≪参:追う者と追われる者≫
紫:うふふふ――――、さぁ・・・て、邪魔者は失せた事だし、こんな処もうおさらばしないとね―――
じゃね―――♡
〔愛想の良い笑みと声を残し・・・義賊は去ったようでございます―――
すると・・・間もなくして、この『江戸』の、治安警察部隊である=奉行=の勢が、押し寄せてきたのですが・・・〕
岡:(岡ッ引き;=奉行=の中では一番の下っ端)
へっ―――神妙にしろいッ!!(・・・って)ありゃ?!
同:(同心;=奉行=の中では、上記の岡っ引きの上司にあたる)
どうした―――
岡:あっ・・・こりゃ旦那―――いや、それがですね?
同:(うぅむ・・・またか―――)
同:しかし―――いつ見ても鮮やかな手並みだよなぁ・・・。
同:―――つか、これ(盗賊を捕縛する事)、オレ達のお役目なのにねぇ・・・・
〔そこにあったのは、前(さき)の紫電との闘いで、伸びてしまっていた盗賊連中と、
半ば呆然としていたこの大店、『越前屋』の主人の姿だったのです。
しかし―――奉行の勢は、自分たちの役回りである、悪人の捕縛を、かの義賊に取られた挙句、
大店の財の奪取までをも許してしまっているのです・・・
そう―――つまるところ・・・“大泥棒”と“捕り物”は、不倶戴天の敵(かたき)同士・・・
仲良しこよし―――で、やっていけるはずもないのです。
すると―――同心や岡っ引きたちより遅れて入ってくること僅か・・・
どうやら、彼らの上のお役人がここに来た模様でございます。〕
与:(与力;=奉行=の中では、奉行に次いで地位のある者。
前述の“岡っ引き”“同心”達は、この者の統率下にある。)
おい―――どうしたい・・・こんなところに屯して。
同:嗚呼っ―――これは・・・(ペコリ) 『筆頭与力』秋定(ときさだ)様・・・。
いえ―――それが・・・
秋:(秋定;ときさだと呼ばれる、眼光鋭き漢。)
ふぅん―――なぁるほど・・・ねぇ〜〜。
押し込みに入られた挙句、娘も殺害―――その上義賊まで出たとあっちゃあ、眼も当てられねぇってトコだな。
ま―――・・・所詮、あくどい事をして儲けた金だ・・・因果が巡り巡ってきた―――ってトコだな。
悪いことは出来んねぇ・・・越前の旦那。
同:と―――秋定様!!
秋:本当のことだよ・・・言って何が悪いかね。
こっちは調べをつけた上で物を申している事だ。
『泣きっ面に鉢』―――で悪いが、越前屋庄衛門、あんたを“鉄砲横流し”の罪でしょっ引かなくちゃならん・・・
父:――――・・・。(ガクリ)
秋:・・・・だが、これからは性根を入れ替えて商いに精を出す―――っていうなら話は別だ。
今回のところは大目に見てやろう・・・
同:し、しかし―――
秋:いいんだよ・・・見な、奴さんのあの面を。
今まで手塩に掛けてきた娘を殺され―――全財産を獲られたんだ・・・
この上、“獄門”とあっちゃあ、怨みを遺してこの世を去りかねねぇ・・・
そうすると、またおいらの仕事が増えるってもんでね・・・。
ま―――、あとの事は宜しくやっといてくれ、頼んだぞ・・・。
〔その者―――当時をして、六尺(約180cm)もの体躯を持ちあわせたり・・・
しかも、部下達は彼の事を『秋定』(ときさだ)と呼んでいたのです。
そして―――この秋定なる人物、中々に油断ならない者のようで、
それというのも、今回押し込みと義賊に入られた、この『越前屋』の余罪を詳(つまび)らかにしただけでなく、
今回に限り、情状酌量で罪を免じ、なかったことにする辺り―――
全きこの人物は、総てお見通しの上で、現場に臨んでいたようでございます。〕