時は中世―――架空の欧州・・・
ここに、一組の男女が旅をしていました。
女は―――歳の頃は17・8・・・顔立ち好く、均整の取れた身体つきをしていましたが、
恰好を見れば、普通一般の婦女子とは異なって見えました。
それと云うのも、自分の身体を軽装の鎧で身を固め、腰には剣を下げていた・・・
つまり、この女性は、自分が修得した武がどれほどのものか、それを見極めるため母国を離れての武者修行の旅・・・にも、見えなくもなかったのです。
片や男は―――この女性と同じ年齢か・・・とも、思いたくもなるのですが、実はそうではなく―――
かなり歳が離れており、一見するとこの二人は親子なのでは・・・とも、思えなくもなかったのです。
けれども―――結論から述べると、この二人の間には血縁関係は全くなく、けれどもとある目的のため二人は一緒に旅をしていたのです。
そうするうちに、やがて―――集落の一つを見つけ、一息つくために食事が出来るところと、雨露が凌げ眠れることが出来る場所を探すのです。
すると・・・手頃な場所を見つけ、早速本来の目的のために・・・と、その宿の中にある酒場に顔を覗かせてみたところ―――
女:やあ―――ご主人、最近はどうだね?
主:あん? なんだ・・・あんたら、見かけねぇ顔だな―――
女:そうだろうな・・・私たちは流れ者だ。
主:ははぁ〜ん、するってと―――また近くで戦争でもおっぱじめやがったかな。
女:・・・やはり、そう云うことなのか―――ここに、あまり人がいない・・・ってのは。
主:ああ―――男共は、近くの国に兵士として取り立てられちまうし、なんでもここいらでも盗賊どもがうろつきまわって、昼間でもこの有様さね。
男:お嬢―――
女:判ってる・・・。
そこでどうだろう―――ご主人、私たちを雇って貰えないものかな。
主:はぁん? ・・・お前さん、正気かい?
女:正気も正気―――なんてったって、私たち・・・つまりはそう云う事をして、世間を渡り歩いて生計を立てているんだからね。
そう・・・とどのつまり、この男女二人組は「傭兵」だったのです。
それにしてもこの時代、各列強同士が覇権を競い合い、この集落のように―――軒並み男性、それも働き盛りとして最も脂の乗った30代などは云うに及ばず、
下はこの女性と同い年から、上は男性(見かけの上では50歳後半・・・だろうか?)と同じ年齢まで、兵士として使える者達ならば手当たり次第・・・と、云う感すらあったのです。
それに・・・そんな状況は、この集落だけに限った事ではなかったことを、この女性の弁が物語っていました・・・。
昼間なのに、家の扉や窓を固く閉ざし、人っ子一人の気配すら感じられない・・・
まるで、ゴースト・タウンのような処を、これまでにもいくつも目にしてきた・・・
そのことを、口にこそは出さなかったけれど、やはりこの集落もそうなのだ―――と、思うしかなかったのです。
それにしても、綺麗な顔立ちをしているこの女性が、自分達の武の腕を見込んでもらって、その等価として金で雇われる危険な仕事をしている―――
そのことに訝しみながらも、酒場の主人も盗賊対策に―――と、この二人と契約を交わしたのです。
主:ん―――じゃ、あんたらの云っていた通り、食事と宿代はこっちもち。
それから・・・次の町までの路銀が出来れば、それでいいんだな。
女:ん、まあ〜こっちもそんなに贅沢云ってられる身分でもないしね―――
主:へっ・・・云ってくれるぜ、十分贅沢だよ。
女:えへへ・・・まあまあ―――あ、それから・・・私たち名前がまだだったね。
私の名は・・・アルディナ―――そしてこっちは、ラスネールって云うの・・・よろしくね。
二人の傭兵との契約の確認がてら、ここでようやくこの二人の名が明らかに・・・
女性の方はアルディナ―――
男性の方はラスネール―――
この、二人の癖のある男女二人が、これからこのお話しを彩ってくれるのです。
さても、この地においての最初の目的を果たした二人は、自分達が寝泊まりする部屋へと戻り・・・
ラ:・・・なあ、お嬢―――
ア:なに、どうしたの・・・
