東方見聞録 U

 

 

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(自分の力を身につけるため、遥か東の国 呉興(ごこう) という国に身を寄せているアダナ。

ところが、かの地を知らないあまり、九死のところを、とある一人の男に助けられるのです。

その男の名は、呉興の元大将軍だった・・・と、いう 呂孟子明 と、言う男。

 

そして、今その男の案内で、これから戦が行われる(であろう)、 庸亭(ようてい) という処を見学するアダナ。)

 

 

ア:はぁ〜〜、ここが庸亭・・・ってとこなのかい。 中々、検層なところだねぇ。

 

孟:ハハハ、まぁ、ごらんなされい、四方のうち、二つを山に囲まれ、一方は崖、もう一方は激流をして、この要塞を護っておる。

 

ア:(まさに・・・天然の要塞・・・)

 

孟:それに、ここは、相手国との国境近くじゃからな、今までにも、激戦があったところなんだ。

 

ア:それでも・・・数多くの犠牲があったんだろ? 無益だとは思わないのかい?

 

孟:・・・・・うむ、確かに。

  あんたの言う通り、無益というなら、戦事(いくさごと)総てを言うのだろう・・・。

 

ア:そこまで分かってて・・・・・ナゼ?

 

孟:さあ・・・・ねぇ・・・。

  そこのところが、未だ愚鈍なわが身には、トンと分からんのだよ。

  この、永く、無益な戦は、まだまだこの先も続いていく事なのだろう・・・。

 

ア:・・・・・案内、ありがとう。 私はこれから、ここの地を、よく見て帰ることにするよ。

 

孟:・・・・そうか・・・なら、十分に気をつけなされよ。

  最近ここでよく、敵方の斥候を見かけるそうだからな。

 

ア:分かった、そうするよ。

 

 

(今のところは、『学者』と言う身分のアダナ、今のように、―――この地をよく見る―――というのも、この辺りにある、植物や動物を、調査するものか・・・

とも、思われたようなのですが、それはどうやら、そうではなかったのです。)

 

 

ア:おい―――ソロン、見ろよ、あの要塞にかかってる橋。

ソ:『ふうむ、アレを壊すか、あげるとなると、下の激流にまっ逆さまか・・・』

 

ア:・・・・と、なると、攻めかかるのは、あの険しい山、二つ・・・と、なるな。

 

ソ:『崖は?』

ア:ありえるかも知れねぇが・・・アレじゃあ、わざわざ殺してくれと、言ってるようなもんだ。

  あの上から、物を落とされたりしたら、いくらなんでも、たまったもんじゃあないだろ。  それに・・・・

 

ソ:『どうした・・・』

 

ア:この地、よく見ると、持久戦には、向いちゃあいない・・・。

ソ:『ナゼ?』

 

ア:この土を見ろ、まるで硬い。 それに、水は・・・と、なると、あの激流の麓にまで、下りなくちゃならなくなるからな。

 

ソ:『フフフ・・・そこまで観察できているようならば、上出来だ。』

 

ア:恐らく・・・この地を見直せてないのも、今までのが、即時決戦だったからだろう。

  (もう少し・・・長い目で見て、戦略的に価値のある場所に、要衝の地を移すべきだ・・・。)

 

  まっ、見学もこれくらいにして、帰ろっか・・・。

 

 

(そう・・・アダナの本来の姿は、『ハンター』という職。 日頃、魔物達との戦いに、身を置いている者なのです。

それ故に、地形を見る・・・というなどの、戦略眼も備わっている、というもの。

 

ですが、今の彼女は食客、しかも、この国の出身ではないのです。 余程の事がない限り、動く事はないのでしょう。

 

そして、巡察を終え、帰ろうとした時、この激流の袂に、釣りを楽しんでいる人物を見かけたのです。)

 

 

ア:(・・・・ン?おや??) ねえ、ちょいと、あんた。

 

?:・・・・。(ピク) はい、私ですか。

 

ア:あんた・・・ここで、何をしているんだい?

 

?:・・・・御覧の通りの、釣りですが・・・・それが何か。

 

ア:いや・・・こんな急流で、魚が捕れるのかと、思ってねぇ・・・。

 

?:成る程、ですが・・・私は、釣りを愉しむ・・・と、いうよりむしろ、時が流れていく・・・と、いうのを愉しんでいるのですよ・・・。

 

ア:(へェ・・・・) その――――時の・・・流れ・・・とは?

 

?:この河の流れ・・・風の移ろい・・・禽(ことり)のさえずり・・・と、言ったところでしょうか・・・?

 

ア:ヘっヱ〜〜、こんな騒乱の世の中に、随分とのんびりしてられるもんだねぇ、あんた・・・。

 

?:そう、見えますか?

 

 

(押し問答をしたとしても、まるで手応えはなく、さらりさらりと、かわされていくアダナ。

それに、この人物の容姿・・・

頭には輪巾を頂き

身には鶴装をまとっている

と、いうのです。)

 

 

ア:ま、ここにまた、近々戦があるらしいから・・・こんなトコ、うろついてないで、とっとと離れたほうがいいよ。

?:それは、どうも。

 

 

(ここでアダナは、もう少しこの辺りの地勢を見ようと、この文人とはなれるのですが・・・。

彼女が去った後、モノの数分と経たないうちに、いずこの者であろうか・・・・

鎧を身につけた武将が二人、(しかもその鎧、呉興のものではないようです。)この釣り人のところに近付いてきたのです。

 

そして・・・)

 

 

武:お探ししましたぞ!丞相!!

武:この機に、釣りを愉しむなどと・・・!!

 

?:これはこれは・・・張犠将軍に、関信将軍。

  いえ・・・私は、釣りなど愉しんではおりません。

 

信:(関信雲長・義に篤い将軍)

  されば、また自然の移ろいを・・・・。

 

?:いえ、それも違います。

 

犠:(張犠益徳・関信とは、義兄の契りを交わした仲)

  では・・・一体なんだと・・・。

 

 

?:・・・・この地を、どう攻めるか・・・・。

 

信:お・・・おお!

犠:そうでありましたか!

 

?:・・・・ですが、今この地を見るのに、攻める我らには、全く理のない事に、今更ながら気付かされました・・・。

  そして、前任者も・・・・いま少し早く、この地勢を見てさえいれば・・・・。

 

信:ハ・・・ッ、仰せの通りにござる。

犠:では、これからいかがいたしましょう、司馬亮様。

 

 

(その男・・・・司馬亮。

呉興と対立する、魏蜀の丞相であり、今回のこの軍(いくさ)を起こさんとする、軍の最高責任者であり、指揮官。

そう・・・世を忍ぶ、釣り人の姿は、相手の目をくらませる格好、だったわけなのです。)

 

 

亮:それよりも、まず、本陣に戻りましょう。 総てはそれからです。

  (それにしても、あの御仁・・・ただならぬ気配の持ち主でありましたが・・・何者なのでしょう。)

 

 

(この、庸亭の地より、約数十里ほど離れたところにある、魏蜀の陣・・・。

もう敵方の軍勢は、恐ろしいまでに近付いていたのです。)

 

 

 

 

 

 

 

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