第三話 高貴なる親衛騎士団
<Ⅰ>
〔さて・・・一方では、対決があったり、また一方では、邂逅があったり・・・と、何かと忙しい事なのですが、
未だ、肝心なお方達が、出ていないのも事実・・・そう、ジョカリーヌ様と、エリアちゃんの事です。
では、その、彼女達は、一体どこへ―――?
それは―――実は、彼女達は、フレンス・ブルグより、南の森にて、ストーン・サークルの、魔法陣の修復に、立ち会っていたのです。〕
ジ:ふぅむ―――(ここと、ここも綻んでおるか―――)
・・・・じゃが、以前より、気にはなっておる、レベルの高い魔物共が、魔界より這い出てくるにしては、ちと小さすぎる・・・・
ここではなかったか・・・・
エ:あの・・・どうされたのです?ジョカリーヌ様。
ジ:ん―――?うむ・・・些細な事が、気になりましてな・・・今、総ての魔方陣を見て回ってみておるのじゃが・・・
どうにも、合点が参らぬ・・・
エ:・・・・と、申されますと・・・・
ジ:うむ・・・最近になって、より高いレベルの者が、跋扈してきたのは、それなりの大きな“穴”が、必要なはずなのじゃが・・・・
この、先人達の作った、魔法陣の綻びの程度からしてみると、得心が行かぬ―――と、こういうわけなのじゃ。
エ:ふぅ~ン・・・・・・・もしかすると・・・。
ジ:うん? いかがされましたかな?エリア殿。
エ:・・・・ひょっとすると、その“穴”、存外近くにある・・・と、思いまして・・・
ジ:近く・・・?とは、よもや・・・フレンス・ブルグにですか??
エ:はい・・・。
ジ:ふぅぅむ・・・成る程・・・灯台下暗し・・・と、言う事やも、知れぬのぅ・・・。
よし、ここは一度、引き上げてみることにいたそう。
エ:ええ、それがよさそうですね。
〔そして―――彼女達が、魔方陣より、離れてしばらくして・・・遠くのほうから、木を伐る音がしてきたのです。〕
コ――――ン コ―――――ン コ―――――――ン!
バキバキバキ・・・ ド・ドドォ――――ン!
エ:あ・・・っ、なんでしょう?今の音・・・
ジ:ふぅむ・・・未だ、木を伐る事を、生業としている者がおったとは・・・いかがなさいます?見て見られますかな?
エ:はい!
〔魔界からの侵攻の所以を、調べ上げるのも、また急務だったのですが・・・幼きエリアに、多くの事を見させて、学ばせたい・・・
そういう、教育者としての、ジョカリーヌ様の観念も、あるにはあったのです。
でも、実際のところ、太古の昔より、総ての事を見聞してきたエリアにとって、そのような事は、どうでもよかったのです。
ただ―――今の自分を、大切に思ってくれる存在に、感謝の意を込めて、しばらくの間、付き合ってあげよう・・・
そう、心に決めおいた事のようです。
ただし―――今回だけは、それとは違ったようで・・・
それというのも、先程、この森に入った頃より、―――自分と似た、波動を持つ者―――の、存在を・・・
エリア自身が、感じていたから、なのかもしれません。〕
ジ:・・・・・。(あれか・・・) これ、そなた―――
木:・・・う~~―――ン? おんや、まんず、色っぺぇお人だなや。
何ぞ、おらに用だっぺか?
ジ:うむ、そなたのその、樵夫(きこり)としての仕事、見学させてはもらえぬか―――と、思うてな。
木:ほほ―――ぅ・・・ほう・・・ええんがっちょ。 んで――――その後ろに隠れてるのはー、あんたの娘さんだっぺか?
ジ:あぁ・・・いや、違う。 この方の名は、エリ・・・
エ:あっ!違うのです! 私は、この人の姪なのであります!!
木:ほほ――――ぅ、そぉうなのかぃ・・・んで?このおらの仕事っぷりを、見たいってかい?
