≪玖;昔語り〜九年前の真実〜≫

 

左:あれは―――九年も前の話じゃ・・・

  時雨がひとしきり降った晩の事、天空には雲が出ておって、月の光が望めぬ日であった―――・・・

  いや―――その日は、元々月なぞ出てはおらぬ・・・今宵と同じ 朔の日の夜 だったのじゃ。

 

し:朔の―――日?

 

秋:おうよ―――・・・その日というのはな、しの。

  お前でも知ってのように、魑魅魍魎の類がうようよと出てきやがるんだ・・・

  それになぁ―――そいつは・・・少なからず定華の出生にもかかわりがあるんだ。

 

し:左近様の―――?(出生?)

 

左:・・・ワシが―――生まれ出でた時もまた、同じくしてこのような 朔の日 であったと言われておる・・・。

 

し:えっ―――?? で・・・でも―――その日、出生した赤子は生きられない―――・・・はず・・・

 

秋:その通り―――・・・また定華も、その例に漏れず妖魎どもに取り憑かれ、あの世に連れて逝かれようとしていたらしい・・・

  だが―――ここの奥方がな、自分の命と引き換えに、我が子である定華の命を助くるよう、その妖シ連中の親玉に哀願したそうだ・・・

 

  その時の妖シ連中の親玉こそ―――『瑰艶』。

 

左:あの時―――あやつは、母上を喰い殺しただけでなく、当時赤子であったワシをも、己の腹に収めようとしていたのだ。

 

秋:(へ・・・っ)だがな―――そう・・・世間様が甘くないのも世の常。

 

  なぁ―――しの・・・ナゼにこいつが、妖シの形態になっても、人間らしさを保っていられるか・・・判るか?

 

し:えっ・・・? そ―――そういわれてみれば・・・

 

秋:こいつはな―――生まれつきながら、霊力がもの凄く強かったんだ。

  それが―――当時をしても『討妖御定書』の筆頭に名を連ねるほどの兇悪な、瑰艶が取り憑こうとしていたとしても・・・だ。

 

左:じゃが―――・・・あの時・・・九年前だけは勝手が違った・・・。

  同じ朔の日だと、多寡を括っておったワシが浅慮だったのじゃ!!

 

 

〔そこまでの語りこそが 真実 ――――何一つ隠し立てする事のないことばかり・・・

しかも、左近の出生の秘密までも詳らかにされたとき、しのは左近の事を

―――この女性は、何と今までに凄まじい人生を送ってきたのだろう―――

と、ただ同情するばかりだったのでございます。

 

 

―――が、しかしそこまで語られても、しのの父;団蔵の死については一言も話されていないようなのですが・・・?

 

ですが、そこはそれ―――かねての覚悟の顕われと共に、左近の口から語られたのでありまする。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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