お:(もうわたくしの出番は終わった事ですし・・・、少しくらい抜けてても平気・・・よね?) あの・・・もし、守衛さん。
守:はぁ、なんでしょうか、柾木様。
お:もし、森野様がこられたなら、わたくしは調べ物があるから帰った。 と、こうお伝え下さいませんか?
守:はぁ、お調べ物が・・・、ですね? はい、かしこまりました・・・・。 では、そのように・・・。
お:よろしく頼みましたよ。
守:しっかし・・・、今になって調べ物をねェ。 上に立つ方でも、この『クリスマス』の日ぐらいは休めばいいのに・・・。
でも、あの人大丈夫かなぁ、ストール一枚で、一時やんでたけども・・・、また降り出してきたからなぁ。 また今夜も冷えるぞ・・・。
(そう、彼女は十分厚着をしないまま、雪の降る中をストール一枚で、どこかへ出かけてしまったのです)
(彼女の気になる行方・・・、それは以外にも、昨晩佇んでいたあの場所、そう『シャングリ・ラ』の近くの電柱だったのです)
お:・・・・まだ早かったかしら、明かりがついてないわ・・。 もう少し待ってみようかなぁ・・・。(さぶ・・・)
(すると・・・、しばらくして明かりのついていないところから、なんともいえない甘美な音色が・・・、それは昨日のピアノではなく、今日はギターの音が・・・)
お:あ・・・、誰かいるのですわ、それにしても、いい曲、なんと言う題名なのでしょ。 それと、誰なのでしょう・・・、弾いていらっしゃるのは・・・。
(明かりのついていない、一見して誰もいそうのないところから、なんともいえない優しい音色、その時そこにいたのは・・・)
【杜下驍】
〔星の小さな贈り物〕
驍:ふぅ、これはこんなもんでいいか。 それじゃお次は・・・・と。
(そう、この音の正体こそ、昨日からここに寝泊りしていた、杜下驍本人だったのです。)
お:あ・・・、止んでしまった・・・、わたくしがここで盗み聞きしているの分かってしまったから? え・・・っ? 今度は違う曲・・・?
【杜下驍】
〔く じ ら〕
お:なんて・・・、優しい、まるで誰かを思っているような・・・。 繊細で、優雅な・・・。 え・・っ? こ、これも?
(そう、この曲も全てを通して弾かれることはなかったのです、まるで何かを試しているかようにパート、パートの部分のみをピックアップしながら・・・)
驍:これも・・・、こんなもんでいいだろ。 それじゃいっちょ仕上げに。
お:あっ! こ・これは!!
【杜下驍】
〔カヴァレリア・ルスティカーナ “間奏曲”〕
お:オペラ『ルスティカーナ』の間奏曲・・・。(この曲をギター一本でだなんて・・・)
ま、まさか! あそこにいらっしゃるの・・・って?!(ファサ)(ここで、頭からかけていたストールが取れる)
でも、まさか・・・、驍様なら、もっと晴れやかな舞台でなされるは・・・ず・・・ ・・・くしゅん! は・・・っァ・・、いけない、いつの間にかストールが。
あぁ、なんだか、体がだるい・・・、熱も・・・(ふふ、これも盗み聞きしていた罰が当たったんですわ)
このまま会場に帰って菌を撒き散らすより、大人しく自宅養生した方がよいようですわね・・・・。
(今にして思えば、そこにあるバーで暖を取ればよかったようなものを、そうしなかったのは自分が盗み聞きをしていたという罪に駆られたからでしょうか。
いづれにしても、彼女は自分のマンションに黙って帰ってしまったのです。
そう、婀陀那達に連絡を取ることをせずに。(これは恐らく、自分のせいでパーティを白けさすまいと思ったため)そして、そこに一つの置き土産を残して・・・。)