第三講 さ し す せ そ
〔一〕
〔さて・・・・滞りなく、ここ蜆亭での、その庖丁捌きの習得を終えたおひぃさん、
これで、何の気兼ねもなく、女将業に精を出せる・・・・かと、思ったのですが、そう甘くはなかったようであります。
―――と、いうのも、それから後に、またまた大女将・瀬戸さんから、こんな難題を押し付け(押し付け・・・・(^^;;)られましたようで・・・
で、その難題が・・・と、いうのも・・・〕
瀬:ねぇぇ・・・・阿恵華ちゃあぁ〜〜ん、あなた、今度から、私の食事も作ってくれなあぁ〜い?
お:へっ??わ・・・わたくひがですぅ???
でっ・・・でも、何もわたくしがしなくても、ステラさんとか、他の皆さんとかが・・・
瀬:あぁ、お昼の 賄い とかでなくて、朝のでいいから。
お:あ・・・朝?? す、すると・・・誰よりもはやくに来て、板場に立て・・・って事なんですぅ?!
瀬:うぅ――ん♡ そゆこと♡♡
〔ソ――ナンス!! 瀬戸さん、今度は、自分の朝の食事も作れ・・・と、お達ししたようで、
おひぃさんが『無理難題』と思っても、否が応のその態度には、とても逆らえないようだったものでして、
おひぃさん自身をしても、『とても無理・・・』と、思いつつも、渋々承諾せざるを得なかったようであります。
―――と、そんなある日の出来事、早速翌日にて、こんな事があったようでござんす。〕
お:どうも・・・お待たせをいたしました・・・。
瀬:ふぅん・・・・で、お献立は?
お:あ・・・・はい。
お米は、或る人に倣って、ちゃんと飯炊き釜で炊きました・・・・
瀬:(ふんふん・・・)で・・・・?
お:次に、おみおつけは、鰹の一番出しに、豆腐は木綿・・・・それから納豆は、水戸産のものを・・・・
瀬:・・・・・・。(ピキ)
お:それからそれから、棄てるのはもったいないので・・・この間、練習用に使ったこんにゃくを、粉鰹で炒め煮にいたしました。
わたくしの、会心にて、渾身の朝食にございます・・・どうかご賞味の程を・・・。
〔なんとなんと・・・おひぃさん、初日からぶっ飛ばしてますねぇ・・・
しかも、炊飯ジャーで炊いたお米でなくて、鉄のお釜で、炊いたのを持ってきなさるとは・・・
これでは非のうちどころ・・・・まったァくナシっ!! ・・・・の、ように思えたのですが、
何を思ったのか、瀬戸さん・・・・徐(おもむ)ろに、配膳されていたものを片付け始め・・・・〕
お:(あっ・・・・あれれ??) あ、あの・・・瀬戸様・・・ナニを???
せ、折角の朝食を、お膳から下げたりして・・・・
瀬:ぃよぅし・・・お膳の上には何にもなぁ――し・・・では、行くわよ・・・・(がっ!)
お:(え゛っ?!こ、これ・・・って、もしかして、伝説の荒技の一つ・・・)
瀬:こぉんなもンが、喰えるかいっ!!
ちゃぶ台返し!!
お:ひょえぇ〜〜!?
〔なんと――――っ! あの、☆一徹氏の、往年の荒技が今ここに――――っ!!(^フ^゛)>
まあ・・・本来なら、上に乗っかってる料理の数々毎、ひっくり返すのではありますが・・・
さすがに、ここは料理店なだけあって、そんな勿体なぁ―――いことはしなぁいのっ!! と、いうわけであーりまして、
すべての料理を上から下ろし・・・お膳に何もないのを目認した上での、この荒技の“発動”・・・と、言うことになったようでがんす。
―――で、もって・・・〕
瀬:食べ物を粗末にしてはいけません、これぞ、地球に優しい、蜆流のちゃぶ台返し・・・・よぅく覚えときなさい。
お:ほ・・・ほわい・・・。
〔おひぃさん、ちゃぶ台・・・いや、もとぉい!お膳の下敷きになりながら、ただひたすら反省のようでありますが・・・?〕
お:あ・・・あの・・・な、ナニがいけなかったんでしょうか?わたくしの拵えたの・・・
瀬:(ふむ・・・) ならば、教えて進ぜましょう。
お:は・・・はあ。
瀬:まずは、一つ一つを取り上げてみれば、まことに結構、納豆の水戸産・・・てのは、中々大したものよ。
お:は・・・・はあ?
瀬:で・も! 全体の取り合わせが、全く持ってダメ―――!
納豆・こんにゃく・木綿豆腐、どれをとっても山のものばっかし、おまけに、納豆に豆腐、鰹出しに粉鰹ときちゃあ、見事に食材のバッティング・・・
お:・・・・。
瀬:納豆なら、お味噌汁はワカメとか、こんにゃくの粉鰹になら、煮干のだしとか、海苔と一品交換するとか・・・・
そこのところ、もちっとだけ頭を使ったらどうなの・・・って事なのよ。
お:(ほえ・・・)
瀬:それと、もう一つ・・・・このご飯、大変に上手に炊けてます。
お:あ、ありがとうございます・・・
瀬:それで、何のお米で炊いたの?
お:は?? それはもちろん・・・・コシヒカリにきまってますわ?
瀬:なぁんで、そりゃまった・・・?
お:だって・・・まず、この国でお米といったらコシヒカリ!・・・で、ございませんこと?
魚沼産なんて・・・・偽物まで出回るくらい、その品質には保障がついてますし・・・
瀬:・・・・なんで?
お:それはもちろん!お味のよさ!・・・ですわ?
瀬:・・・・どんな?
お:それはもちろん、濃厚芳醇なその香り!噛めば噛むほどにわいてくる、豊穣な甘さ!
それでいて、舌にまとわりつくような甘美なその粘り!! それを瀬戸様が・・・
瀬:じゃさ・・・それに合わせるおかず・・・って、一体なんなの?
お:それはもちろん、スキヤキ・ヒレかつ・カレーや、ハヤシライス・・・なんてもぅ相性ぴったし!!
瀬:・・・・朝から??
お:(へっ―――?)
瀬:確かに―――阿恵華ちゃんのうんちく、その通りだけど・・・・じゃあ逆に聞くけど、
どうして巷には、コシヒカリのほかに、ササニシキ・・・なんてのがあるの?
お:(えっ―――) そっ・・・それは・・・
瀬:一日の始まりの、冴えた舌に、朝のなんでもないおかず・・・
それには、香りさっぱり、甘さすっきり、粘りアッサリの、ササニシキのほうがあってるのよ。
まあ・・・今回は仕様がないけど・・・今度から、きちんと気をつけて頂戴よね?
お:は・・・はあ・・・承知しました・・・。
で、でも瀬戸様、そのワリにはしっかりと食べてなさるじゃあ・・・
瀬:・・・・・失礼な事を言う子ねぇ・・・言ったでしょ?一つ一つは、大変に結構!
だから、一つ一つ食べてんの、食材は無駄・粗末はしない!それが、昔からのここでの流儀なのよ、よぅく覚えときなさい。
お:は・・・・はぁぃ・・・・。