≪漆≫
〔それから―――、陽もとっぷりと暮れ、外には、墨を流したように、真っ暗となってきたのです。
そう――――これからいよいよ来るのです! 今夜限定の あれ が!!〕
ふ っ ・ ・ ・
お:あっ?!!あらら???
婀:(い、いきなり・・・) 電気が消え・・・・?
サ:(ん゛がっ・ん゛ぐっ!) げほっ!けほっ!! な、なんだぁ?!停電かあ??
J:ひやっ?! ろ・・・ローソク、ローソク・・・・かいちゅ〜でンとぉ゛―――!!
臾:ど、どないなっとんのや゛ぁ〜! 今日は、もぉサイアクやわぁ゛〜!
コ:ぴ・・・ぴぃ゛っ゛!! 暗いの、きょわいみ゛ゅ゛〜〜!(←半泣き)
乃:・・・おねぃちゃん・・・・。(しっか)
〔しかし―――、そこにあったのは、紛れもない、墨のような暗がりに、急な停電―――それゆえに、皆一様にして、大騒動したのですが・・・
実は、これこそが、彼女達に、仕掛けられた、大一番だったのです・・・・。
それから、しばらくして――――、ここの大女将の・・・・徹(とお)るような声が――――!〕
瀬:
―――どうも、永らくのお待ちどお様でございました―――
お:(え・・・?) 瀬、瀬戸様の・・・声??
婀:この・・・障子の向こうから!!?
瀬:
――今宵限りの、お花見、――
――こちらの櫻の方も、ご機嫌が麗しい・・・かと、存じ上げますので・・・――
――どうか、刮目の程を!!――
すっ・・・
たぁ――――ん
たぁぁ――――ん
かぁっ!
ぼぉっ!
かぁっ!
ぼぉっ!
お:・・・・!!
婀:・・・・!!
サ:・・・・!!
臾:・・・・!!
J:・・・・!!
コ:・・・・!!
乃:・・・・!!
〔この時―――、彼女達は、その景観もさることながら・・・誰一人として、声を挙げる者はいなかったのです。
それもそのはず、――なぜなら――
――暗がりの闇に、篝火二つ――
――そして、その火の灯りにより、紅々と照らされた――
――樹齢、千数百年はあろうかという――
――それは立派な、櫻の古木――
それも・・・
――― 枝 垂 桜 ―――
が、あったのですから・・・〕
お:(は・・・・あぁ・・・っ) こっ、これは??!
婀:こんな・・・見事な名花が・・・こんなにも、近くにあったとは・・・
サ:お・・・おぃ、はは・・・な、なんだい、こいつは・・・こんなの・・・って、ありかよ・・・
臾:は・・・ははは、なんかウソみたいやんわぁ・・・今日一日、あんだけ苦労したっちゅうのに・・・
コ:しごいですみゅ・・・。
乃:・・・(うっとり)・・・・。
J:それにしても・・・凄いよなぁ、ここの櫻さん・・・
未だに、こんなに元気に咲いてて・・・それに、なんだか、皆をビックリさせて、どこか喜んでるようだよ・・・
婀:(えっ?!!) じ・・・女禍さま・・・・あなた、ひょっとして、この櫻の事を・・・??!
J:うんっ?! まぁ・・・ね、でもさ、よく考えてみなよ、この子・・・人で言っても、高齢のお爺ちゃんか、お婆ちゃんなのよ?
それをさ・・・こんなにも、元気に踏ん張って、綺麗に華を咲かせて・・・・これ―――って、ちょっとした、奇蹟だよ・・・ね?
婀:はい・・・言われてみれば・・・・そうですよな・・・。
〔そう―――、この世界の“頂神”様は、この櫻の事を知っていたのです。
でも、ナゼ、この櫻を見て、今更ながらに驚いたのかというと・・・・それは、この櫻の樹齢に関係していたのです。
先程の説明にもあったように、この櫻の齢は、有に千年を越しており・・・
それに、先の大戦でも、この地も、他の例に漏れず、空襲に遭いなどして、この桜も、その時に亡くなってしまったもの・・・と、思われたからなのです。
確かに―――、その空襲の時、戦火に見舞われた、櫻ではあったのですが、
ここでようく考えて下さい、この国には、気の遠くなるような昔から、内乱のあったことを・・・、
そして、その都度、この櫻の命の危険性になるような疵も、負っていたことを。
では、ナゼ、どうして、その命を永らえることができたのか―――
それはひとえに、女禍様の言ったとおり、――種の、生命の、奇蹟――に、他ならなかったのです。
その永きより、かの地に根付く、古き木には、一種の意思のようなものが宿り、
やはり、この地に古くからある、木霊・地霊・水霊から、少しずつ元気を分けてもらい・・・『霊木』となって、
今もこうして、華をつけている・・・と、いうことなのです。〕