<参>
〔――――・・・・と、その後で・・・・〕
三:いゃあ、すまなんだな、坊(ぼん)。
女だてらに庖丁振るうにゃ、ああまで突っ張ってなきゃ、やってらんねぇ・・・ってワケでねぇ。
いや、性根は、とってもいい娘なんだけどねぇ?
ス:えぇこっちゃないですか、今時いませんぜ? あんだけ、意地持ってる料理人は・・・・。
それが、まぁ――――・・・今回は、目ェ付けられたのが・・・・ってことで・・・
瀬:あぁ〜〜〜――――ら、何の話ぃ?
ス:いえ・・・・なんでも、お蔭で瀬戸さんが、なしてこんな事を思いついたんか・・・・分かった件(くだり)でしてね―――・・・。
三:ま・・・・ちったぁ、世間の荒波にでも、もまれりゃ・・・・ってとこでがんすかね。
ス:(はは・・・・)まァ・・・・とりあえずは、両者とも、その基本はなってる〜〜〜・・・ってところですしね、
よくすりゃあ、双方のレベル・アップにもつながる〜〜〜―――ってトコなんしょ?
瀬:そりゃ、まぁ・・・・そうなんだけど・・・・。
驍君、最近私の考えてる事が、分かってくるようになってるから・・・なぁンだか、つゥまんなぁ〜〜〜いって感じぃ。
ス:(そりゃイヤでもわかるがな・・・・伊達に、ここで何年もしごかれてきたんぢゃないっすから・・・・)
三:大変じゃのぅ〜〜〜〜坊(ぼん)も。
〔・・・・と、これは、瀬戸さまの・・・大女将の部屋で、取り交わされた会話内容・・・。
そう、つまり、ちょっと見では、瀬戸さんの気まぐれによる、底意地の悪そうな仕掛けも・・・
二人の、ぅ若い乙女達のタメになろうとされていた事で〜〜――――・・・って、違いますかぁ???
――――・・・と、まぁ、そんなバカな話はさておいて・・・・
では、その美也子さんの、仕事ッぷりは・・・・と、いうと??〕
客:会席割烹―――中原(ちゅうげん)―――か・・・前はゴクゴク、普通の大衆食堂だったのにねぇ―――・・・・
客:へぇ――――・・・こいつぁ綺麗になったもんだぁ・・・。
客:ごめんよ――――
美:
―――え、らっしゃいませぇ!―――
客:粋なお姉さんだね―――― なんだか、通いたくなっちまうな。
美:えいっ!ありぁとございやす―――! ご注文、なんにいたしましょ―――
客:えぇ――――っと・・・そうだな・・・
んじゃ、この本日のオススメ――――ってのを。
客:んじゃ、わしもそれ。
〔どうやら・・・・今、この中原の暖簾を、くぐった客が二人いるようですね。
しかも、美也子さん・・・・そのお客達に対して、実に威勢の良いご挨拶から――――
それに気分を好くしたお客さんも、“通いたくなる”という言葉が出る・・・と、いうのも、道理というもの。
そしてご注文―――― 二人揃って、この店の『本日のオススメ』なるものを、注文したようですが・・・・
では、その、気になる『オススメ』は―――・・・と、いうと?〕
=鮭の照り焼き=
=風呂吹き大根=
定食
客:ほぉ―――― こんな大きな風呂吹きがついてて、700円?? 安いねぇ〜?
美:うちゃあ、足場割烹、値段は大衆だかんね――――。
ねり味噌に、ネギ味噌――― お好きなほうで、自慢の風呂吹きだよ―――
ずっ――――・・・
客:オっ! ほぉ〜〜・・・こいつぁ、また、やわらかく煮えてるねぇ。
んっ!! 旨い!
客:いい味してるよ―――― お姉さん。
なんだか、通いたくなっちゃうなぁ。
美:ありあとありやす――――。
客:イヤぁ・・・それにしても、綺麗な容だ・・・
うちの母ちゃんときたら・・・面倒くさがって、面取りもしやしねぇから・・・・大根だって、原形とどめてねぇもんな――――
美:そりゃあ、こちとら玄人、手間を惜しんじゃあ、いい料理はできやせん。
大根だって――― 毎朝市場で、それも自分の目で、葉折れのない、形の揃った 青首 を選び抜いて仕入れてますんで・・・。
客:んじゃあ――― この味噌汁の菜っ葉は?
客:懐かしいねぇ――――この味・・・なんだか通いたくなっちゃうなぁ。
出しはなんなんだい?
美:そこはそれ――― 大根にゃ、煮干でしょ・・・。
客:へぇ――― この、ネギ味噌ってのも、中々・・・・大根にあいますね――――
客:次は、夜に飲みに来なくっちゃ――――
〔見ての通り――― 評判は上々、思わず美也子さんもほくそ笑む――― と、いったところのようです。〕