≪漆;指南風景≫

 

し:それはそうと―――ねえ・・・ちょいと、

  あなたも、一応は武士の端くれなんですから、ちゃんとした職や士官の口でも見つけたらどうなの??

 

素:・・・・い、いやぁ〜〜―――照れるなぁ・・・。

し:(は?)な、なに―――よ、それ・・・って。

 

素:えっ?いやね? だって―――ほら、まだ夫婦(めおと)になったわけぢゃ〜ないんだし・・・

  お互いを『お前』『あなた』―――なんて、呼び合う仲になっちゃっちゃあ、他の人が聞いてたら、すんごい誤解生む――――・・・

 

☆☆〜〜どっごぉ―――ん〜〜☆☆

(顔面直撃)

 

素:――――・・・・(ぽろ)

し:バカ言ってないで、さっさとどっか行ってらっしゃいッ!!

 

素:ほ・・・ほへぇ〜〜い・・・(ボロ)

 

 

〔どうやら・・・この素浪人のいけないところは、余計な事が一口多いようで―――

そのお蔭で、たった今、しのさんからいいパンチを顔面に直―――とは・・・・

 

でも、“喧嘩するほど仲が良い”との喩え通り、端から見る分には、中々お似合いの、このお二人。〕

 

 

し:ちっがぁぁ〜〜う!##

  どこをどう見れば、“お似合い”なんですかッ!!全く―――!!#

 

素:まったくだよう・・・こんなか弱いおいらに暴力振るう―――・・・だ、なんてさぁ。(ぶちぶち)

 

 

〔おやおや―――二人とも、そのことを激しく否定していますが・・・

どうなんでしょうねぇ、本当のところは・・・・(クス)

 

 

それはさておき―――ここの教え子たちも、三々五々集まりだしてきたようです。〕

 

 

子:せいせ〜〜―――い、おはようございまぁ〜〜――――す。

し:はい、おはよう・・・相変わらず元気がいいわね、ゴン太―――

 

子:はよ〜〜―――ございまぁす。

子:―――――・・・・・ですぅ。

 

し:はいはい、おはよう―――あなたたちも仲がいいわね。

 

 

〔今、見聞したように、ここには、活発なガキ大将風の男の子から、可愛い姉妹まで来ているようなのです。

それでは・・・ここではどういった事を教えているのでしょうか。〕

 

 

し:はぁ〜い、それでは・・・今日は昨日のおさらいをしましょうね―――

  さぁ、皆で大きな声で唱和しましよう。

 

子:はぁ〜〜――――い

 

 

あめ つち ほし そら やま かは

(天)  (土)  (星)  (空)  (山)  (川)

 

みね たに くも きり むろ こけ

(峰)  (谷)  (雲)  (霧)  (室)  (苔)

 

ひと いぬ うへ すゑ ゆわ さる

(人)  (犬)  (上)  (末)  (硫黄)  (猿)

 

おふせよ

(生ふせよ)

 

えのえを

(榎の枝を)

 

なれゐて

(馴れ居て)

 

 

 

〔これは―――おそらく、この時代に読み書きが普及し始めるくらいの、簡単な語句を連ねたもので、

通称『天地の詞』(あめつちのことば)と呼ばれたもの。

 

48ある仮名を重複させずに総て使っており、それでも『え』が繰り返されているのは、

それはこの当時は、“あ”と“や”の行の『え』が、音節として区別していなかったから、

とされていたことを示しておるようでございます。

 

しかも―――こちらのほうが、諸兄ご存知の『いろは歌』よりも、以前に成立したようで・・・

――――と、まあ、そういったのをここで教えているのでございます。〕

 

 

し:はぁ〜い、大変よく出来ました。

  このようにですね・・・“あめ つち・・・”という言葉のほかに、“いろはにほへと・・・”などもあるから、

  併せて覚えておくようにね?

 

子:はぁ〜〜――――い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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