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少:あぁ―――――・・・・・
少:・・・・・・・・・。
〔あれから―――・・・どのくらいの時間が経ったというのでしょう。
その二人の少女―――― 鎖でつながれて、仕置きを受けている少女と―――― それを じっ と見つめている少女――――・・・
そのどちらも、その形(なり)は、少し大人びた感じを、醸し出し始めているようです。
そして―――― その傍らには、この―――じっと見つめている少女―――の、保護者なのでしょうか、
薄暗い牢獄の中なので、その容姿は完全には分からないようですが・・・・淡い紫の衣を、その身に纏った女性が・・・・・
(ですが、その双眸の輝きまでは、さすがに隠し切れないようです。 その 一つ は、『エメラルド・グリーン』)〕
誰:――――・・・・よし、おやめ。
獄:へィ―――・・・・。
誰:(ス・・・)(この娘は・・・・まだ、これを見てもなんとも思ってはいない・・・・)
少:・・・・・・・・・・。
誰:(ス・・・)(それに引き換え―――― こちらは・・・・・)
少:はァ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・
〔その者(女性)は、仕置きを行っている獄吏に、中止するように促し、この二人の少女を見比べながら、なにやら思案しているようです。
そして、おもむろに・・・・〕
誰:―――・・・今日のところは、ここまでにしておきましょう。
それに、あの子の方からも、余り際限なく行いすぎては――――・・・と、いわれていることだからね。
獄:へィ―――・・・。
誰:では、行きましょうか・・・・・エカティエリーヌ。
少:・・・・・・・。(コク)
〔何者かの意思により、今日の仕置きはここまでとし、この場を去るようですが・・・・
気が付いたでしょうか――――?
この女性、ただ じっ と仕置きを見つめていた少女に向かい、その名―――エカティエリーヌ―――と、呼んだ事を。
そう・・・ナニを隠そう、この、虚ろな眼差しを持っていた少女こそ、あのエリアだったのです。
では・・・・鎖で繋がれている、この少女は??〕
少:あぁ―――― ま、待って――――!! ―――――様!! わ、私を・・・・お見捨てにならないで―――!!!
誰:お黙りなさい! キシリア・・・・。
お前に課せられた、その量刑・・・・それこそは、おまえ自身が希(のぞ)んだ事ではないのですか。
それを・・・・今更、やめて頂戴とでも、いうのですか。
キ:(う・・・・ぅぅ・・・・)そ・・・・そういう・・・・つもりでは・・・。
誰:それでは・・・・一体なんだというのですか。
キ:わ・・・・私を、こんな惨めで可哀相な私を・・・・み、見ていて欲しいのです・・・それだけなのです・・・・。
〔その少女は――― 大方の予測どおり、キリエだったのです。
ですが、エリアのそばにいた、保護者風の女性は、こうも言ったのです。
―――この刑罰は、キリエ自身が希望していた事だ―――
と・・・。
では、やはり、キリエのあの悪癖は、このころ既に―――?とも、取れなくはないのですが、
実はそうではなく、それは彼女自身の言(ごん)にも現れていたようです。
そう、それは・・・・
―――見捨てないで―――
―――惨めで、可哀相な自分を見て、哀れんで欲しい―――
と、いうことだったのです。
そう・・・・つまるところ、彼女は、キリエは、誰かにかまってもらいたくて、色々な悪戯(わるさ)をしていたというのです。
それこそは、まさに――――
穢れなき悪戯
ですが、その悪戯(わるさ)も、或る方々の目に余るところとなってしまい、直ちに捕らえられ、そして、今に至るのです。
そして―――― その“或る方々”の一人でもある、この女性―――― 仮に、『A』とでも、申しておきましょう・・・
その、Aの思うところがあり、今のこの時―――― この、うつろなる少女――― エリアを伴い、ここに来ていた・・・・と、いうことなのです。〕
A:勘違いするのじゃあないよ。
今まで―――・・・この娘(こ)が、2,000歳になるまで、ここに据え置いて、お前の仕置きを見せておいた・・・・
その第一の理由は、この娘が生まれ出でる時に、母の胎内にその感情の総てを置いて出てきてしまった・・・・
そんなこの娘を、私が不憫に思い、ここで感情の一つでも取り戻せれば・・・・と、思ったのだけれど・・・・
どうやら、無駄だったようだね。
〔そう・・・このAが思っていたところとは、この虚ろなる少女―――エリアが、生誕する時・・・・総ての感情を、母親の胎内に置き忘れた―――
その悲劇を、Aが掬い上げ、その一部でも・・・・と、いうことだったのです。
すると・・・〕
キ:(あぁ・・・) ――――・・・って・・・
A:さぁ、行くとしましょう、エカティエリーヌ。
エ:・・・・・・。(コク)
キ:待って―――! 私を、見捨てないで―――!! お願い―――!!!
エ:(ピク――!)
A:(ぅ・・・ん?)
キ:お願い・・・・お願いよぉぉ・・・・
エ:・・・・・。
A:エリ・・・ア?
エ:済みま・・・せん、・・・お願いが・・・・ございます。
待って・・・・あげて・・・・下さい・・・。
A:(こっ・・・この娘が、初めて自分から口を!!?)
〔この哀れなる少女―――キリエの心からの叫びが、エリアの心の琴線に触れたのか・・・・
このとき、奇蹟と呼ぶべきことは起きたのです。
キリエの・・・その叫びにより、エリアは立ち止まり、その上、Aに待ってくれるように言ったのです。
――――と、いうことは・・・?
そう・・・Aの思惑通り、エリアが、感情を取り戻し始めた・・・と、いうことだったのです。〕
キ:(あ・・・・)あ・・・・。
エ:(カチャカチャ・・・カチ―――☆)・・・・・・・。
キ:あ・・・・の・・・。
エ:どう・・・なされたのです?
あなたの・・・・首に・・・・なされていた飾り・・・・私が、外しましたよ。(ニ・コ・・・)
キ:(あ・・・)ありがとうございます! こんな・・・こんな惨めで可哀相な私を、救って下されて・・・!!
私・・・私は、キシリア=リヒトブレム=エルダーナリシュヴァアラと、申します・・・
どうか、私めの事は、『キリエ』と、そうもうしつけ下さい。
エ:いえ・・・私の・・・・方こそ、ありがとう・・・・と、言わせて下さい。
何を見ても、無感動、無感激・・・・な、私を・・・・甦らせてくれたのは・・・・あなた・・・。
ですから・・・・どうも・・・・ありがとう。
私の名は・・・・エカティエリーヌ=リントハイム=アルダーシャクティアヌス・・・・です。
どうか・・・・『エリア』と、お呼びになって?
キ:は・・・・はい!! エリアさん・・・。
エ:こちらこそ・・・キリエさん。
〔これが・・・・キリエ、エリアの邂逅の瞬間。
そこには、既に感情を取り戻し始めた、のちの『焔帝:エリア』と・・・・・
彼女の、生涯を通じての良き友、良きライバルとして存在する、『エーデルリッター・紅焔団長:キリエ』・・・・・
が、あったのです。〕