳上皇」と「朱天童子」を纏めて、「三大悪妖怪」などと呼んでおったが、互いに和して同ずる事なぞなかったのじゃ。
それを・・・わしなんぞが、今更どの顔を下げて、あ奴に会える―――会うた処で、あ奴は昔の因縁を滾らせ、しのを殺してしまうじゃろう・・・
無論、そのことは、わしの「身勝手」であり、よう心得ておる・・・よう、心得ておるのじゃがの―――・・・
そこで語られる、玉藻前の本心―――
なぜ、彼女ほどの、強力な妖が、同じ「三大悪妖怪」の一人と、対峙し合わなかったのか・・・
玉藻前自身もまた、自分を信頼してくれている人間の娘を、むざむざと見殺しにしたくはなかった・・・
叶うならば、一緒に闘いたいモノだと、願ってはいても、自分の姿を見た時に、相手の至る行動が手に取るように判っていた為、
当初の主張とは裏腹な、しのの父親の仇を、他人に取って貰う事に決めたのです。
その為に、しのの父親の仇を、代わりに取ってくれる「人選」として、ジョカリーヌが候補に挙げられ、
現在の自分の心情の吐露と、深いお礼を込めての「伏礼」をするのですが・・・意外にも―――
ジ:なるほどね・・・君の気持は、とても良く理解出来たよ。
けれど・・・それとこれとは、別の話しだ。
君からの要請は、丁重にお断りさせて頂く。
玉:な―――なんですと? そ・・・
リ:ちょっと待ってくれよ、ジョカリーヌさん!
あんたらしくないじゃないか・・・
ジ:はて、私「らしく」ない・・・とは、どう云う意味かな、リリア―――
リ:そんなの、云われなくたって判るだろうによ―――
大体、こいつが、ここまでして頼んでるんだぜ? なのに、なぜ―――・・・
ジ:それでも、「尚」・・・だよ。
リ:(!) そん・・・な―――見損なったぜ、ジョカリーヌ!
ジ:なんとでも云いなさい。
別に私は、どうと云う事もない。
玉:・・・まさか、そなた―――
玉藻前から吐露された心情は、判らなくはない―――とはしても、それはまた別の話しだとし、玉藻前からの要請を、断ってしまったのです。
けれどリリアは、ジョカリーヌが、困った人を見て放っておく・・・と、云う、無情な事が出来る人間ではない事を知っていた為、敢えて訊き返してみたのです。
すると、ジョカリーヌは、飽くまで平静さを装いながら、リリアからの批難を牽制したのです。
その・・・彼女たち二人のやり取りを見ていて、ふと思う処となった、玉藻前は―――
玉:まさか、そなたが、この地へと来た理由・・・
ジ:フフ―――私が、ここへと来た理由なんて、知れている・・・。
ここへと来たのは、私が「そうしたい」と願ったからに他ならない。
本日のお点前とその志、有り難く頂戴申し上げました。
皆を代表して、感謝を述べましょう。
ジョカリーヌが、常磐へと来た理由―――
それは、ジョカリーヌ自身が常磐へと足を運び、「ある目的」を成就させる為に、来ている事に他ならなかったのです。
それに、玉藻前の招きに応じたのも、自分の共有者や、嘗ての部下から、推されていた事もあったから。
だから、「もののついで」と云う処もあったようです。
そして、この「茶会」に招待された客達を代表して、感謝の意を述べると、入って来た時と同じように、また、頭を低くして茶室から退室したのです。
その後・・ジョカリーヌが、常磐へと来た動機を、須らく知り得た者は―――
玉:あの方は・・・最初から、そのつもりでいたのじゃ!
わしが頼むまでもなく、あの方は、たったお一人で崇徳の奴を―――・・・
そう―――ジョカリーヌは、玉藻前から頼まれなくても、「崇徳上皇」・・・ストゥク=カイエン=グワゴゼウスと、対決するつもりでいたのです。
だから、お持て成しを受け、何かしらの「依頼」をされる云われもなかった・・・
徒、ジョカリーヌも、何かしらの「理由」で、彼の存在と、因縁を生じさせていたようなのです。
その事は、茶室に残された者達の、興味の対象に、充分に成り得たのです。
=続く=