<Y>

 

 

〔そして、それから幾年が経ち―――― もう、この事件があったであろう・・・と、いうことを、誰しもが忘れかけていた頃・・・・

そう、それは、あの――― 当事者であった、ゼクスにヘカテも、忘れかけていた頃の事です。

 

場所は――― ケネメア≪天上界≫から降りた、その当時としては、未だ未開の地、エニグマ≪中つ国≫の、或る洞窟内にて―――

そこには、どうやら、あのゼクスがいるようです、何の目的で―――? それは恐らく、自分の武を磨くために―――〕

 

 

ゼ:へっ――― それにしても、なんだかあんまり手応えないのばっかだなぁ・・・未開の地だってぇから、期待して来てみたのによっ。

  まぁ、しゃあねえから、奥に進んで、とっとと帰るかよっ―――と。

 

 

〔しかし、蓋を開けてみれば、何の事はない、その洞窟内に巣食っていたのは、ホブ・ゴブリンや、ドビーと言った、魔族の中でも、最下級の者達だったのだから、

そんな者達を相手にしても、腕が上げることはない、むしろ――― 弱い者苛めみたいな、後味の悪いものにさえ感じていたのです。

 

それゆえに、さっさと最深部に辿り着き、帰ったほうがよさそうと判断をしたゼクス・・・・

その洞窟内に設置されていた、数々の障害さえも難なく切り抜け、(恐らく最短記録で)最深部にたどり着いた、彼の見たものとは・・・・〕

 

 

ゼ:やぁ〜れやれ・・・・全く・・・・レクリエーションにもならなかったぜ。

  (ん・・・?) あれは―――

 

 

〔この洞窟内に入ったのは自分一人―――だけかと思いきや、先客がいたようです。

一体誰が・・・・それは―――

――ピーチ・ピンクの長い髪―――

―――ショッキング・ピンクの瞳―――

 

そう・・・・あの、ティアマット族の女魔導師 ヘカテ が、既にここに入っていたのです。

 

でも、なぜか、彼女は何かに困り果てているようですが―――〕

 

 

へ:(ふぅ〜〜―――・・・今までのが、たやすかっただけに、これは少し苦労しそうね・・・)

  どうしようかしら―――

 

ゼ:おい、あんた―――

 

へ:(えっ―――??)(クル・・・) は――― あなた・・・誰?

 

ゼ:へっ・・・誰・・・って、名乗るほどの者じゃあないけどよ、なんか困ってる事があったら、手ェ貸そうか?

へ:・・・・いいえ、結構です。 見ず知らずの者に手を貸してもらうほど、堕ちてはいませんので。

 

ゼ:ハッ―――なんでぇなんでぇ、かっわいくないねぇ〜、せぇっかく人が好意で手を貸してやる・・・ってのによ、

それともエニグマの女・・・ってのは全部こんなのかね?

 

へ:(ムッ・・・!) 悪かったわね・・・・可愛げがなくって・・・・。

 

ゼ:ほっ、これはこれは・・・・怒ったってぇのかい? そいつはどうも、気の毒したねェ。

 

へ:う・・・うるさい! 冷やかしだったなら、とっとと帰って頂戴!!

 

ゼ:へぇ〜いへい・・・・。

(おぉ〜〜お〜だぁーから、女・・・って生き物は嫌いなんだよなぁ〜、澄ました顔して、すぐ怒るし、

それに・・・あんなもんぶら下げているしよぉ・・・)

 

 

〔そう―――これが、彼女達の二度目の接触≪セカンド・コンタクト≫だったのです。

でも、不思議に思いませんか?以前―――ゼクスはヘカテを救ってあげたのに・・・・それに、ヘカテもゼクスに救ってもらったのに・・・

それが、互いの顔が分からない―――だ、なんて・・・・。

 

それもそのはず、この時は、あの時より、3,000年後の事だったからなのです。

 

しかも、お互いの顔が分からなくて当然、なぜなら、彼女達は、その顔と顔をじっくりと突き合わせながら・・・ではなかったのだから。

だから、互いの印象も薄かった・・・と、いうのもあったようです。

 

 

それにしても彼女―――ヘカテ―――は、何に手こずっていたのでしょう?

それは―――身の丈は、ゆうに8mはあろうかという・・・この洞窟の最深部にある宝珠『ノーブル・ディザイアー』を守護する番人・・・・

巨神兵:マジェスティック・ガーディアン

 

この魔物は、旧世界の異端の技術で作られた、恐るべき機械の守護者であり、身体のあらゆる箇所に設置された、その武器の数々が、

ヘカテを苦しめていたようなのです。〕

 

 

へ:くっ!!

  (ふふ・・・・どうしたのよ、ヘカテ・・・折角助っ人さんが来てくれたのに、益体(やくたい)もなく追い返しちゃったりして・・・

  あのまま、あの人の好意に、素直に甘えていればよかったのに・・・・)

 

  フフ・・・・ッ、これだから・・・・私ったら、いつも損しちゃうんだよね・・・。    ああ――――っ!

