暴:こっ―――こん畜生〜! お、覚えてやがれ!!

ア:あっははは―――次からはママンも一緒に連れてきな!

 

 

 

最初は手に武器を持ってはいませんでしたが、次々と彼女のために援軍が現れ、

結局の処―――凄腕の傭兵仲間と、女座頭のお陰もあり、ならず者たちは呆気なく蹴散らされてしまいました。

 

こんな白昼往来に、物騒とも思える剣劇が展開され―――その興奮の坩堝(るつぼ)が鎮まりかけた頃合いを見計らい、

市子は取るものも取り敢えず、アルディナ達の寝泊まる宿に立ち寄ることにしたのです。

 

第七話;サライ

 

ラ:ヤレヤレ―――今回はどうにかなったからいいが、少しは自重してくれよ・・・お嬢。

ア:判ってるってよぉ―――今度からは気をつけるって。

市:それより・・・またあなたと会えるなんて―――こう云ったこともあるモノなんですね。

 

ア:ああそうそう―――市子には感謝してるよ。

  あそこで市子が現れてくれなかったら、今頃私は殺されていたことだろう。

市:(それ以前の危険もあったとは思うのですが・・・)

 

 

 

しばしの再会に胸熱くなる両名―――

しかし、なぜ二人が再会を果たせたのか・・・詰まる所、気になるのはそこになるのです。

 

すると、ラスネールからの言葉で、アルディナ達が今回この町に寄った目的が明らかになってきたのです。

 

 

 

ラ:それよりもお嬢・・・こいつが例の金だ。

ア:はあ? こんだけしかならなかったの? 参ったなぁ・・・

市:―――あの、どうかされたのです?

 

ア:いや〜・・・今私達食うに困ってるんだよ。

  だからこの剣に付いている飾りの一つを換金してみたんだけどさ・・・渡世って結構世知辛(せちがら)いのな。

 

 

 

目的の第一として掲げられるべきは、早急な路銀の確保―――

当面の間仕事の依頼を請け負うまでは、この宿の賃など・・・生活面でのお金の工面が最重要課題項目のようで、

その手っ取り早い手段の一つとして、アルディナの得物である剣に付いている飾りの一つを、換金できる所へと持って行ってみたまでは良かったのですが・・・

これが思うようにならない結果に収まり、アルディナも肩を落とすしかなかったのです。

 

そこで―――これから当面の生活費の工面をどうするべきか・・・の、検討会を開いてみるのです。

 

 

 

ラ:ヤレヤレ―――こりゃ山賊でもやった方が手っ取り早いかもしれんなぁ・・・。

市:だっ・・・ダメです! 却下―――!!

  それを私が聞いて黙っているとでも??

 

ア:あっははは―――市子の前でそれを云ってしまったのはまずかったな、ラスネール。

ラ:笑い事じゃねぇぞ・・・お嬢―――

 

ア:う〜〜ん、そうだなぁ〜〜―――でもなあ・・・

市:何か思案でもあるのですか?

 

ア:え? まあ一つだけね・・・けど、私としてはあまり気が進まないのよ。

ラ:そうは云っても・・・なあ―――お嬢・・・。

 

ア:わ〜かってるって! 仕様がない・・・あいつに頼るしかないか。

市:あいつ・・・とは?

 

ア:ん―――ほら、ここから先はサライの領土だろ、そこの姫・・・今は女王さんだっけか、そいつにお金を借りに行くの。

市:・・・・・・・え・え・え〜〜っ!!

  あ―――あの・・・アルディナさん?? あなた今―――自分の云っていること・・・

 

ア:ああ〜判ってんよ、あんな()な奴に頼みごとをするの〜〜って―――・・

市:そうではなくて! あなた・・・稀代の名君と噂されている、あの国の女王陛下と・・・なんの関わり合いが?

 

ア:・・・昔からの馴染みだけど?

  それにしても―――あいつって今の巷じゃそんな風に呼ばれてんの?

  嗤えるったらww

  私が知ってる昔のあいつのことを喋ったら、あの国が転覆するかもねw

 

 

 

ここで意外にも出てきたのは、(さき)のお話しにもありましたように、近くにある大国のサライに―――

しかも近年名君との噂の高い女王陛下に、お金の無心を図る・・・と、云うことだったのです。

 

しかしそんなことより、女傭兵であるアルディナが、大国の女王陛下と面識があったとは―――・・・

そのことに市子は驚いていたのです。

 

そしてまだ驚かされることに、現在では「稀代の名君」と噂されている女王陛下の・・・誰も知らないような過去のことを、この女傭兵は知っているとも云う―――

その秘密を、今にして公然にしてしまえば、サライと云う国家が転覆してしまうとさえ云う・・・まあこれは、アルディナの戯れでもあるのですが―――

 

そんな女王の秘密を握る、アルディナと云う人物―――とは、一体何者なのだろう・・・

 

市子の脳裏には、ふとそう云った疑問が浮上してきたものなのでした。

 

 

 

ア:それよりも―――さ・・・市子はどうしてここに?

