≪漆;とぐろを巻く者≫
―――ずる―――
し:(うぅん―――・・・)
―――ずるり―――
し:ぅうん〜〜―――・・・(呆〜・・・゜)
(はっ−!)・・・・左近――――様??
〔それは―――その日の丑三つ刻・・・古くは陰陽道などでは、妖シたちの活動が活発となる頃合に・・・
眠りの浅くなったしのの耳に飛び込んできた―――重くもあり、また何か長いモノでも引きづるかのような物音・・・・
その音に、しのは目を醒ましてしまったのであります。
このことを―――当初のしのは、未だ傷の塞がりきらない左近が、厠に行くために足をひきづっているのでは・・・
と、するのではございますが―――
そこで彼女はあらぬモノを見てしまったので御座います―――・・・〕
し:(えっ??)だ―――・・・誰? そこに・・・いるの―――
――〜〜ずるる〜〜―― ざざざ――――〜〜〜・・・
〔ようやくにして、寝惚け眼(ねぼけまなこ)が冴え―――しかも頭の中もはっきりとしてきた頃・・・
そこには“ようなモノ”などではなく、はっきりとしたモノ――――
今までにも見たこともない 大蛇(おろち) の“それ”が――――左近の寝床付近でとぐろを巻いていたというのです。〕
し:(ひ・・・)
いっ―――いやぁぁあ〜〜―――!!!
さ・・・左近様―――!!
〔そのことを―――ついぞ、左近が妖魎の者に呑み込まれてしまった―――・・・
と、勘違いをしたしのは、叫び声をあげましたのですが・・・
すると――――??〕
左:ぅぅっ・・・うううっ―――
し:さ・・・左近様? そこにいらっしゃるのですか?
まだ―――大蛇のヤツめに丸呑みにされた・・・と、いうわけではなかったのですね??
嗚呼―――よかった・・・待ってて下さい、あ・・・あたしが―――・・・
がっ―――☆
(どて☆)あつつっ―――! く・・・暗くて何も見えやしないわ・・・
そ、そうだ―――行灯を―――・・・
〔なにやら・・・部屋の隅にて、左近の呻いたる声が―――・・・
どうやら彼女は、未だ大蛇には呑まれきっていない様子・・・そう勝手に思い込み、
憎い大蛇のヤツめから、左近を助けようとせんとしたところ―――
その大蛇の体は異様に長くも太く―――しのはそれに蹴躓(けつまづ)いてしまうのですが・・・
それも無理らしからぬところ、今宵はなんと言っても 朔の日 ・・・星明りはありましても、月明かりが望めない日―――
それゆえに、墨を塗布したような=闇=が、そこにはあったので御座いますから・・・。
だから―――今、左近がどのような状態に陥っているのかを知りうるために、しのは行灯に火を灯そうというのですが・・・〕
左:だ―――だめじゃ!!ならぬ―――!!
灯かり・・・灯かりをつけてはあぁぁ〜〜――――・・・・
し:えっ―――?!
ぽっ――― じじ・・・
――――ぁ・・・あああ!!
〔なんとも―――左近からは意外とも思える申し出・・・
灯かりをつけてはならない―――
なのではございますれども、このままでは左近が丸呑みにされた後は、宜しく自分―――・・・
と、いうこともあるからなのでして、近くの行灯に火を灯したところ―――!!
――――と・・・そこでしのは見てしまったのでございます。
太く―――
長く―――
重い―――
大蛇のそれ・・・
しかも―――その頭(かしら)のほうへ目をやると・・・
―左右三対になった六本の腕(かいな)―
―眼の白いところまで朱(あけ)に染まった眦(まなじり)は逆しまに裂け―
―その眸も蛇のそれ―
―上半身は・・・なんと女の・・・―
―それも左近定華のそれであった―
然様―――見るからにそこには、妖魎の・・・それも、“人頭蛇身”の者がいたというのでございます。
されど、これはまた何か性質の悪い冗談か何か―――と、おもいましたしのは・・・〕
し:お・・・お前は一体―――左近様を・・・どこへやったの??
妖:――――・・・・。(ひゅ〜〜―――ひゅ〜〜―――) し――――しの・・・・(おどおど)
し:(な・・・なんて怯えきった目を―――これは悪夢・・・そうなのね?きっとそうに違いない―――)
あ・・・の―――左近様・・・?
妖:だ―――ダメじゃ!! それより近付いてはならぬ―――!!(びくぅっ−!)
し:えっ―――?あっ―――・・・
(そん・・・ではどうして、左近様がこんな事に―――??)
〔あいや―――今までの表現・・・それは不的確なもので御座いました・・・。
それといいますのは、その“人頭蛇身”なる妖魎の者こそ、本来の鷹山左近定華のあるべき姿だったので御座いますから。〕