<陸>
(ところで、彼を案内した静音さん、急いでこの事を、板場と、大女将のところに、報告に上がったようです。)
〜板場にて〜
惣:あっ、こりゃあ静さん。 一体どうしたんで?
静:いえ・・・実は、柾木の大旦那が、急に見えられまして・・・何か一品食されたいと・・・・。
惣:はは〜ン、柾木さんがねぇ・・・でも、いまあいにく板長、出ッぱらっとりまして・・・。
静:(ふぅ・・・)そうです・・・・か・・・でも、お待たせするわけにもいきませんし・・・。
惣:このオレでよかったら、刺身ぐらい出来ますが?
静:そう・・・・ですか・・・・・(チラ)
ス:・・・・・・。
ダンッ!
静:・・・では、よろしくお願いいたします。
惣:へぇ〜〜いっ!
〜大女将の部屋にて〜
静:女将・・・・静でございます・・・。
瀬:う〜〜ン?どうしたのぉ?(ぷっかぁ・・・・)
静:あの・・・・大旦那様が・・・・
瀬:・・・・・分かったわ、もうちょいで行くから・・・。
それより、誰がナニを出すの?
静:はい、惣次郎さんが、お刺身を・・・・と。
瀬:ふぅ〜〜ん、で、あの子・・・
静:失礼いたします・・・・。
ピシャンッー☆
瀬:あら・・・(フフフ・・・)まッ、いいッか、うちの二番板の惣君なら、まず当たり外れはしないだろーからねぇ?
(そう、この界隈で、その名を知らぬ者はいないという、老舗の料亭『蜆亭』。
そこには生粋の料理人や、食通の集う場所としても知られており、そこの二番板という事は、板長とも比肩できるくらいの腕前・・・と、いう事・・・なのですが。
この時は、かの包丁人も、そして・・・・ここの女将にも油断があった・・・そう思われても、いたし方のなかったようにございます。
それというのも、この大旦那、出された刺身に手をつけるわけでもなく・・・・こう、つぶやいたからなのです・・・・。)
静:・・・・・・お待たせいたしました・・・・。
す っ
阿:うむ。
・・・・・・・(うん?)・・・・・・・・・なんだ、これは・・・・。
静:(ピク)・・・・こ・・・これは・・・・おさし・・・
阿:もう一度聞く、なんなのだ、これは!
静:・・・・(ゴク)・・・も、申し訳ございません。 只今、板長が出はからっておりますもので・・・・
阿:そんなものが・・・・このワシに通用すると思うのか!!
静:も、申し訳ございません!!
(生来温厚そうに思える人物ほど、その激情に触れると、その度合いが激しさを増す・・・・とは、将にこの事で、
それは、ご多分にももれず、この御仁もそうだったようでございます。
そしてこのお客が、帰ろうと、その席を立とうとした時、丁度女将が・・・・)
瀬:・・・・あら、いかがされたのですか?
阿:亜沙華・・・・いや、女将よ、ここはいつから猫に食わせるような代物を、客に出すようになったのだ。
瀬:ナニをおっしゃられますやら・・・大旦那にしては冗談もきつ・・・・(はっッ!!)
阿:では・・・そうでなければ、それはなんだというのだ!!
瀬:・・・・・申し訳ございません、恐らくこちらの、何かの手違いでこうなったのでありましょう。
直ちに、替えのモノを用意し、きちんとこの事を問い質して見せますので・・・もうしばらくのご猶予を・・・
阿:・・・・・・・。
(真に、事の如何を問わず・・・とは、この事で、女将も初めは、この客人が何を言っているのかさえ分からなかったのですが・・・・
“猫に食わせるような代物”と、この客人に出されたモノを見るにつけ、何に激昂しているのか分かったようなのです。
そして、総てにおいて自分に非があるとし、弁明もそこそこに、急遽板場に向かったのです。)
バ ン ッ ! − ☆
惣:(お・・・・っ)こりゃあ女将・・・血相変えて一体どうしたんで??
瀬:ちょっと・・・・これは一体どういう事なの!!?こんなモノを・・・・よりによって、大お得意様の一人である、大旦那に出す・・・だなんて!!
お:(い゛い゛っ?!ど・・・どうかしたのです?)(ヒソ)
婀:(さ・・・さあ・・・)(ゴク)
惣:(え・・・?)こ・・・こんなモノ・・・って、一体どういう意味で?