市:私・・・は―――・・・

 

 

 

それから今度はアルディナの番―――どうしてあの時、別離(わか)れた市子が・・・またこの町で偶然にも巡り会うことになったのか、

けれどここには、実に単純明快な理由があったのです。

 

 

 

市:私は―――そのサライ国の女王陛下に会うために、遥々(はるばる)旅を続けてきたのです。

ア:は・・・あいつに会いに―――

 

 

 

「どうせそこで、この人は私の尊敬している人のことを悪く云うに違いない・・・。」

市子はてっきりそう思っていました。

 

先ほどからあれだけ辛口なことを云って、市子を落胆させてきたのだから・・・

きっと―――また―――この人はそれ以上にも増して、女王陛下を罵倒してくるに違いはない・・・

 

しかし―――次にアルディナから返ってきた言葉に、市子は自分の耳を疑ったものでした。

 

 

 

ア:ふぅ〜ん―――そか・・・そう云うことなら、あいつに会ってきなよ。

市:・・・えっ?

 

ア:あいつはさ―――確かに、私にとっちゃ()な奴なんだけど、他の人達には本当に良くしてくれるから・・・

  だからきっと、市子の思い描いている通りの人だと思うよ。

 

 

 

「そんな・・・今この人は、なんの(てら)いもなく―――また自分の主張を変えるでもなく、私の意見の肯定をした・・・。」

先ほどまで辛辣な言葉、批評を浴びせたのに、急に掌を返したかのように・・・しかも自分の云っていたことを覆すでもなく、女王陛下の度量の広さと人の好さを伝えたのです。

そんなことに市子は戸惑いながらも―――・・・

 

 

 

ア:そう云うことなら話は早い―――善は急げ・・・だ。

  おい、ラスネール。

ラ:そうだな・・・そうと決まったら行くとするか―――ユーニスへ!

 

 

 

自由―――と、云うべきか・・・既存の枠に嵌らない―――と、云うべきか・・・

そんなアルディナの性格に引っ掻き回され、あれよ―――あれよ―――と、云っている間に、

気が付いてみれば、サライ国の首都城―――ユーニス城城門前・・・

 

しかも市子は、これから体験することで、アルディナが云っていたことが真実であることと・・・

未だ知られることのなかった、アルディナの実態を知っていくこととなるのです。

 

 

 

ア:おお〜〜い! あんのさぁ―――ここの女王・・・ってのに会いたいんだけど〜今ダメ?

兵:・・・あ? なんだ―――お前・・・

 

ア:ああ、ほんのちょっと前からの知り合いでね・・・だからさあ〜頼むよ―――

 

 

 

「やはり・・・なんだかどことなく・・・何となく悪い予感が当たってきそう―――」

目は見えずとも、市子にはそのやり取りが手に取るように判っていました。

 

城の門前に立っている衛兵に対しても、なんら容赦のない・・・馴れ馴れしい態度。

これでは、会いたくとも会わせて貰えない―――そんな悪い予感が、市子の脳裏を(よぎ)ったのですが・・・

なんとここで、意外な人物の登場で、一気に思わぬ展開に―――・・・

 

 

 

男:―――どうしたのです、騒々しい。

兵:あっ・・・これは―――

 

ア:おっ!ギルバート!!

  ぃよう、この色男! 丁度いいところへ来た―――なぁ、あいつ今いるんだろ?

ギ:誰かと思いましたら・・・あなたでしたか―――

  ええ、いますが・・・それで陛下に何の用向きです。

 

ア:そんなこと、あいつに直接会ってから話すよ。

  それよりいるんだね―――なら行こう。

市:あ・・・あ、あの―――ちょ、ちょっとお待ちを・・・

  あの・・・今ギルバートと仰いましたよね? もしかしなくても―――・・・

 

ラ:然様―――市子殿が思っている通り、「鉄腕宰相」として知られている・・・ギルバート=シス=ラインハルト殿だ。

ア:昔はリボンがよく似合ってた可愛(かわ)い子ちゃんだったのにねw

 

 

 

意外―――にしても、意外過ぎる大物中の大物な人物・・・

現在のサライ国女王の次に、政治の実権を握っているこの国の宰相に、またも無礼とも思いたくもなるような軽口を叩くアルディナ―――

本当にこの人は・・・向う見ずな―――なのか、怖いもの知らず―――なのか・・・

 

いやしかし―――・・・

本当はそれだけでは形容不足だと云う事が、これから明らかとなってくるのです。

 

第一・・・そんなアルディナの軽口を前にしても、一国の宰相は全く気にすることすらなく、逆に一笑に附し・・・

「昔はよく女の子に間違われたものです。」・・・と、まで付け添えてくれたのです。

 

本来ならば・・・怒られて然るべきものなのに―――ただ単純に器が大きいだけなのか・・・

 

いや・・・それとはどこかが違う―――

なにか・・・こう・・・親しみがあると云うか―――家族ぐるみの付き合いと云うか―――・・・

 

・・・家族ぐるみの付き合い―――?!!

 

一介の傭兵と、一国の女王陛下とのどこに、そんな親密な関係が―――??

 

市子がそんな思案を巡らせている間にも、着実にサライ国女王との距離は縮まっていき―――・・・

 

 

 

ア:さて―――着いた・・・

  さ・・・ここから先に、市子が会いたがってた人がいるよ―――

 

 

 

思わずもトントン拍子に、長年会いたがっていた人物のいる部屋の前に立ったとき・・・市子はいつになく緊張をしていました。

 

この国の女王に就いて僅か数年のうちに、サライの国を盤石の下に固め揺るぎのないモノに仕立て上げた人物・・・

それでいて万民に慕われる善政を敷き、「稀代の名君」とまで讃えられている人物・・・

そして同時に、今自分のすぐ真横にいる、豪放磊落な自由人の知り合いでもあると云う・・・

 

しかしこの人物―――サライ国の女王に会った時、女傭兵の更なる真実が明らかとなってくるのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと