<拾>
〔しかし、それでもまだ審議の追及は、留まるところを知らず――――〕
判:では―――・・・あなたはどうして、今のこの世に?
やはり、この世を魔界で統治するために―――?
ジ:・・・・・平たく言ってしまえば・・・・そういうことになります・・・。
検:ほう――――
陪:なんと――――
陪:では、やはり―――
―――ザ ワ・・・―――
ジ:ですが―――・・・
判:(ぅん?)
バ:(ナニ?)
ジ:とあるお方が、亡くなられてからは・・・そのオーダーは途絶えたままなのです・・・
ですから、今は取り立てて・・・・なす術がないのです。
〔彼女の口から発せられたのは、紛れもなく、『魔界における、この世の統治』だ・・・・と、いうのです。
が――― 今、彼女がこの世にいたとて、彼女より上からの命もなく、またその上位の存在もなし――――と、いうこと・・・・。
そして・・・・またもジィルガの口からは、耳を疑うような言葉が・・・・〕
判:そうですか――――分かりました・・・。
では、最期に何か言い残した事でもあれば――――
ジ:・・・・・・・・・。
判:ない――――の、ですか?
ジ:もし――――・・・・
バ:(ぅんっ?)
ジ:もし・・・・私の・・・願い事が・・・・たった一つ、叶うのなら・・・・(つぅぅ〜〜〜――――・・・)
バ:(泪―――?!!)
ジ:最期に・・・あの子に、驍ちゃんに・・・・会わせて下さい・・・・。(はたはた・・・)
判:その人に会って・・・どうしようというのですか?
ジ:私は―――・・・このあと、どうなってもかまいません――――
吊り首になろうが――― 火炙(ひあぶ)りになろうが―――― 馘(くびき)を断たれようが―――― 串刺しにされようが――――
どうなってもかまいません・・・。
ただ―――・・・そうなる前に、もう一度だけ・・・驍ちゃんに会って、抱きしめて・・・・お別れをしたいのです。(ポロポロ)
この―――・・・私の、ささやかな願いがかなうのであれば・・・・
私は、この後どうなろうとも・・・・文句は言いません・・・・。
判:――――・・・・分かりました。
では、そのことも、判決の材料といたしましょう。
それでは――――これより審議に入りますので、各検察官と、陪審員の皆さんは別室に入られてください。
それまでは休廷にしたいと思います。
カンッ―――☆ カンッ―――――☆
〔その・・・彼女の・・・・たった一つの願い事・・・・。
それは――― 今まで、実の弟のように可愛がってきた、ある男との今生の別れ・・・・
その、彼女の真意を前に・・・・泪しない者はいなかったことでしょう。〕
臾:(ひぐっ・ひぐっ・・・)え・・・えぇ〜話やんかぁ〜〜。
ウイッチはん、自分度ないなってもええから、ステラはんに会わしてくれ〜〜やなんてェ・・・
ナ:(あの人の・・・その思いは、アタシ達のと、そう変わりはしなかった―――っていうのか・・・)
それを・・・・あたしは・・・・・
サ:(〜〜―――に、しても・・・妙な話・・・だな。)
あんな・・・・“純”な魔族もいるってェのは・・・・ホントにそうなのか?
ナ:えっ・・・? それ――――って、どういう事?
サ:見ててわかんねぇか? あいつは―――泪を流してまで、一人の男に会いたがってたんだぜ?
オレ達がイメージしている、そういうモノとは、随分とかけ離れているじゃねぇか。
ナ:言われて―――・・・見れば・・・
臾:ホ、ホイだらやぁ、そういうコトなったら・・・・あん人、どないなるのん?
サ:無論――― 奴さんは、晴れて無罪放免・・・でも、異端審問官には、何のお咎めなんざありはしないのさ・・・・
臾:な―――なんでやねんな!?
