≪陸≫
〔それからしばらくして、瀬戸さんに案内され、ある部屋に通されたのですが―――
それが、今では、余り使われておらず、恐らく、今日という日が来なければ、その存在さえ知りえなかった、
案外とこざっぱりとした部屋だったのです。
では、その部屋の名は―――〕
お:り・・・六合の・・・間?
婀:はて??ここに、こんなところがあった―――とは・・・
サ:そ、それにしても・・・随分とまあ、こざっぱりとしてるよなあ。
J:お膳のほかには―――座敷に、一輪挿し・・・・
臾:それに、掛け軸・・・だけ・・・
コ:あぁ――――ん、お外の景色、見たいみゅ〜〜!!
乃:・・・みたいですみぅ・・・。
瀬:ああっ―――! これこれ、まだそんな時間じゃあないから、そこは、そのままにしといて・・・・
まぁ、時間が来たなら、ちゃんとお知らせするから、雑談でも、何でも、好きなことをしていなさいな・・・。
お:は―――はぁ・・・ねえ?婀陀那ちゃん・・・。
婀:まあ・・・よいではないですか、今日の、あの喧噪と比べてみれば、雲泥の差でございますよ。
サ:そうだよなあ・・・ま、ある程度は、予測はしていたけど・・・あすこまで、ひどいたあ思わなかったよ。
臾:せやんなあ・・・・あれがなけりゃ、今回のも、ちっとはちごてきてたんやろしなあ・・・。
J:まあ・・・もう、それを今更言っても始まんないにゃそからね・・・・。 そだ、お茶でも淹れましょか??
お:そうですわね・・・・そうして下さいまし。
J:さ、おいで?コみゅ・乃亜。
コ:みゅ!!(トコトコ・・・)
乃:・・・みぅ!・・・。(トコトコ・・・)
婀:そういえば・・・・社主殿も、また、わけの分からぬ事を、申しておりましたよなあ。
――暗くなるまで、待て――・・・・とは。
臾:せやんなあ・・・まだ、だいぶ時間も余ってますし・・・。
〔そう、日が暮れるまでには、まだ、相当な時間があり、それをいかにして潰す・・・と、いうのが、今の一番の、課題だったのであります。
そして、その間に、お茶が淹れられ、無駄話、世間話、四方山話も、一通りおわったところで、ようやく、この蜆亭にも、灯が入れられたようであります。〕
お:あっ・・・もうこんな時間?
サ:でもよぅ、まだ暗くなるには、時間があるようだぜ?
婀:・・・・少し、瀬戸様のお部屋へ、顔を覗かせてみますか?
お:そうね、そうしてみて頂戴・・・・。
〔ここに灯が燈された事もあり、けども―――未だ、瀬戸さんからは、何の連絡もないので、
これは、どうしたものか―――と、いぶかしんだ、婀陀那が、ここの御ン大の部屋に、単身で乗り込んだのです。
しかし―――そこには、煙管をふかしながら、悠々と、春の情緒を愉しんでいる、お方がいたわけで・・・〕
婀:――失礼いたす、大女将――
瀬:・・・・。(ぷかぁ・・・) あら、婀陀那ちゃんじゃない・・・。(カ―――ン・カ―――ン☆)
ふふ・・・どうしたの?まだ、時間には、だいぶ早い・・・とは、思うのだけど。
婀:(まだ・・・大分(だいぶ)―――?) い、いえ―――それが・・・
瀬:・・・・ひょっとして、待つのにくたびれちゃったの? 仕様のない子達ねぇ―――
暇の潰し方の一つも、心得てない・・・なんて。 まあ、後もう少しだから・・・・辛抱していなさいな?
サ:・・・・って、あいつに、そういわれたのか??
臾:そらぁ、また、無体な話やんなぁ・・・。
J:(ふぅ―――ん・・・それにしても、瀬戸さんも、中々にやるわね・・・――暇の潰し方を考えろ――だ、なんて・・・)
そぉれにしちも・・・いつまで、またすんでしょかにゃ〜〜―――
コ:はい――――乃亜、これ、どうとるみゅ?