エ:はいっ!
木:うんうん―――ンだば―――傍で、みとってけろ。
ジ:・・・・・。(どうしたというのじゃ・・・エリア殿、妾の言葉を、遮るように・・・)
〔果たして――――エリアが、この男に、何を感じたのか――――自分を紹介しようとする、ジョカリーヌ様の言葉を、遮ってしまったのです。
しかも――――〕
エ:あの・・・おじさん? その目―――片方、つぶれているようですけど・・・・どうかなさったんですか?
ジ:(エ・・・エリア殿?!!)
木:ん―――? あぁ、これかい? いんやぁ、昔ぃ、ちょいと、ドジ踏んじまったでねぇ・・・
ほんでぇ、こんなみっともないぃ、傷ぅこさえちまったんだげっちょ。
エ:ふぅぅん・・・なんだか、とっても痛そう・・・
木:・・・・・。
ジ:(しかし・・・この男・・・エリア殿の今の質疑に対し、何一つイヤな顔せず、答えてくれおるとは・・・
中々に、人間が出来ておるようじゃ・・・な。)
〔しかし―――そう・・・ジョカリーヌ様が、思われたと、同時に――――この、樵夫の動作も止み・・・
すると、突然、彼の者の口調も、ガラリと変わってしまったのです。〕
木:・・・・そこの―――木の陰に隠れておる者・・・そろそろ、出てきたらどうなのだ・・・。
ジ:(ナ・・・ナニ? こ、この者の喋り方が・・・一変した??)
エ:・・・・・。
〔そう・・・この樵夫は、この二人―――つまりは、ジョカリーヌ様と、エリアが来るより以前に、自分の隙を、木の陰よりうかがっていた者・・・
そして、彼女達が、ここに来てしまった事で、出るに出れなくなってしまい、そのタイミングも逸してしまった者に対し、出てくるよう促したのです・・・
そして・・・〕
死:・・・・よく気が付いたな・・・。
木:ふん・・・何かと思えば、リーパーか・・・で、それがしに何のようだ・・・。
死:知れたことよ! 死神の用とは、唯一つ! お前のその命・・・貰い受ける。
木:フフフ・・・ククク・・・・。 一向に構わぬが―――ミイラ取りが、ミイラになるなよ・・・
ジ:(リ・・・リーパーが何故この界隈に・・・それに、どの道・・・あの男の次は、妾達か・・・)
な・・・何?
エ:・・・手を、出してはダメよ・・・ジョカリーヌ・・・
あの男が、何者であるか・・・その正体を、見極めるには、絶好の機会だわ・・・
ジ:(な、なんと!この方も・・・やはり、あの男が、只者でないことにお気づきであったか・・・
―――に、しても・・・なんとも、洞察力の深さよ・・・)
木:(あの二人・・・動かぬようだな・・・あのいづれかが、 あの方 だと思っていたが・・・)
まぁ―――いづれにせよ、目の前のゴミは、早目に処分しておいた方が、よさそうだな。
死:ぬっくうぅ―――う! バカにするではないわぁ! キえぇい!!
ズ ザ ァ ッ !
〔この、樵夫の男の身に、深く突き刺さる死神の鎌・・・
が、しかし、最も不思議だったのは、その鎌を、身じろぎ一つせず、平然と佇むかの者が、いた事なのです。〕
死:う・・・・な、ナニィ?!
木:ふ・・・・ まだまだ踏み込みが足りぬ、それしきでは、それがしの命は・・・やれんな・・・出直して来い。(バシッ!!)
〔その・・・男のおそるるべきは・・・得物の一つも用いずに、死神を討ち平らげた それ であったのです・・・〕
エ:(この・・・力・・・そう――――そうなのね・・・?)
ジ:ううむ・・・それにしても・・・なんと言う膂力じゃ・・・死神でさえも、捻り潰しおるとは・・・