<六>
〔しかし―――ジルたちが海外談義に花を咲かせている間に、彼女たちにとっても・・・の目的地にどうやらついたようです。
でも―――・・・この目的地につくなり、ジルと陣は、それ以上に驚き目をまろくしてしまったのです。
なぜならば―――・・・
創業元禄三年―――・・・実に数百余年を重ねる老舗の匂香(かお)り・・・
まさにこの町の“顔”といっても過言ではない・・・黒檀の看板には、堂々と書かれたる『大黒堂』の文字・・・
そう―――今、ジルたちは、この町では知らないものは一人としていない・・・
老舗の骨董屋の前に立っていたのです。〕
慈:(しょえ・・・)あ―――あ・・・・あの・・・ここ・・・って―――
陣:だ―――『大黒堂』・・・ですよねぇ・・・
婀:うん―――そだけど・・・どうかしたぁ?
慈:ま―――まさか・・・婀娜奈さんの知り合いで、世界の危ないところ亘り歩いてる・・・って人も、
ここの関係者―――とか??
婀:(う・プ♡)にゃ〜〜―――っははは! なぁ〜るほどぉ・・・そう推理するかぁ―――
ま・・・当たらじとも遠からじ―――ってとこだね。
〔そここそは―――まさしく百有余年も続いてきた老舗であり大店(おおだな)・・・・
そこには、時価数千万円から億単位・・・果ては値段が付かないような骨董が並べてあり、
ちょっと普通一般の者には、入る事は躊躇(ためら)いがあった・・・・なのに??
今は、自分たちはその店の前に立っている―――と、いうことに、一抹の不安が過ぎらざるをえないジルがいたのです。
それと同時に・・・婀娜奈宛ての、件のエア・メールの主も、この老舗の関係者の類だったのでは―――
と、思うジルなのですが・・・それは、どうやら“当たらじとも遠からじ”・・・だったようです。
こうして―――何がなにやらわからないままで、しかしながら恐る恐る大店の敷居をまたぐジルと陣・・・
その二人とは対照的に、まるでそれが勝手知る者であるかのように店の奥まで入り込む婀娜奈―――・・・
すると―――??〕
慈:あぁ・・・あぁ―――っ、ちょ・・・待ってくださいよう、婀娜奈さぁん!
陣:せ―――先生・・・ひょっとすると、ここがどんなとこか知らないんじゃあ・・・
店:へい―――いらっしやいやし・・・
慈:(い゛!!)あぁ〜〜―――っ、こりゃどうも・・・
(婀娜奈さぁ〜ん、まっづいですよ―――とうとうお店の人出てきちゃっ・・・)
婀:おいっス―――! 銀さん久しぶりぃ〜!
銀:(楠銀次;この老舗『大黒堂』の店員・・・しかし彼には隠された秘話が―――)
おお・・・これは―――どなたかと思いやしたら、黒江崎さんじゃあござんせんか。
―――ってことは、こちらへ帰ってきなさいやしたんで?
婀:うんっ―――♡まあそういうこったねぇ。
しかし・・・あんたも四年も会わないうちに・・・すっかりといい男になっちまったもんだねぇ〜。
銀:へっ―――へへへ・・・どうやら相変わらずのようで・・・安心いたしやした・・・。
ところで〜〜――――(ちら)
婀:ああ〜〜―――この子達はね、私の教え子。
銀:ほ―――・・・と、いうことは『真蔭』の・・・?
慈:(え・・・・?)
婀:ん゛〜〜―――ぢゃなくてぇ・・・今さぁ・・・私、学校の先生やってるんだな?
銀:ほ―――ほほ・・・こいつぁ失礼いたしやした・・・
あっしは―――ここの手代の 楠 銀次 と、発しやす・・・以後お見知りおきを―――(ペコリ)
慈:え・・・ああ、こちらこ――――(ちら)そ・・・?!
陣:(ああっ―――あれは・・・刺青!!?)
〔その男―――齢は30と半ばを過ぎたところのようで、でも、その客に対する姿勢はあくまで低く・・・
この老舗の接客術が、ただならぬところであるのを実感できたようです。
ですが―――この男・・・楠銀次なる者が、ジルたちに恭しく頭を下げたところ―――
その印半纏から覘いて見えた肩に・・・明らかに周囲の肌の色とは異なる色・・・
それも、“赤”や“青”といったような―――モノのそれを見て、図らずも息をのんでしまうジルと陣、
もしかすると・・・この銀次という男は――――・・・???〕