≪陸;見えぬ接点―――≫
し:ああっ―――あっ、あっ・・・あなた様ががが・・・
たっ、たっ―――・・・鷹山の左近様ぁ〜〜??!!
左:ま、まあ―――何もそこまで驚かれなくとも・・・
(なんとも・・・さぁびす精神の旺盛な方よのう・・・)
し:お―――驚かないも何も・・・今をときめく話題の方ではないですか・・・
そ、それが―――こんな下町風情に来るとも思えませんでしたし・・・(建前)
(そ、それにぃ〜〜―――この人、『北町奉行所』の“与力”ぢゃあないのよぉぉ〜〜―――!!
も、もしかして、ここであたしの素性がバレて―――“一巻の終わり”ぃぃ〜〜―――??)(本音)
左:あっ―――ああっ・・・これこれ・・・
今、ワシがここにこうして来ておるというのは、全きの“お忍び”―――
そういうことに、してはもらえまいか?の??
し:えっ―――・・・あ、はいはい・・・。
(ち―――違うのでしたか・・・(ほ)よ、よし・・・ならば〜〜―――)
そう―――させていただきますです・・・はい。
左:む―――そうか、かたじけないの。
ところで―――話は変わるが、蝉之介はおるのだな?
し:は―――?はい・・・
日がな、寝そべってばかりですので・・・
左:ふうむ―――そうか・・・よし、よし。
(コレで―――居るところは抑えられた・・・な。)
〔なんとも―――意外や意外な人物のご来訪に、すっかりと魂消たしのさん。
でも〜〜―――?実のところ、しのさんの驚いているというのは、
この左近なる人物が、“超”のつくほどの有名人―――だからというのではなく、
むしろその“肩書き”―――『奉行所』の“与力”だから驚いちゃっているのです。
え?どうしてか―――って??
だって・・・彼女―――『義賊』=紫電=なんですから・・・
でも、ここで変にうろたえてしまっては、今までの苦労が水の泡ですので、
何とか踏ん張って取り繕ったご様子―――・・・
――――と、左近は左近で、当初の目的、蝉之介の情報を手に入れて『にぃんまり顔』のようです。
ところが―――・・・?〕
し:あ―――あの・・・左近様?
左:ぅん―――?!なんでしょうかな??
し:あの・・・蝉之介と、“古くからの知り合い”だ―――っておっしゃいましたですよねぇ?
左:ああ―――確かに、そう言ったが・・・?
し:では・・・昔からあんなんです?
左:ああ―――!! 昔から一つも変わりはせん!!
全く・・・日が日がなずっと寝てばっかりおるし、ワシが―――
『少しばかり体を動かさんと、身体に障るぞ―――』と、言ったらば・・・
『“蝉”・・・ってなぁね、十年しか生きられねぇが―――九年を土中で、
その後の数ヶ月を、やっとこさ土の上の世界に出て、啼いて生を終える―――そう云ったもんなのさ・・・』
―――などと、屁理屈ばかりを申しやがる・・・。#
し:はぁ〜〜―――・・・。
(あ、だから“蝉之介”―――って、ふざけた名前を使ってるのぉ??)
でも―――・・・なんだか、左近様のそのお気持ち・・・分からないでもないですわ・・・
左:――――・・・。(じぃ・・・)
し:(えっ?)あ―――・・・あら?? どう・・・なされたんです? あたしの顔を―――・・・
そんなに見つめられますと・・・しのは恥ずかしゅうあります・・・。(ぽっ♡)
〔しのさんが一番に不思議に思っていたこと・・・それは、この鷹山左近なる人物と―――
自分の住まいに転がり込んでいる、居候で・・・素浪人の蝉之介―――
この二人が見えない接点で結ばれている・・・と、いうことにあるようです。
しかも―――この左近も、どうやら蝉之介に過去に何度も煮え湯を飲まされているらしく、
蝉之介の過去の悪行の数々が、暴かれていってるのですが―――
どうしたことか、左近、今度はしのを じっ・・・ と、見つめ―――
すると、徐(おもむ)ろに・・・??〕
左:――――・・・・。(うる〜じわ・・・)
わ、分かっていただけるか!しのどのぉぉ〜〜―――!!(抱+感涙)
し:えっ―――??(はれ・・・?)あの・・・左近様??
左:おっ―――おおお・・・これはみっともないところを見せてしもうたの・・・
いやぁ―――なに、なにせ・・・要領の良いあやつばかり得をしておるものでなぁ、
そこへ行くと、真面目にやっておるワシが惨めに思えてきて―――・・・
それにしても―――・・・見れば見るほど、そなたはそなたの父によう似ておる―――
し:――――えっ?!! い・・・今なんと―――
左近様は、あたしの父を存じ上げているのですか??
左:ああ―――知っている・・・。
ワシとそなたの父とは、共に働いておった仲間同士―――
それが・・・そなたという忘れ形見を残して、ワシらより一足先にあの世に旅たってしもうた・・・
し:そ―――そう・・・だったのですか・・・。
左:それを―――ようやく、ワシの従兄弟からそなたという存在を知り・・・
今、ここに―――こうして会いに来た・・・ようなものだしな。
し:――――・・・。
左:しの―――・・・どの??
し:(分からない―――あたしの父は、あたしと同じ“義賊”だったはず・・・。
それを―――黒鵺の伯父さんからそう聞いて育ってきた。
その父が・・・今は北町の与力である左近様と同じくして働いていた―――??
分からないわ―――・・・)
左:しのどの―――??
し:(それに―――確か蝉之介も、黒鵺の伯父さんから・・・『父の知り合い』だから―――と、いって、
ここに転がり込んできた・・・。
あたしの父―――左近様―――そして蝉之介・・・この三人の接点が見つからない―――分からない!!)
〔その眸が潤んだか―――と、思うと、急にしのさんに抱きつき、 おいおい と泣いてしまう鷹山の左近。
昨晩の捕り物の最中に、秋定から言われた『泣き虫の左近』の名に、偽りは莫きようでございます。
ところが―――そのあとで、自分に“父の面影”を見た・・・そういわれ、しのは戸惑ってしまったのであります。
なぜならば、彼女の父もまた“義賊”であり―――その彼らを追い回している=奉行=の連中とは、
とても一緒に働いていた―――とは思えなかったから・・・
しかも―――居候の素浪人・・・蝉之介も、もとは自分の伯父であった黒鵺からの紹介で、
伯父からはよろしく『父の知り合い』だから・・・と、言ってきかされていたのです。
ただ―――今の時点で分かった事といえば、『自分の父』『鷹山左近』『素浪人の蝉之介』・・・
この三人が、今は見えない糸で結ばれている―――と、いうことだけ・・・
しかも、今までナゾだった“父とその死”・・・その父と仲間であったとされる“奉行所の与力”と知己の“居候の素浪人”・・・
この三つを無理に結び付けようとすれば、その謎めいた糸はますます絡まりあうばかり・・・だったのであります。〕