≪参;世間話≫
〔それではなにゆえに―――篠が左近のお見舞いを・・・と、思いたくもなるのですが、
もうお忘れになりましたでしょうか、かつて左近が、しのの住まう下町長屋に ひょっこり と顔を見せたことを・・・
とどのつまり―――そこが『縁』(えにし)となりまして、自分と同じ境遇にある左近を励ましてやろう―――と、思い、
ある者の伝手(つて)から、この度左近が負傷したことを聞きつけましたしのが、自分なりに考えて行動に起こした―――
ようでございます。〕
し:それにしても・・・とンだ災難に見舞われましたね。
左:しの―――・・・。
あ、いや―――それより、そなたがワシの受難を知ったというのも・・・
し:―――はい・・・秋定様より。
左:(やはりな―――・・・)左様であったか・・・。
して、あやつはなにやら云うとりはせなんだか?
し:(クスッ―――)やはり・・・気になります?
左:は―――?
し:だって―――あいつ・・・ったら、
“定華のヤツが珍しくヘマこきやがったから、お前が行って元気付けてやってくれ―――”
ですって。
左:(ムカ#)一応・・・予想はしておったが、改めて云われると腹の立つものよのぅ。
し:あとそれと―――
“本家の事まで分家のほうに廻すんぢゃねぇやいっ―――”
ですって・・・。
左:(う゛・・・ぐむぅ〜〜)そ―――それを云われると・・・
し:だからあたし云ってやったんです―――
“秋定様がしっかりしてれば、左近様も追い詰められる事はなかった―――”
―――って。
そしたら、あの人どう云ったと思いますぅ〜〜?♪
左:は―――あ・・・?
し:何も言い返せなくって、だんまりこくってたんですよっ―――♪(ぷぷっ・・・)
〜――あ〜っはっはっは――〜
〔然様―――しのが左近の負傷を知ったといいますのも、しのの住んでいる下町長屋に居座っている、“妖シ改メ方”の一員・・・
鷹山秋定=日暮蝉之介から知らされたようなのでございます。
しかもしかも―――その言い回しにも、憐憫のひとかけらもありますどころか、逆に悪態をつくという始末―――
ですが、そこはそれ―――しのが宜しく左近の代わりに仇をとりましたようで、そのおかげで、左近も少しは溜飲が下がったようでございます。〕
左:あははは―――なんと、そうであったか・・・いや、愉快愉快、あははは――――
あいっ―――痛ッッ・・・・
し:ああっ―――無理をしてはいけません。
左近様は名誉の傷を負われてしまったのですから・・・
左:しの―――・・・
し:はい―――ここはしのにお任せ下さいな。
傷にあてがう布地のやりかえなど、あたしがしますから―――
第一、今日はそのために来たようなものですしね。
左:えっ――――?
あ・・・いや―――それは・・・それはせんでよい、係り付けの者がするから・・・
し:いいえ―――大丈夫ですよ。
左近様も知っておいでのように、あたしの父が―――あの加藤団蔵だ・・・と、いうことを。
左:い〜〜―――いや・・・しかし・・・
し:大ぁ〜い丈夫―――ですっ・・・て!
普段のあいつならいざ知らず、左近様の傷を看るんですからぁ〜〜―――
〔しかし―――このとき、笑った弾みに、傷のヤツめが痛み出したりましたるようでして、
そこでしのの―――この屋敷に赴いてきた第一の目的こそが、
『左近を甲斐甲斐しく手当てなぞする』
―――と、いうことが朧げながら判ってまいるのではございますが・・・
果てさてどういたしましたるか――――自分の受けた傷が浅いから、逆に看てもらうのが恥ずかしいのでしょうか・・・・
しのに患部を見せたがらない左近がいたわけなのでありまして―――・・・
ですが―――しかし・・・障害が多い(この場合では、手当てを拒まれる―――と、云ったような・・・)と、いうのが、
逆にしのの“目的を達するための何か”が、=熱く=させるのでありまして・・・
自分の父の事を引き合いに出しまして、何とかして左近の傷を看ようとするのでは御座いますが――――〕