 

 

〔今更ながらの・・・・虫のいい後悔の念、自分が、『穢れた血』『暗黒の血を持つ者』という、差別の呼称を持つが故の・・・・反骨の精神、

それが、いかに片意地な事であるかは、彼女自身が一番よく知っているはずなのに・・・

 

そして、その身に容赦なくおそいかかる、守護神『ガーディアン』の粒子加速兵器(通常:ビーム兵器とも・・・)。

 

いかに彼女が、ドラゴン・ニュート≪龍人族≫であろうと、大怪我は免れないであろう・・・・

が、その時、何者かの影が、彼女の前を遮ったのです、誰が? それは・・・・大方の予測通り・・・・〕

 

 

へ:(っっ―――)あ・・・わ、私・・・(はっ!!)あ、あなたは!?

 

ゼ:・・・・へっ、なんかさぁ・・・・ここに辿り着くまでに、歯ごたえなかったんだよなァ・・・

へ:(えっ??!)

 

ゼ:で――― よう、ずいぶんと身勝手で悪ぃんだが・・・ちょっくら、あんたの獲物・・・横取りさせてもらうぜェ・・・

ヘ:あ・・・・。(な、なんて――― 広い背中―――)

 

ゼ:返事がねぇ――― ってぇのは・・・・分かってもらえたと思っていいんだな―――

  じゃあ・・・・さぁっさとかかってこいやぁ!! この・・・巨(でか)いだけの、脳無しやろうが!!

 

へ:(な・・・)ま、待って!!ムチャよ! 『魔法の盾』≪シールド≫なしでは、立ち向かえないわ?!

 

ゼ:そいつはどうかねえ! 喰らいなっ!!                斬空飛剣

  ひょおぉぉぅっ・・・・中々硬いねぇ、あの程度じゃあ傷一つさえつかねぇ・・・・ってかい。

 

へ:バッ・・・・バカっ! 何、呑気な事を言ってるのよ!! あれは・・・旧世界の遺物なのよ?!

  それにあれしきで・・・・

 

ゼ:・・・・っるっせいっ!女ァ黙ってろいっ!! こっからが面白いんでなぁ・・・・

へ:(お・・・女・・・) わ、私は女なんかじゃあ・・・あっ!危ないっ!!

 

 

〔そう、ゼクスだったのです。

では、ナゼ彼は、この洞窟より出なかったのでしょうか? この女性―――ヘカテが気になったから?

いえ・・・・そうではなく、理由は、彼の言(ごん)にも現れていたようです。

 

そう――― 余りの手ごたえのなさに、憤りすら感じていた事を・・・それが、今、自分の前には、己の手に余りそうなほどの強敵が―――

それがゆえに、彼の双眸は見逃そうはずもなく・・・あらん限りの能力を持って、この守護神をほうふるようです。

 

でも・・・・彼女は、ヘカテは、この守護神に当たっていたことから、分かっていたのです。

この、マジェスティック・ガーディアンの装甲は、いかなる魔法、剣技すら跳ね返すほどの厄介なもの・・・だと、いうことを。

しかし、そんなことが分かっていたとて、この戦闘狂には、無駄な事・・・親切にも忠告した事を、軽く聞き流してしまったのです。

 

そして――― 恐れていた事――― 守護神の口の部分から、彼に向けて、≪ジェノサイド・ビーム≫が・・・・・

でも、しかし―――・・・〕

 

 

へ:(えっ―――)へ・・・平気・・・? ど、どうしてなの・・・?

 

ゼ:―――へっ、この身に施されてる刺青はなぁ、何も伊達や酔狂でつけてんのじゃあねえのさ・・・・

 

へ:(じ、じゃあ―――)もしかして・・・・『呪紋』・・・・?

 

ゼ:(ククク・・・・) 久々に・・・・血が滾(たぎ)るのが分かってきちまわぁ・・・・それに、見せ場としちゃあ上等だぜ!

  喰らいな!我が・・・『羅・零』の奥義を!!  せあぁぁぁ!!

震空裂波斬

 

 

〔しかし、彼は何事もなかったかのように、無事だったのです・・・なぜ?

それは、彼自身の身に、施されていた、『呪紋』という、“対魔法防御用”の紋様があったから・・・

そして次には、空(くう)を揺るがさんばかりの、凄まじい速さの斬撃の数々・・・・

それこそが、彼自身開発し、暖め続けてきた、剣技『羅・零』の一つだったのです・・・・。

 

そして――――〕

 

 

ゼ:へへっ―――! ちょろいもんだぜ?!!

 

へ:(す・・・すごい・・・この人の、この武・・・・)

 

 

〔文字通り―――完勝―――だったようです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>