<伍>
ジ:うふふ―――・・・ちょっと、月夜の散歩ですよォ―――・・・
バ:(・・・・・。)
“月夜の散歩”にしては、随分とキケンなところを『徘徊』するんですね・・・あなたという女(ひと)は・・・。
ジ:あァ〜ら・・・ご心配なら、無用な事だと思いますよォ・・・・。
先程、教会のほうでも、申し上げたことですけどもォ、こォんなところに比べると、お国の通りのほうが遥かにキケンですからねェ。
それに・・・ここには、お心強い方もいる事ですしィ・・・。
バ:(ちっ―――!!)おぃ・・・ナオミ、この女(ひと)の護衛について差し上げろ・・・。
いいか、今度は決して目を離すんじゃあないぞ―――?!!
ナ:あっ―――・・・はい、分かりました。
ジ:おほほ―――・・・あァら、怖ァい怖ァい、何をピリピリとしているんでしょォね、あの方・・・・(クスクス)
ナ:(ムっ―――・・・)さぁて・・・・ね。
〔この・・・今現在、仕手の行われている、拠点の付近を、『月夜の散歩』と称して出歩いていたというのは、
常軌を逸脱してはいるようです・・・・。
(しかし、バーディーも然る者・・・この女史に対し使った『徘徊』・・・でも、この皮肉にも、少しも動じることがなかったとは・・・・)
しかし――― 見るからに『お嬢様』な、この女史を、さすがに一人にしておくわけには行かず、
とりあえずは、ナオミをして、警護に当たらせるようですが・・・。
(でも?『今度は決して目を離すな〜〜―――』とは・・・つまりは・・・・)
それに、どうやら、サヤのほうも、臾魅に同じ任を与えたようで―――・・・・〕
臾:おまっとさん―――-
ナ:あぁ―――臾魅か・・・なぁ、どうする?
臾:どうする〜〜ゆわはれましてもナァ・・・・
ナ:だよ・・・・なぁ。
ジ:(フフ―――・・・・成る程、この二人をして、私への牽制のつもりか・・・あの二人。)
〔そう―――・・・この女史を、一見してから油断のならない者と、見ていたサヤとバーディーからしてみれば、
これは“警護”などではなく“監視”の意味合いの濃いものであり――――・・・・
いや―――・・・しかし??〕
ジ:(フッ―――-・・・・)クククク・・・・・に、しても・・・かつて『死天王』として知られた、かの二人をしてこの程度とは・・・・
嘆かわしい――――・・・・
ナ:(ぇえ――――っ?!!)
臾:(い・・・今、こん人、なにゆうたってん??)
〔明らかに―――・・・今までの口調とは違う それ ・・・・
甘ったるい、舌足らずな・・・いかにも一見しては、『世間知らずのお嬢様』で通りそうな それ ・・・・
でも、今、この女史の口から吐いて出たのは、“修羅場”をいくつも潜り抜けてきた者の、 それ であり・・・〕
ジ:こんなところでは、あの者達の戦いぶりが拝めないわね・・・・
移動するから、来て頂戴―――・・・
ナ:ええッ・・・・あぁっ・・・
臾:ちょ―――・・・ちょい? どこ行きまんねんや――――・・・って。
〔どうやらジィルガ女史、今いる地点から移動するようですが・・・・・どこへ?
それは、予測どおり、サヤ・バーディーたちが、火花を散らしているであろう地点まで・・・・
――――すると、その地点までいく途中、狭く薄暗い路地裏のようなところで・・・〕
ジ:(あ・ら――――・・・)これは・・・・(ツ・ッゥ〜〜――――)
なぁる・・・・『斬糸』ね・・・危ないわね、これ――――
斬――――!!
ナ:あ―――・・・ぁあっ!! な、なんてことをすんですかッ!! バーディーさんが張っといたワナを・・・・
臾:(・・・に、しても・・・今、こん人、ナニやったんやの??) し、知らへんでぇ〜〜・・・
〔そう・・・なんと、ジィルガは、バーディーが張っていたであろう『待ち伏せ』用の、“斬糸”のワナを、何かで、切り裂いたようなのです・・・・
そう・・・・何か・・・・・で。
その後――― サヤ・バーディーが、ワナを仕掛けて置いたこの地点まで来ると、当然そこには・・・・〕
バ:よし―――・・・ここで、フィニッシュだ!! ・・・・ッあ・・・わ、私が仕掛けておいたワナが―――
サ:どうした―――・・・って、これは?!!
バ:あ・・・あんた!! どういうつもりなんだ! やつらをここに追い詰めれば―――・・・
ジ:追い詰めれば―――・・・一網打尽にできたとでも?
(フ―――・・・)笑わせないで頂戴、こんなものを仕掛けてて、逆に追い詰められるのは、あなた達のほうなのよ。
サ:ナニ―――? どういうことだ、それは・・・・。(この女・・・さっきとは、口調が、違う・・・・)
ジ:成る程――― クズ共が相手ならば、さすがにこれは有効打でしょうけれど・・・・
その前に―――― あなた達、イゾルテの特性・・・・ご存知なのでしょうね。
ナ:(ナニッ――――?!!)
臾:(ぇえっ??)
バ:・・・・・たしか、自己発炎能力のあるヤツ―――― だったな。
ジ:えぇ―――・・・そうよ、
ナ:(ホッ・・・)なら、間違いないんじゃないか・・・・
臾:へへ・・・・そやんなぁ。
ジ:でも、それは去年までの話・・・最近ヤツは、“発雷”のほうの能力も、身に付けたそうよ。
そんな者の前で、伝導性の高いこんなモノを仕掛けていたら、それこそ命取りというものよ・・・。
それに―――・・・私は、オバカさんは、嫌ぁいなの・・・・
バ:あ―――あんた・・・その口癖・・・!!?
臾:ヘっ――――? なんですやてぇ??
ジ:(ニャ・・・)そこ―――――!!
―――パ チン☆―――
〔そこには・・・さも当然そうに、一人の女史と、その監視を命じていた者達がいた・・・
いや、それ以上に驚いたことには、自分が仕掛けていたワナは、悉(ことごと)くに破られ、
剰(あまつさ)え、今回のターゲットの特性までも、教えてもらえるとは・・・・
しかも、噂には耳にしていた、“ある者”の“ある口癖”―――――
そして、それを裏打ちするかのように、その者が、指を一鳴らしすると、そこからは――――・・・・〕