≪伍;一晩明けて―――≫

 

 

〔それといいますのも―――身寄りがないから〜〜と、云う事で、しのの間借りに居つく事になったお玉―――

 

その、一晩明けたときの事―――・・・〕

 

 

蝉:はわ・・・はわわぁぁ〜〜――――

し:(はぁ〜〜・・・)

 

蝉:おっ―――?! どうした、しの。

  えれぇ元気がねぇようじゃあねえかい??

 

し:・・・えっ?!な、なんでもないわよ―――

蝉:・・・・そうかい、なんか悩みがあるんなら、おいらに云ってくんないよ―――

 

し:(悩みがあるンなら〜〜―――って・・・あんなこと云えるわけがないでしょっ! バカ・・・)

  なんでも―――なんでもありませんよっ!!

 

蝉:・・・・あ、そう――――

  それより〜〜あのちびッちぇえのはどこ行きなすったんで。

 

し:・・・・はあ? ちびっちゃいの―――? 何の事を云ってるのよ・・・

蝉:―――――いや、こっちの気の所為だったようだ。

 

 

〔前の日―――寝付くときよりかは幾分か草臥(くたび)れたような感じのする、間借りの大家に、

蝉之介は気遣うつもりで云ってやったようなのですが、いつもよりもつれない言葉に、いよいよ持って嫌われたか―――

そんな気さえするのでは御座いまするが、次にしのから返った言葉により、

蝉之介は密やかなる違和感を抱いたように御座いまする。

 

然様―――昨日、身寄りがないからということで、一時預かっていたはずの、

あのお玉なる女童が、いつのまにやらいなくなっていたということ―――・・・

しかも、それに併せるかのようにして、しのはそんなことがあったのかすら知らない・・・

いや―――覚えてはいない様子・・・だったので御座います。

 

 

―――と、まあ、そういうことがありまして、蝉之介・・・・いや、今は鷹山秋定として、

またも 北町 にきている次第なので御座いまする。〕

 

 

左:(・・・うん?)―――どうしたのだ、秋定。

秋:・・・・おう、左近。

いや、実はな――――

 

左:(ピク)――――何かあったのか?!

秋:・・・・まぁな。

 

左:よし―――判った。

  これ弦之丞、ワシはこれから南町の筆頭与力殿と定周りに出かけるのでな、皆にそう伝えおいてくれ―――

 

同:――――かしこまりました。

 

左:・・・む、では参ろうか。

 

 

〔滅多として顔の合わせることのない分家の顔に、これは余程の事があったのだ―――と、直感いたしましたる鷹山の本家。

其の事をもう少し詳しく知りうるべく、『双人鷹』は、肩を並べて歩いていたので御座いまする。〕

 

 

左:それで―――ナニがあったのじゃ。

秋:ぃよう―――姐ちゃん、ヒマだったらおいらと茶でもしばかねえかい〜〜♪

 

左:(この―――・・・#)一寸(ちょっと)くらいはまぢめにせいッ!#

秋:(へへへ―――)イヤ・・・実はな、しののことなんだがよ―――

 

左:―――しのが、どうかいたしたのか?

 

秋:ああ―――・・・

  昨日の事なんだがな、お前のところで段取りを一通り終わらせて、夕刻になってあそこへおいらが戻ったときの事だ・・・

  そこにな―――なぁんかあの界隈じゃあ見かけねぇ、これっくらい(三寸=90cm)のちっせえガキを与ったんだよ―――

 

左:ほ・・・そのような殊勝なことが。

  (フフ――・・・)いやはや、見かけによらず―――イヤ・・・見かけたとおりの性根の優しきようだな、しのは・・・

 

秋:まあ―――普通ならな・・・

左:―――どういう事じゃ?!

 

秋:その―――お玉・・・ってガキなんだがな、今朝方にはいなくなっちめぇやがった・・・・

  ―――それどころか、しののヤツは、そいつを預かったことすら知らねえ・・・イヤ、覚えていねぇらしいんだ・・・

左:な――――!! なんじゃと?!!

 

秋:・・・なあ、左近―――お前ぇ、人の記憶を操作できるような・・・

  そんな高度な能力を持つヤツがいると思うか??

左:・・・いや、昨今では聞かぬ話だな。

  それに、“あの者”も、そこまでの能力を持ってはおらぬはず―――・・・

 

秋:ち―――・・・こらァいよいよもってヤベェかも知れねぇ・・・

  ともかくおいらァ、キンさんのとこに出向いて、あのガキと“あの者”との係わり合いを、もう少し詳しく聞いてくるぜ。

 

  それと―――その後の対策も・・・な。

 

左:うむ―――判った、しののほうはワシに任せておってくれ。

 

 

〔これまでに―――そこにてつらつらと述べられましたるのは、昨日と今朝方の一部始終・・・

それによりますると、与っている“はず”の幼き存在を、

その時に見えなかったとて『気の所為』で済ませられるはずもなく―――

だからこその、同じき『妖シ改メ』の一員である左近に、この話しを持ちかけたのであります。

 

しかも―――秋定も左近も、ここ最近『妖シ改メ』の間にて噂に上り、

警戒を強めておかねばならない“あの者”なる存在と―――此度の『お玉』なる不思議幼女とを、

一括りにしている風にも見えなくはないようなのでは御座いまするが・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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