<二>
〔さて、それはさておいて、ここは鷹翼学園の中等部。
実はここにもこのお話しのヒロインが・・・・その彼女の名は―――
塚原 綺璃惠(つかはら きりえ)
―――と、いうようです。〕
先:あっ、綺璃惠さん、ちょっと用事をお願いしてもいいかしら?
綺:―――・・・はい。
何でございましょうか、先生。
先:実はね―――このプリント、休み時間にでも、皆に配っといてくれないかしら?
綺:はい・・・・お任せ下さい。(ペコリ)
〔先程の―――明朗活発な慈瑠華とは対照的な、どこか線の細そうな・・・・・しかも、今にでも手折れてしまいそうなこの娘。
でも、それではあの慈瑠華と―――何の係わり合いがあるというのでしょうか??
(まぁ・・・それはいづれ・・・・おいおい・・・・ということで)〕
徒:あっ!委員長!ちょっとこっち来てくれよ!!
綺:―――・・・はい、少々お待ちを。
徒:委員長!こっちも!!
綺:―――・・・はい、お待たせいたしました。(ニコ)
〔頼まれ事を何イヤな顔一つせずこなす彼女は、クラスの学級委員長のようです。
それに、この性格の良さから、人望も厚いらしく、委員長に納まった経緯も、立候補ではなく、推薦でなった・・・・という・・・。
(しかも、このときでも、いやな顔一つせず―――『このわたくしのような者で良ければ』の一言は、真に奥ゆかしい限りだったといえるでしょう)
さて、このいかにも優等生肌な彼女、休み時間は、皆の頼まれ事の他に、何をしているのか・・・・と、言うと?〕
綺:―――・・・。(ペラ)
徒:ねぇ―――見て見て? 委員長、またご本読んでるみたいよ?
徒:へぇ・・・・本当に?
徒:何の本・・・読んでるのでしょうね?
徒:ああ―――オレ、この間見せてもらったらさぁ・・・なんでも、中国の古い歴史書みたいなの読んでたぜ??
徒:ねぇ、どんなの?
徒:えぇ〜〜―――っと・・・・確か〜〜〜『史書』だったっけかなぁ・・・。
徒:『史書』?? ねぇ、知ってる??
徒:うぅん、知らない。
〔そう―――中学生が知らなくてもムリはないのです。
この『史書』という書物、古代の中国の歴史を綴ったもので、相当に古いものなのです。
(殷・周以前のものまで・・・とか?)
そのような、古めかしい&難しい本を、中学生で読む彼女って・・・・一体?
それはさておき、実は彼女、体育の授業だけは休みがち―――という面を持っているようです。
やはり勤勉のできる生徒は・・・・と、言うことだからでしょうか?
いえ、ところがそうではなかったようなのです。
ある日の・・・・体育の授業真時間にて・・・〕
徒:ねぇねぇ、委員長も一緒にやろうよ、バレーボール。
綺:―――・・・えっ?!いえ・・・・わたくしは・・・・いいです。
徒:そんな事言わずにさぁ、いつも見学してるだけじゃあ、つまんないだろーしぃ・・・・。
一度でいいから・・・・ね??お願い。
綺:―――では、人数あわせでよければ・・・・。
徒:まぁたまた、謙遜しちゃってさ、じゃいいんだね?
綺:はい、よろしくお願いします・・・。
〔持ち前の人の良さからか、彼女はOKしたようですが・・・・大丈夫なのでしょうか???〕
徒:あっっ!!(ちゃ〜〜・・・)
徒:ねぇ、どうしたの?
徒:見てよ―――あっちのチーム。
徒:はァ?・・・・・あっ!あの子!! うちの、バレー部(中等部)のエースじゃない!(ヤッバぁ〜〜)
綺:どう・・・されたのです?
徒:(は〜〜・・・)あっ、委員長―――いえ、その・・・向こうのチームに、一人バレー部員がいるんですよ。
しかも、その子・・・エース張っちゃってるんですよね。
綺:―――・・・何事かと思えば、そんなことでしたか・・・・では、始めましょう。
徒:は?え゛っ??(い・・・委員長・・・??)
〔なんと―――彼女の入っているチームの対戦相手の中には、バレー部員(しかも、エース)が一人いるようなのです。
これでは、もう勝負は見えた―――と、思いきや、綺璃惠ちゃん、『なんだ、そんな事』の一言とは・・・彼女、案外強がりなのでは?〕
バ:そぅりゃ!アタ―――ック!!
ドンッ!
バッシィィ・・・・ン!
トントントン・・・・
徒:ぅわわッ!! あ―――っ、イタタ・・・。
ちょ・・・・ちょ〜〜ッと、手加減してくれたっていいじゃなーい!!(いちち・・・)
バ:へへッ!そうは行かないだろ?!何しろ、こっちはこれでメシ食ってんだからな!!
