<三>

 

 

〔彼は・・・その日も、また学校へはいかず、町をぶらぶらとしていたところへ――――

 

そんなところへ、ほんのちょっと肩がすれ違った―――たったそれだけの事だったのに、

向こうの方から因縁を付けられ、今は人気(ひとけ)のないこの公園へ・・・と、連れてこられていたのです。

 

そのときに―――『ついていないときには、ついていないもんだ・・・』とはしながらも、

何とか突破口を見つけて逃げるために、日頃では部活以外には使わない“柔”の技を使おうとしていたのです。〕

 

 

チ:お〜〜〜―――っほほう・・・兄ィちゃん、それヤワ〜ラ?

チ:クロオビ―――カラ〜テ―――コワ〜〜イね! ぎゃ〜っはは!!

 

竜:(く・・・っ!)オレの―――柔をバカにするなッ!!

 

チ:オぉ〜〜―――ッと・・・やるんかコラ!# ぉお!ヤッたろやないけ!!

 

 

〔そんな彼を見て、悪漢共はみな口々に囃し立てたものでした。

ここ最近で自分たちが溜めた鬱憤を晴らせるよう、見るからに血気の盛んそうな竜次の方から手を出させやすいように・・・

そして図らずも、自分が努力して築き上げてきたモノを貶(けな)された若い竜次は、

近くにいたチンピラの一人の胸座(むなぐら)をつかんでしまったのです。

 

これで―――日頃の鬱屈・鬱憤を晴らせる格好の材料を得た・・・と、その悪漢連中は思ったに違いありません・・・

 

ですが―――実は、ここの場所に・・・彼ら以外にもう一人―――

その存在を気取られることなく“休んで”いた存在がいたのです・・・。

 

それに―――その存在は・・・どうやら折角いい気分で眠っていたというのに、

急に辺りが騒がしくなってきた事に、苛立ちを隠せなくなってきましたようで・・・〕

 

 

誰:じゃっかぁしいの―――! 喧嘩するなら余所行ってヤレや!!#

  (ち・・・)やっちょれんわ―――ほんま・・・

 

侠:ぁあん―――?! 誰かいるのか?

  おい、お前―――――ちょっと行って見てこい。

 

 

〔誰もいようはずのないこの公園―――だからこそ、この場所を択んだハズ・・・

なのに? この場所から不意に聞こえてきた声に、悪漢のリーダー的存在が、一番下っ端を使って、

その声がした・・・この公園のベンチ方面に向かわせてみれば・・・

 

なんとそこには―――年の頃は20代後半だろうか? 初夏のこの季節にはぴったりのTシャツに、

裾を切り上げたジーンズ・・・そんなラフな格好をした濃い藍色の髪の女性が、寝そべっていたのです。

(しかも、その女性の傍らにはアルミの箱が・・・どうやらこれは、彼女の商売道具のようではあるようです。)

 

 

チ:あっ―――兄貴、女ですぜ?

侠:ぁあん?! 女ぁ―――?! ・・・・ひょっとして、あの乳魔人か??

 

筧:(チッ――・・・)やかましいゆうちょろうが・・・聞こえんのんかわりゃあ!#

  それと・・・なんじゃとぉう?!『乳魔人』? おどれラァ・・・手前に喧嘩売りよるんならぁ・・・ぁ゛あ゛?!##

 

チ:い゛っ―――・・・こ、こいつ・・・

侠:広島弁・・・

 

筧:ぁあ?! 手前の里は広島じゃが・・・それがなんじゃあ云うンなィ・・・#

 

 

〔・・・・いえ、『なんだというんですか』(標準語)といっても、十分に問題のようなのですが―――・・・

 

そう・・・その女性の操っていた言葉こそは、

他のどの地域で聞いても十分に“ヤ”の付く人たちと間違われる事に間違いはない―――の、『広島弁』だったのです。

 

しかも・・・折角いい気持ちで寝付いていたところに、耳元で虻がぶんぶんと五月蠅くするものだから余計に気が立っているようで・・・〕

 

 

筧:はんっ―――ヤレヤレじゃわい・・・帰国(かえ)って早々にむかつかせてくれよってからに・・・

  ま・・・あいつらと会(お)うたらそがいなこと云えんようになるんじゃがのぅ・・・。

 

  まあ―――えかろう、こっちもちぃと体をほぐす程度なら・・・(すぅうう)つきおうちゃるわい―――(ふうぅぅ)

 

侠:やかましい―――!嘗めた余裕見せられたザマか!! そこの小僧ごと一気にたたんじまえ!!

 

 

竜:す―――助太刀する・・・

 

筧:ぁん〜?! おい小僧―――パンピーは足手まといじゃけん・・・どっかいっちょれ。

竜:そ―――そうはいかない、こんな修羅場に・・・女一人を残してなど・・・・

 

筧:ぁあ?! ・・・・ぎゃ〜〜―――っはは! 何なら、わりゃあ手前のことを 女 じゃゆいよるんかい。

  そりゃあすまんのう―――気ィ遣わしてもろうて・・・へじゃがのぅ――――(ひゅっ!)

 

   ガ☆

 

チ:ぐえぇっ―――

 

竜:(あ・・・っ)脚―――?!

 

 

〔それは―――その日の・・・昼下がりにあった、少し殺伐とした空気でした・・・

 

元は、自分の不注意から発生して、侠道会なるチンピラ連中に絡まれたところを、

偶然にもそこで休んでいた女性に助けられ、逆にその女性が難に遭おうとしているところを手助けしようとした・・・

 

しかし―――そんなこととは裏腹に、その女性からは丁重(?)なお断りが・・・

しかも、竜次の背後から襲いかかろうとするチンピラの一人を、なんとも華麗な足技であしらったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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