≪捌;彼の者の名―――=瑰艶=≫
〔それには、しのも思はず絶句し―――では、ナゼに左近がそんな存在などに・・・
とも思えなくもなかったようなのでは御座いまするが――――
ここで―――今一人、この場に参じた者がおりまして、その者の口からそのことが語られたのでございます。
では、その者とは―――〕
――〜たぁァん☆〜――
し:(え―――・・・)だ、誰―――?
左:・・・秋―――定―――
し:(ぇえっ??)と・・・秋定様??
秋:(フ・・・)こんな朔の夜の―――丑三つ刻になっても、しのを帰しやがらねぇとは・・・・
ついに―――お前ぇも・・・肚ァ括ったようだなぁ――――
瑰 艶
かい えん
し:――――・・・・・・・・え?
い・・・・今なんて――――?
今・・・なんとおっしゃったのですか?! 秋定様―――!!
秋:――――・・・。
し:左近様―――! 言い返してやって下さい!
あたしの前で・・・お父様の―――加藤団蔵を弑した憎きヤツめの事を・・・・
それも、こともあろうに左近様と同じにするだなんてっ―――!!
左:―――――・・・・。
し:(・・・・え??)さ―――左近様??
ナゼです・・・ナゼ言い返してやらないんです―――?!
同じ鷹山のお家なのに・・・それに―――同じく奉行所のお役人で、“妖シ改メ方”のお仲間でもある・・・秋定様――――が・・・
左:――――・・・・・。
し:う・・・ウソよ―――ウソ・・・ウソですよね? ウソだと言って下さい―――!!
何かの間違いです・・・・あたしの・・・父の仇敵が・・・・左近様? それも―――瑰艶だなんて・・・!!(ワナワナ)
秋:定華―――イヤ・・・左近のヤツはな・・・・言い返 さ ないんじゃあねぇ・・・
言い返 せ ねぇんだよ、しの―――
し:ええ―――・・・(ガク・・・)
じゃ・・・それじゃあ―――ナニ? あたしは―――今まで・・・ご恩のあるお方だと思っていたお方が・・・
本当は―――父の仇敵だった・・・と、いうわけ??
秋:・・・だがな―――しの・・・お前の頭を混乱させて悪いが・・・
左近のヤツが、しののおやッさんを弑したというのも本当ならば、
おいらたち五人で妖シを退治していたのも、また本当の事なんだよ―――・・・。
〔襖を開け放ち―――そこに仁王立ちしていた者こそ、しのの住まう下町長屋の一角にて、
しのの帰りを待っているであろうはず―――の、鷹山秋定であったのです。
それに、秋定はこうも云いました―――
自分の正体が知られるであろう“刻”になりても、しのを帰さず、ゆくゆくは自らの口伝にて、件の真実を話そうとしている、
自分の幼馴染がここにいる―――と・・・
そして―――これからこその語りが、あの忌まわしき九年も前の真実なのでござりまする・・・〕