瀬:こんな・・・こんな包丁の線のなっていないモノを出すだなんて・・・どういう事か聞いてんのよッ!!#
お:(ヒ〜〜(○フ○ll/)/)
婀:(あ・・・姐上より怖ひ・・・(―フ―;;)
ス:・・・・・・・。
惣:えぇ?ほ、包丁の線・・・って、オレはいつも通りに捌いてお出ししただけで・・・・
瀬:なんッ・・・#ですってえぇ〜〜っ###
婀:(お・・・おわ・・・ま、まさに鬼の形相・・・)
お:(で、でも・・・包丁の線・・・って?)
(そう、ここで二番板の惣次郎が出した刺身は、いつも通り、彼が丁寧に捌いて出した・・・と、言ったようなのですが・・・
逆にそのことが、大女将の怒りの火に、油を注いだ格好となってしまったわけでして・・・(ところで・・・包丁の線・・・って、ナニ??)
すると・・・なんと、ここでステラが・・・??)
ス:あーりゃっ?!そいやぁ、ここにおいてあった、猫に食わすクズもんは、どこに行っちまったんでやんしょかねぇ??
瀬:(ピク!)なんですって?
お・婀:(の゛・・・・・!!? 煤i○ロ○ll)
惣:(えぇ?)
ス:いっやぁー猫に食わすヤツっすよぉ。 器足んなかったんで、柾木の旦那に出すヤツのと、同じ器に盛っといたんですけどねぇ・・・・。
瀬:・・・・・・・。
ス:それ・・・見せてもらえねぇですかい?
・・・・・あっ、やっぱこれだ・・・。 と、するとなると・・・さっき猫が食ってたの、大旦那にやる方じゃあなかったんですかねぇ・・・。
瀬:・・・・・・・・・。
お:(ン・・・・ん・・・・・なんて罰当たりなーッ!!?)
婀:(おぅわ・・・・このバカ者が・・・言うに事欠いて、そんな事を言うヤツがあるか!!)
ス:ヤ〜〜レ、ヤレ・・・こいつぁ大損だ・・・。
申し訳ありやせん、大女将、こいつは不出来なワシのミスでござんす。
その・・・尻拭い・・・と、言っちゃあ何ですが、この不始末、ワシに一切合切任せちゃあもらえんでしょうか・・・?
お:(・・・・え?)
婀:(社主・・・・殿?)
瀬:・・・・・・いいでしょう、でも・・・・二度はありえないわよ・・・。
ス:・・・・分かっておりやす・・・。
お:ああ・・・っ、瀬戸・・・
ピシャンッ――☆
お:・・・・・。(>< ) ち、ちょっと!大丈夫なんですかっ?!ス、ステラさん!!
婀:そ、そうじゃぞ?!し、しかも、よりによってあの方に担架を切るなどと・・・・・
それに、どういう事なのじゃ、客のモノと、飼っておる猫のモノとを取り違えるなど・・・ありえぬ事ではないのか?
惣:そ・・・そうだよ・・・ぜってぇありえねぇ・・・・。
お:(え??)そ・・・惣次郎さん??
婀:ほれ・・・惣次郎殿も、そう申されておる・・・・
惣:いいや・・・そうじゃあねえ・・・・ここにゃあ、猫なんて飼ってゃあしないんだ・・・・。
婀:(んな?)ナニィ?!それは一体・・・??
お:でっ・・・では、どういう事・・・ですの?
ス:どうもこうも、ありはしないっスよ・・・“若”女将。
あと、二分ちょいで仕上がりますんで、あがったんなら、二人揃って・・・大お得意様のところへ、初顔合わせ・・・って事で、出向いてくだせぇやしよ。
お:えぇっ?!わたくし・・・・
婀:・・・と、妾・・・・
お・婀:がっ??!!
ス:そりゃそうっしょ? あんたら二人は、何様でもない、いまは若女将と、仲居頭だ。
まっ、どっちもまだ“見習い”ですっけどもねぇ・・・。
それとも、なんですかい?今回のお客人が・・・・だと、都合が悪いんで?
お:い・・・っ、いえ・・・。(あ・・・あるじゃない・・・だって、大旦那・・・って、わたくしのお父様・・・)
婀:・・・・・・。(驍・・・・様?)
(そ〜〜う、なんと、ステラ罰当たりなコトに、お客に出すもんと、飼い猫に出すものとを取り違えたようで・・・・
そんなもんだと分かっちゃあ、いくら温厚なる人物でも・・・・って、ちょいと待って下さいよ??惣次郎さんの言う通り、
『ここに猫なんていない』・・・・このコトが本当なら、どして身を危険に晒すようなウソ吐くの??
まぁ、それはともかく、この男・・・丁度そこに居合わせた、若女将と、仲居頭(共に見習い)に、出来たモノを持って行け・・・とは、何を考えてんでしょ〜〜か?)