ラ:確かあいつぁ―――「若い男共は兵隊にとられていねぇ」・・・なんて、抜かしてやがったが、
その割にあいつ自身―――
ア:フフッ―――そうねぇ・・・見かけは年相応なのに・・・けど、もしかしたら意外とイッてるのかもw
ラ:そうだとは思えんけどなあ・・・
ア:考え過ぎ―――悩み過ぎると禿げるわよ・・・ラスネール。
折角、自分達からの申し出を受け入れてくれた処に、悪態を吐くこともない―――とはしながらも、
ラスネールからの忠告も、そこそこに留めておく象で盗賊たちの襲撃に備えるアルディナ・・・
すると、早くもその日の夜半過ぎに、向こう側からの反応があったのです。
皆が寝静まり、宵闇の帳が下された頃―――なるべく足音を立てないように移動をする複数の足音が・・・
それに引き換えアルディナ達は、長旅の疲れもあったからなのか、深い眠りの淵に堕ちたまま・・・
こんな時に、賊からの襲撃を受けたのではひと溜まりもないのですが・・・
悪いことは重なるもので、賊共の足音はアルディナ達が宿泊している宿の―――それも、アルディナとラルネールのそれぞれの部屋に殺到してきたのです。
それにしてもどうして―――・・・
ここの宿屋兼酒場の主人と、アルディナ達が交わした契約を・・・賊の仲間の一人が見ていた―――?
それで、彼女たちがどの部屋に泊まっているのかを、主人を脅して聞き出した―――?
それとも・・・?
しかし、それらは皆憶測ばかりで、何一つ確証に迫れるモノはなかったのです。
常に、世に真実は一つのみ・・・
今―――女が包まっている布団毎、賊の頭の短刀が貫いた・・・と、思ったら?
賊:ぬっ―――? 手応えが・・・浅い?
ア:―――かかったようね、それにしても・・・もう少しばかり泳がせておいても良かったんじゃない。
あんたたちがこの集落を襲っている―――と、私にそう思わせといて、敢えて囮を宛がわせて油断したところを・・・私ならそうするわ。
存外に、短刀から伝わる感触が、人体のそれではないことに気付いた賊の頭は、
暗闇の中からする声に驚き、慌てて背後ろを振り向くとそこには―――
昼間見たときには気付かなかった・・・
昼間、酒場で見たときには、確かに両方共に蒼碧の眸をしていたはずなのに・・・
アルディナを刺した―――と、思った宿屋兼酒場の主人が、自分の背後ろに見た者とは・・・
右が碧―――左が紅・・・と、云う、左右で違う色の眸をした女が一人・・・
賊:あ・あ・・・あああ―――お、お前は一体?!
第一話;ヘテロクロミアの女傭兵
ア:フフフッ―――この眸? 驚いたでしょ・・・そう、私の眸はヘテロクロミア―――
昼の間は太陽の加減もあって、あんたも見たように左右同じ色に見えるの・・・
でもね、どう云った理由からか、夜分には生来からの色が出てしまうみたいなのよ。
どう?気味が悪いでしょ―――そう云いなよ、楽に死なせてやるからさ。
今日会ったばかりで、傭兵としての契約を交わしたとはしても、
その女は・・・宿屋兼酒場の主人に扮した賊の頭を殺すのに、躊躇しませんでした。
それに、残った賊の一味も―――なんら容赦することなく・・・平等に死の制裁を加えたのです。
そしてそれは、もう一方のラスネールでも同じこと・・・
自分の随伴者であるアルディナの無事を確認するため、部屋を覗いたところ―――・・・
ラ:お嬢―――
ア:おっ・・・あんたんところも終わったようね。
なら、今回請け負ったお仕事は完遂―――早めにここの人たちに知らせてやらないとね・・・。
実を云うと―――アルディナ達がこの集落に来た理由は、たった一つだけ・・・
それは、元々のここの住民に―――自分達の集落が賊に丸ごと占拠され、自分達を追い出してしまったから、どうにかして欲しいのだと云う・・・
その依頼をアルディナは引き受け、ラスネールと示し合わせたうえで、賊の殲滅を図った・・・と、云うのです。
こうして、請け負った依頼完遂の報告を、この集落から5k離れた別の集落に身を潜ませている元住民たちに伝えると、
彼女たちはまた別の地へと旅立っていくのでした。
=続く=