【其の五;妖艶なる―獣―】
≪壱;捕り物≫
〔さてさて〜〜―――今回の講釈の場面は、とある日の、とある普通の捕り物から・・・で、御座いまする〜〜―――。〕
同:おいっ―――そっちに逃げ込んだぞ、先回りして袋小路へ追い込め―――!
岡:合ッ点―――!!
岡:あっ・・・あそこにいたぞ―――追い込め〜〜―――!!
御用−! 御用−!
〔どうやら・・・昼中の捕り物ではるようなのですが、むしろ盗みを働く 賊 の類は、夜中にて蔓延(はびこ)るもの・・・
それゆえに、北町の奉行所の同心に岡っ引きが、ある一人の賊を捕らえんがために、次第に袋小路へと追い込んでいったようでございます。
―――と、ここで・・・気になるのはその賊―――の事なんではございますが、
ひょっとして・・・このお話しの主人公 義賊・紫電 こと、しのなのでは・・・と、思いたくもなるのですが―――
それは少々違ったように御座いまする。
それといいますのも―――〕
左:―――ご苦労・・・
同:ああ―――これは左近様・・・
左:して―――下手人は何者ぞ?
同:はあ―――・・・どうやら昨今世間を騒がせておる・・・
鼬 貂
ゆうちょう
同:―――の、ようでございまして・・・
左:なに? 鼬貂(ゆうちょう) とな??
(・・・と、いうことはしのではなかったか・・・)
然様か―――あい、判った。
〔この現場に颯爽と駆けつけましたのは、ご存知、北町与力―――鷹山左近なのではありますが、
左近の気がかりとしている事が一つ・・・と、云いますのも、どうやら想像に難くないようでして、
未だに 義賊 より足を洗っていないでいる 紫電 なのでは―――と、思っていたようで御座いまする。
しかし―――同じく北町の同心より訊いたれば、その賊は最近巷で噂にあがっている 鼬貂(ゆうちょう) のようでして・・・
では、その 鼬貂 と申す者とは――――・・・〕
同:さぁ―――もう逃げられねぇぞぅ・・・
同:観念しろいっ―――!!
鼬:―――――・・・・。
――その鼬貂なる者・・・しなやかなる肢体を持ち合わせたる女性(にょしょう)なり・・・――
左:神妙に致せィ―――!
北町奉行所・与力・鷹山左近である! 大人しく縛につけいっ――――!!
鼬:鷹山――――(フフ・・・ククク―――)左近・・・・
左:ぬんっ―――?!
鼬:ハぁ――――ッ!!(シュ・・・シュ―――)
左:ぬゥおっ―――・・・く!!(キィン−☆キィィン〜☆)
同:ああっ―――左近様・・・おのれぇ〜〜―――!!
鼬:(フフッ―――・・・)今日は――――これまで・・・(ス・・・)
〜ボムン〜
同:うわっ―――(・・・って)煙幕―――?
左:(むっ?)危ないっ―――!
どすっ!
左:ぐおっ・・・!
同:さ―――左近様!!
〔ナゼに・・・その時、賊の鼬貂なる者が、周囲(まわ)りを取り囲まれる失態を演じたのか―――
御覧になれば判ろうというもの。
然様―――この鼬貂の第一の目的は、北町与力・鷹山左近にあったというのでございます。
しかも、周囲りを取り囲まれているにもかかわらず、不敵なまでの笑みを漏らし、
逃げる際には煙幕球を投げつけて、囲んでいる者達の目を眩ませたか・・・と、思えば、
岡っ引きに手裏剣を投げつけたのでございます。
そのことを気配より察した左近が、その者を庇うようにして、左肩に鼬貂の手裏剣を受けてしまったのであります。
しかもしかも――――〕
左:痛ッ―――! ・・・どうやら念入りにも毒を塗ってあったようじゃな―――
同:な―――なんですと??
左:――――まあよい、して、賊のほうはいかがした。
岡:そ―――それが・・・霞のように・・・
左:逃げられたというか―――(クッ!!)
仕方がない、今日のところはこれで引き上げじゃ。
〔な、な・・・なんと、その手裏剣の先端の部分には、毒が塗りつけられてあったようでして、
それでも致命傷には至らなかったのも、“今回のところはご挨拶程度に・・・”
―――と、している鼬貂の目論見が見え隠れしているのでございます。〕