徒:(なぁに言ってんのよ・・・まだプロ入ってんじゃあるまいし・・・)
あぁ〜〜ん・・・・ちょっとターイム、ゴメン、ちょっち冷やしてくるわ・・・・
綺:どれ―――ちょっと見せてみて下さい・・・・。
徒:あ・・・っ、委員長・・・。
綺:―――・・・どうやら、少し腫れのほうもあるようですし・・・保健室のほうへ、行ってきてはいかがでしょう?
徒:えっ?でっ・・・でも・・・そうすると、一人足りないんだよ?私達のチーム・・・・いいの?
綺:はい、お任せください。
ボールを拾うぐらいでしたらいくらでも・・・。(ニコ)
徒:そう?ゴメンね? 手当て済ませたら、すぐ戻ってくるから。
綺:はい、どうぞごゆっくり・・・。
〔そう・・・ケガ人が出て、一人少ない綺璃惠ちゃんのいるチーム、誰がどう見ても劣勢なのは明らか―――な、はず・・・
なのです――――が???〕
バ:せぃりゃ! アタ―――――ック!!
バシィ―――ン!
徒:あっ!行ったわよ!?委員長!!
綺:(ス・・・・ッ)フンッ―――!
キュ・・・ ド ン ッ !
バ:(ナニッ??!)
徒:(えぇっ?!)
〔なんと―――先程、ケガ人を出したという、このバレー部員のスパイクを、彼女はレシーブどころか、上手く勢いを相殺させてしまったという・・・・
(つまりこれは、ボールが腕に当たる瞬間、素早く後ろに退く・・・・という・・・)
しかも、なんとこの球は、トスには絶妙な球!!〕
徒:はーい!トスっ!
徒:それ―――アターック!
――――・・・って、あっちゃ〜〜アウトだ。
綺:ふふふ、気にせず、参りましょう?(ニコ)
徒:は・・・・はい、委員長。
〔折角、綺璃惠ちゃんが上手く受けたものを・・・・後が続かなくてはダメなのです。
でも、彼女は気にせず “ドン・マイ” の一言。(成る程・・・彼女が委員長に推される理由は、ここにもあるようです。)
ですが・・・・いま自分の放ったスパイクを、軽く受けられた者の心情はいかがなものか・・・・?〕
バ:(ンな・・・っ、あ、あの子―――今の、このあたしの全力で放った球を・・・・受け止めやがった。
いつも体育の時間は休みがち―――って聞いてたのに、アレは飛んだデマなんじゃ??)
〔やはり―――胸中穏やかではなかったようです。
しかも、それは時間を追う毎に顕著だったようでして・・・・。〕
バ:おりゃッ!!
バシ――ン!
綺:ハッッ―――!!
ドオォ・・・ン!
バ:そりゃっ!!
バシ―――ン!!
綺:はぁいっ――――!
たったったっ・・・・・たぁ・・・・ン ド ン ッ! くるっ
徒:(か・・・・っ、回転レシーブ―――)
バ:はぁっ・・・・はぁっ・・・(ど・・・どうして・・・あたしのスパイクが、いともあっさりと・・・)
綺:―――・・・。
〔でも、いくらレシーブがよくても、後が続かないので―――結果。〕
審:(ピ・ピ――ッ!)15:0 こっちの勝ち。
綺:あらあら・・・・負けてしまいましたか。
どうも済みませんでしたわね、わたくしが至らないばかりに・・・。
徒:い―――いえ、委員長が謝る事は、一つも・・・。
それに、折角委員長が絶好球作ってくれても、私達が下手なお蔭で・・・
綺:いえいえ、そんなことはございません。
わたくしのほうこそ、もう少し気を遣った受け方をしていれば・・・・
どうも、至りませんで・・・。(ペコ)
徒:(あ・・・・)いえ・・・。
〔こんなに体よく謝られたのでは、チーム・メイトの彼女達も、二の句の告げようがなかったようです。
それよりも―――もう一方の、あの人は?〕
バ:ふぅ・・・(あたし・・・・自惚れていたの・・・・かなぁ・・・。)
綺:あの・・・どうかされましたか?
バ:う・え゛ッ!(ビックゥ!)あ・・・・っ、あんた・・・??!(い、いつの間に・・・???)
綺:あの・・・僭越ながら、先程よりうかがわせて頂きましたが・・・・何か、悩み事でも?
バ:えっ?!(あ・・・・)いや・・・・実は――――
〔ここで、このバレー部員、いま自分の抱いている疑問を、綺璃惠ちゃんに対し、投げかけたようです。
どうして、自分が全力で放ったスパイクを、ああもたやすく受け返すことが出来たのか・・・・を。
すると・・・?〕
綺:その事でしたか。
でも、あれは単なる偶然です、まぐれ―――ですよ。
バ:でも・・・・しかし・・・
綺:わたくしごときが言うのもおかしいですが・・・あなたが放ったモノは、間違いなくすばらしいモノでした。
やがては、実業団のチームに入られるのでしょうけれど・・・・それに相通ずるものがありましたよ。
わたくしが受けた・・・・などというようなことは、あまり気になさらないで下さい。
バ:あ―――う、うん・・・。
〔半ばいいようにはぐらかされたようになった、かのバレー部員でしたが、これはこれで納得せざるを得なかったようです。〕