サ:さぁね・・・ま、あいつ等に目ェ付けられて、捕まっちまうほうが間抜けなのさ。
臾:は〜〜―――・・・せやけど・・・そゆ言い方、きっつうおまっせ?
〔しかし―――それは、一般人的立場からいえること・・・実際に、あの場に立っていない者達の言える理屈なのです。
でも、サヤのように、立った事のある者であれば、そのようなことはどうでもよくなってくるようです。
(そうであるという理由は、“命あっての物種”だということ・・・疑いが晴れ、生きる事を謳歌できるというのは、この上ない喜びの表れなのでは?)
それはそうと――― こちらは・・・・と、いうと、審議の最中――――〕
バ:ちょ―――ちょっと待ってください! 私は反対です!
判:どうしてかね? ウォーロック。
バ:(っっ・・・く!)どうして・・・って、余りにも一方的ではありませんか―――!
ただ、彼女が“悪魔”であることの、それだけに対して『断罪』だなんてっ―――!!
検:君は・・・なにか勘違いしているのじゃないのかね?
なんでも報告によれば、彼女は、魔族の中でも上位魔族――――だ、そうじゃあないか・・・
そんなものを無罪放免にして、野に放ってみたまえ、どうなることか・・・
陪:そうだぞ――― それに、今処断しておかないと・・・後々面倒なことになりかねんよ?!
バ:し―――しかし! 今回のこの一件に関しては・・・彼女は、己の慾の為にではなく、人命救助の為に、能力の開放をした―――――と・・・
検:分かっておらんようだな――― それは一時的な気まぐれに過ぎんことだよ、
今、その時はそうであったとしても、百年――――千年あとにはどう出るか・・・分からないことじゃあないか。
バ:(く―――ッ!!) 話にならない・・・これではあの“セイラム”の二の舞じゃあないか!!
それに・・・第一・・・こんなものは異端審問なんかじゃあない・・・・現代に甦った『魔女狩り』そのものだ―――!!
判:これ―――口が過ぎるぞ、ウォーロック。
バ:そいつはどうも・・・。
だけど、これではっきり分かったことがある―――― こんなものは、所詮お飾りだった・・・って事がな!!
カッ――――ン☆
コロコロ・・・・・
パタリ
マ:・・・・・拾いなさい。
バ:(ナ・・・ニ?)うっ―――!(シ・・・シホの目が・・・開きかけている?!)
判:そういえば――― あなたは、あの女の弁護に来ているようだが・・・
この場においても、一向にしようとしないとは・・・・一体どういう事かね?
マ:何――― 何も弁護しうる機会が、審議の場・・・だけとは限らないだろう?
まあ・・・その時機がくれば、いづれは分かることだよ。
少なくとも――――今はその時機では・・・・ない。
バ:(なに―――? それは・・・また・・・どういう・・・)
マ:それよりも、何をしている・・・・それはあなたの持ち物なのじゃあないのかね? はやく拾い上げなさい。
それに、第一・・・辞めるとかにせよ、そういうことをするにはまだ早すぎる、
ちゃんと、この一件を片付けてから、辞めるなり何なりしたらどうか?
バ:わ―――分かったよ・・・。(す・・・チャ)
だけども、私はこの決議は、認めないよ・・・・
判:それでは――――無効票になるが?
バ:だったら――――それで結構さ。
〔全員一致――――が、原則であるこの審議を・・・・バーディー一人が反対したために、初の無効票が出たようです。
それにしても―――― シホ、判事のいうように、重い口を開いたものの、それはジィルガ女史を弁護する〜〜・・・と、いうものではなく、
バーディーが、怒り任せに床に投げつけた、異端審問員である証のエンブレムを、拾うように促せただけだったのです。
では――――彼女は一体ここ二何をしに・・・・?
それと・・・もう一つ、疑問が頭から離れないのは・・・・“神”側の人間は一体どこに――――?
それは――――やがて、審議が下る時・・・その、何もかも・・・・が、氷解することとなったのです。〕