乃:・・・ここと、・・・ここみぅ・・・・・・。
コ:それじゃあ――――あたしは、ここと、ここで――――はいっ!『二重橋』!!
乃:・・・・おぉ!おねぃちゃますごいみぅ!!・・・・。(ぱちぱち!)
J:いいよなぁ・・・・コみゅ・乃亜ちんは、綾取りで花が咲いてて・・・。
コ:Jokaさんも、やってみるみゅ〜〜?
J:あっ―――、いや、あちしは、いいよ・・・見てるだけで。
乃:・・・だれか、きたようですみぅ・・・・。
お:(えっ?) なあんだ・・・ステラさんじゃないの・・・
ス:ヤレヤレ―――、どーやら、皆さん、暇をもてあましすぎてる・・・って、とこのようでやんすねえ。
サ:っつ―――たりめぇだろがよ、こちとら、なんもない、殺風景な部屋に通されて・・・
しかも、外の景色すら、見せてもらえねえんだぜ??
ス:はは―――、そら、そうだんしょ。 手品の種を、わざわざ見せるような、手品師もおったもんじゃあ、ないでしょに・・・。
婀:(なんと―――)では、やはり、この障子の向こうに、何かがある―――と、申されるのか??
ス:(フフ―――)まぁ・・・まだ、もう少し、時間がありやすんで・・・
ここは一つ、この先に見えるものを、推察してみる―――と、いうのも、また一興か・・・と―――
そうっすねぇ―――まあ、そのヒントを・・・ここ、『六合(りくごう)の間』・・・、随分と昔は、『櫻の間』・・・って、呼ばれてたそうっすよ・・・。
お:は??? さ、『桜の間』?? ・・・って、ここ 蜆 には、お得意様を、よくお通しする部屋にも、そのような名が・・・
ス:まあ―――そういうのを、イロイロ推察してみる・・・っていうのも、立派な時間の潰し方―――って言うことっすよ。
あぁ、おビール、ここに置いときますんで・・・・ごゆっくりと、考えなへえ。
〔なんとも―――、また、謎めいたような事を残し、去っていくステラ・・・・
おひぃさん達、ギルドの連中がいる、『六合の間』が・・・その昔は、『櫻の間』・・・とは・・・
しかも、ここ蜆亭には、(字は違えども)同じ名の部屋が、存在するようですが・・・?〕
サ:しっかし――――なんだろかねぇ〜? スーさんの、あの勿体つけたような言い方は・・・
臾:ま、まあ―――そないなこといわんと・・・一杯飲んで、気ィ落ち着けましょや、ドン・・・
お:で、でも―――、不思議な話ですよねぇ・・・今、滅多と使われていないここが・・・――『桜の間』――・・・だったなんて・・・
婀:うぅむぅ・・・。
(この先に見えるもの―――? それに、あのお二人をして、未だ、外を見せたくない道理というものが・・・??
―――ん?まてよ・・・―――手品の種―――この障子の向こうの景色―――桜の??!)
(はっ―――!!) も、もしや!!
お:ど、どうかしたの?婀陀那ちゃん。
婀:い、いえ―――あの、姐上・・・真に申し上げにくいのですが・・・
どうやら、妾達・・・とんでもない領域に、足を踏み入れてしまったようにございます―――
お:エッ?それ―――どういう事??
婀:先程からの、瀬戸様や、社主殿の言葉を、噛み締めていくうちに・・・
妾達は、超一級の歓待をして、ここにいる―――と、感ずるのです。
お:ち、超一級の―――歓待?? どうして・・・これが?? どうしてですの???
婀:恐らくは・・・今回の、お花見の失敗・・・そこにこそ、その因はあったか・・・と。
ここは一つ、肚(はら)を据えて、待ってみようではありませぬか。
お:そ・・・そうね、婀陀那ちゃんが、そういうのならば・・・そうしてみましょう・・・・。
〔どうやら、おひぃさんのよき片腕、婀陀那が、これから起こりうることを、一早くに察したようです。
それでは・・・これから、一体、何が起こりうる―――と、いうのでしょうか・・・・〕