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孟:(ふぅむ―――) ・・・これが、陛下の思し召し・・・と、あらば、受けぬわけにもいくまい・・・。
あいや、分かった。
―――恭しく、これを授かるに、万事にわたり、我が非才をもって、これに当たらん―――
孟:そう、陛下に申されよ・・・そして、都督にもな・・・。
奉:お・・・おお!!
統:あ、ありがとうに存じます!!閣下!!
孟:おい・・・よせ。 今はまだ、お主らの上役ではない。
明朝、陛下の下にあがるから・・・・それからだ。
奉:はは―――っ!!
統:それでは明日―――!!
(その所には、再び、自分を 大将軍 に、そして―――軍の総てを掌握しうる、 元帥 の称号まで、添えてあったのです。
そして、この家を去る二人―――しかし、今の、この家の主の胸に去来するものとは、一体なんだったのでしょうか―――。
そして、翌朝、そこには、昨日までの一介の町人はおらず、
まるで、今日の日に合わせて、設(しつら)えさせたかのような、豪奢な服に、冠、帯・・・と、言った調度品・・・
しかし、それが、実は、彼の者の正体だったのです。)
ア:ホ・・・・こいつは、まるで見違えちまったねぇ。
孟:ハハハ、“馬子にも衣装”と、言いたいかね? しかしなぁ、こんな堅っ苦しいモノなど、着付けたくはなかったのだが・・・・
まぁ、これもいたしかたのないことよ・・・。
麗:それでは―――お父様。
孟:うむ―――それでは、行ってくる・・・。
(彼の者は、すぐさま、馬上の人となり、そして、宮城へと、向かっていったのです。)
ソ:『ふふ・・・やはり、只者・・・どころの話ではなかったな。』
ア:まぁ・・・そう言ってやるなよ、あの時は、確かに、一介の町人・・・だったんだからさ・・・・。
(そして・・・・宮城にて・・・・
玉座には、まさに、絢爛豪華を絵に描いたような、衣服を身に纏い、品位人格、そのどれをとっても、他の追随を赦さない、一人の偉丈夫が・・・
そう、それこそが―――
呉興国王:孫凰仲謀
だったのです。)
使:臣、呂子明様、お着きであります。
凰:む―――通せ。
使:は・・・・っ。
カッ・・・ カッ・・・ カッ!!
孟:(ス・・・)臣、呂孟子明、陛下のご意向により、参上仕ってございます・・・。
凰:・・・・孟よ・・・、すまなかったな・・・分かっていたとはいえ、ヤツらの奸計にまんまとはまり、お前を解任せざるを得なくなってしまった・・・。
その愚こそ、わしの非才のなせる業だ・・・。
孟:いえ・・・・勿体のない、お言葉で・・・・。
凰:この上は、総てを水に流し、また、わしに仕えてはくれぬか・・・?
孟:いえ―――とんでも、ございません―――。
凰:な、ナニ―――?
孟:陛下こそ、この愚鈍なるわが身を、ここまで重用して下さる折・・・・かかる上は、この身が、たとい、骨になりましょうとも、
呉興―――いえ、陛下の御ん為に、働かさせてもらう所存にございます―――。
凰:オオ―――おお!そうか!!ならば、受けてくれる・・・と、いうのだな?
孟:御意にございます。
凰:そうか―――、ならば、酒宴を開こうではないか! これ!誰か早くに、宴の支度をいたせ!
孟:いえ―――それには及びません。
凰:(ぅん・・・?)なぜだ・・・
孟:実は・・・足下が内密に調べたところ、かの地―――庸亭より、約数十里離れたところに、敵、魏蜀が、すでに野営をしている・・・との事・・・。
凰:な・・・ナニ?!そ、そうなのか!?魯粛よ!
粛:はい・・・残念ながら・・・。 将軍の、言っておる通りにございます。
凰:な、ナゼ・・・・そなたは、わしにそのような事を・・・・
粛:王には、そのようなことで、お心を損なわれては悪い・・・と、思い、
この私めの独断で、差し控えさせていただいたのです。
凰:ぐ・・・むむぅ・・・。
粛:将軍よ、分かっておるな、その―――将軍と、元帥―――の印綬、授かった・・・・と、いうことは・・・・
孟:心得ております、都督殿・・・。 このうえは、すぐにでも、身支度を整え、かかる敵を、蹴散らしてまいる所存にござる!!
粛:うむ・・・・たのんだぞ・・・。
(こうして、呉興の、軍の中枢は、機能を回復しえたのです。
総てにおいて、軍事を掌握できうる 元帥 と、内政を鑑(かんが)みる 都督 ・・・・
この、二人の協力体制の下に、もはや、何をか恐るるべきものがあるだろうか・・・・。
そして、急ぎ自宅へ戻り、その身に鎧を着込み・・・そしてその手には、自慢の武器『咬顎戈』(こうがくか)を携え、庸亭に向かわんとしたところ・・・)
孟:うん・・・?アダナさんの姿が見えぬようだが・・・?
麗:え?ああ、あの方でしたら、お父様が、宮城に向かわれてすぐに、どこかへ出向かれたようですが・・・?
孟:そうか・・・・。 ・・・・・・・・。
(そう、食客のアダナが、自分が宮城に出向いている間に、どこかへ行ってしまった・・・と、いうのです。
(また、調べものか何か・・・なのでしょうか??)
でも・・・・どうやら、ここの主人は、もう、彼女が何者・・・で、あるか、大方のところは、察しがついていたようです・・・。)