≪伍:“彼女”が“彼”になった理由≫
〔かくして―――約束の刻とあいなりまして、夕餉の膳を左近のところへと持ってきましたしの・・・
そこで―――鷹山家にまつわるある曰くを聞かされたのでございます。〕
し:・・・・左近様―――
左:―――――・・・。
しゅる〜――― しゅるしゅる・・・
し:ぁ・・・・あ――――!!
左:・・・これが―――ワシのあるべき姿じゃ・・・。
し:(や―――やはり・・・)でも、どうして―――
〔夕餉の膳を一口二口付けましたところで、しのは重々しく口を開いたのでございます。
すると左近は、何も云わず、しのだけに見せたのです・・・
ありのままの姿―――胸元のサラシを解いた姿―――を・・・
すると―――やはり・・・そこには、しのの思っていた通りの 女 の躰が・・・・
(しかも、少々しのよりかはあったようでして―――)
でも・・・だとしたなら―――??
ナゼに左近は“女”ではなく“男”の身なりをして、鷹山本家の跡目を継いでいる・・・か、なのではございますが・・・〕
左:実はの―――鷹山の本家には、子は おなご であるワシしかおらなんだのじゃ・・・
しかし―――そのことは、“本家”は父上の代で取り潰されてしまう・・・!!
じゃから・・・ワシは―――おなごである自分を棄てたのじゃ。
し:そ―――そんなことが・・・
左:のぅ―――しの・・・ワシの本名を知っておるだろう・・・。
皆が呼んでおる“左近”の事ではない、本当の名を―――・・・
し:ぇえっ?! た―――確か・・・えとぉ・・・
(鷹山―――左近・・・定・・・・)――――あっ!!
左:そう・・・“定華”―――。
じゃが・・・あれは、ワシが男となり、女であったことを残す最後のモノ―――
ワシの本当の名とはな―――・・・=お華=・・・なのじゃ。
〔今―――申し立てました通り、左近が継いだ鷹山の本家には“姫”しか居りませんでした・・・。
しかも―――お家を継ぐのに、女性であることは許されなかった時代なのであります。
なぜならば―――“姫”ならば、どこかのお家に嫁いでいってしまうから・・・
つまり――― おのこ がいないお家は即断絶―――と、いう憂き目に晒されていたのでございます。
それでは“養子”という手があるではないか・・・と、思うのですが、
左近達が幼少の頃の鷹山家の地位というものが、そう高くはなかったようで御座いまして、
この鷹山の名に陽の光が差し込みましたのも、皮肉にも左近と秋定が『妖シ改メ方』の任に配属された―――・・・
また、その裏を返しますと、その当時より『妖シ』の 総元締め を担っていた水戸様の思惑もそこにはありましたのでございます。
それはそれとして、しのも左近の本名=定華=のいわれを聞くに及び、“ああなるほど”
―――と、得心がいったようにございます。〕