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〔そして――― どうやら、ジィルガが拠点の穴の中心らしきところで、件のお札を貼り終えたようです―――〕
ジ:(これで―――・・・よし・・・
これで、この辺りの魔素も抑えられることでしょう・・・・。
(私も・・・少なからずの影響を受けるでしょうけれど・・・ね。)
さて――― あの二人はどうなったのかしら。
〔今の――― ジィルガ女史・・・・『私も、少なからずの影響』とは、一体なんの事を言っているのでしょうか?
それはそうと、ナオミ・臾魅の様子を見に行こうとする途中で・・・・
まさか、こんなところにいようはずのない人間の気配を、察知してしまったのです。〕
ジ:(ピク)な・・・何? この感じ―――・・・・
ま、まさか・・・あの子が・・・・そんなバカな?!!
〔たった――― 一人の人間の気配で、こうもらしくもなく狼狽している感じのするジィルガ・・・・
それもそのはず、その気配というのも、ここ最近で会っていたという人間のものではなく、
いうなれば・・・・昔から知っている――――
そう・・・自分が、実の弟のように可愛がってきた、あの男のモノと酷似していたからなのです。〕
ジ:(考えすぎ・・・? 驍ちゃんが、今、この時間に・・・それも、こんな処をうろついているはずが―――)
しかし―――迷っている暇などないわ!!
〔その一方で――― ここ数日のうち、ジィルガ女史の特訓を受けさせられていた、ナオミと臾魅・・・・
その成果あってか―――?〕
臾:おりゃ―――! “氷華演舞”―――!!
へへん――― こりゃ楽勝でんな?
ナ:あぁ――― まぁ・・・確かに・・・ おい、そこ―――物陰に一匹・・・・
臾:おっしゃ―――! “大撃砲”―――!!
ナ:(あの人が・・・アタシに言っていたように、“連繋”というのも、まんざらバカにはできない・・・)
〔そう――― この二人は、ジィルガ女史に・・・
臾魅は、更なる攻撃特化の訓練を・・・・ナオミは、自己に備わっている“あるシステム”を考慮に入れた、戦略性を――――
それぞれが受けていた―――と、いうのです。〕
臾:なぁ―――アミさん・・・
ナ:わかってる――― コレはこれ、アレはあれ―――と、きっちり分けとかないと・・・・な。
ま、ウイッチ様様―――ってヤツだよ。
おい、どうした、臾魅・・・・さっさと引き上げるぞ―――
臾:あっ・・・あァ・・・・そやかてなぁ―――― あれ・・・ステラはんとちゃいますか??
ナ:はぁ?! 何で・・・こんなところにタケ坊が―――?
臾:さぁ――― あっ!もしかすると、夜釣りかも知れまへんで??
なんでも、この時機、メバルが旨い―――ゆぅてたさかいに・・・
ナ:(だからといって、なんだってこんな危ないところに・・・ちゃんと封鎖をしとかなかったのか??)
ちょっと臾魅―――後の事、頼んだよ―――!!
臾:あっ―――! ちょっ・・・待ちぃや! そらひきょ――やんでぇ??!
〔後の事――― つまり、自分達の役目終了―――の報告を臾魅に託し、ナオミ自身は、要人の身柄の確保に向かったのです。
そしてそこには、釣竿にクーラー・バックと、見るからに“海夜釣り”の格好をした・・・・・〕
ナ:(あっ――!やっぱり・・・)
ちょっと!タケ坊!! あんた、ナニこんな危険な処をうろついてるんだい??
ス:(ホヘ?)おや―――誰かとおもえばナオちゃんぢゃない。
いっやぁ〜この時機メバルが美味しくってね、そっちの人達にも振舞ってあげやうと思ってたんだけど―――
どしたの??
ナ:ええっ―――(た、タケ坊の手料理・・・)・・・って、それどころじやあないんだよ―――!
今、あたしら仕手の真っ最中なんだ・・・あんた、こんなとこにいたら真っ先に狙われちゃうよ―――!?
ス:あっ・・・そう・・・?
うぅ〜〜ん・・・まぁ、ナオちゃんがそこまで言うんなら、しょうがないねぃ、また今度にしよ―――
ナ:(う、ん・・・もぅ―――ったく・・・)
ほら―――こっちだよ、アタシが手引きしてあげるから・・・・
〔なんともまぁ――― 実に呑気というか、手のかかるヤロウのようであります。
―――にも、かかわらず、自分の幼馴染を安全な地点へとエスコートするナオミ・・・・(をんな・・・だねぇ〜)
が、しかし―――
この様子を、虎視眈々と物陰から狂気のまなざしが見つめていたのです・・・〕
ラ:(魔人狼;ラーゲル;レベルB)
ふっ―――ふふふ・・・ようやくこのオレ様にも運が向いてきたみたいだな・・・
このゾーンから出てきてみれば、狩り手のヤツらが既に出っ張ってきてやがるし、
それに―――あの地点からは、なぜか魔素が極端に薄れてきてるときてやがる・・・。
これじゃあ、退く事もままならないと思ってたが・・・ここであの男と女の二人の首級(しるし)をあげりゃあ―――・・・(くひひ)
〔どうやらラーゲル、ステラとナオミの二人を、カップルか何かと間違えたようで―――
でも、その物音を立てずに、標的(ターゲット)に近付く・・・
と、いうのは、この二人にも、確実に危険が差し迫っていた・・・と、いえるでしょう。〕