<八>
〔―――と、そうこうしているうちに、奥のほうから・・・
まさにこの女(ひと)のために誂(あつら)えさせたかのような“紬”の着物を、
寸分の互いもなく着こなし、しゃなりしゃなりと出てきた人物が―――・・・
そう―――この人物こそ、この老舗の名物女将・・・・〕
慈:う・・・あ―――す、凄い美人・・・
陣:や・・・大和撫子―――って、まさにこの人のためにあるような・・・
慈:う―――うん・・・って、あれ??
陣:ぼ・・・ボクたち通り越して――――
婀:(はあ゛〜〜あ・・・ヤレヤレ――――)
圭:(大黒屋 圭;見かけは大和撫子を思わせる『大黒堂』の美人女将―――だけど・・・?)
どうもぉ〜〜―――ようこそお越しやんしたァ。
わっちが―――この店の女将、 大黒屋 圭 と、申しますぅ〜〜―――(ペコリ)
慈:――――・・・・。
陣:――――・・・・。
婀:――――・・・・。
圭:・・・あのぉ〜お客はん? どうしはりましたんえ? 返事しておくれやすぅ―――
〔・・・どうやら、この 大黒屋圭という女性が、この『大黒堂』の女将・・・の、ようなのですが、
どうしたことか、客人であるはずの三人の前を素通りすると、
とある物体を前にして恭しく自分の自己紹介などをしてみたり―――などと、
ひょっとするとこの人物『天然?』とも思わせる行動をとったようです。
なぜならば―――そのとある物体というのも・・・〕
婀:(せぇ〜〜―――の゛っ!)
ごっつん〜☆
圭:おいた――― ・・・・痛ったいなぁ〜なにしてくれはりますのん?
婀:――――それ・・・人間に見えるか?お圭。
圭:〜〜―――はあ?
(んじぃ〜〜―――――きゅっきゅっ)・・・・あれ?
婀:そ・れ・わ・信楽の狸のおきもんだろが・・・
圭:・・・・はあ―――
それにしても不思議なことがおわしますなぁ〜。
婀:・・・・・なにが――――
圭:なにが―――云いはりましても、確か去年の今頃死にはりました、黒江崎婀娜奈〜といいはりますお人と―――
げんこつぅ〜☆
婀:わ―――私はまだ生きとるわい!!
いいかい、お圭―――こぉ〜〜ンな自己主張がはっきりしとる幽霊が他にいるってのかい??
圭:――――(5秒)・・・・・・。
あ゛〜〜――――っ!!ひょっとすると婀娜奈はんやおまへんかぁ!!
あの人の手紙から、去年の今頃あんたはんが死なれはった〜〜ゆうて書かれてはったから―――
わっち死ぬほど心配したんえ?
婀:あいつからの―――手紙??
・・・・んのヤロ〜〜勝手に人を殺しやがったなぁ〜?#
〔なんともまあ〜〜―――そこには絶妙な『ボケ』『ツッコミ』の世界が・・・
それというのも、そのお圭なる女将、ジルたち三人を余所において、お辞儀をしたというのも
ちょうど彼女達くらいの背の大きさの信楽の狸の置物にそれをしてしまったようで・・・
それが一回目の婀娜奈からのツッコミ―――となりまして(失笑)
それから程なくして、婀娜奈の顔をまじまじと見て、ナゼにもう死んだ人間がここに・・・で、二回目のツッコミ―――
しかも、その仕掛け人もどうやら、今回のエア・メールの送信者と同じく・・・のようでして―――
すると―――?〕
婀:(ぅん?)・・・・ほれ見ろ―――あんたのお陰で私まで白い眼で見られてるじゃんか!
圭:は?! ―――――(10秒)・・・・・・。
まあ――――まあまあまあ!! 何やのん?こんかあいらしい子ぉ〜〜〜!
慈:(うわ・・早っ―――)あははは・・・・どうも―――
陣:お・・・おじゃましてます・・・。
(うわ・・・なんかボク、凄いまじまじと見られて―――)あっ?!!
圭:特にこん子ぉ―――かいらしいわぁ〜♡ わっち、気に入ったらしいわぁ――――
慈:あ・・・・っ。
(陣クンに―――抱きついちゃった・・・)・・・・・・・。
陣:(うわぁ〜抱きつかれちゃった―――って・・・あれ?)
〜めきぃ〜
陣:(こ―――この人の・・・絞め加減が急に?!!)
婀:はぁ〜いそ・こ・ま・で―――おあづけぇ〜
圭:な―――なんでですのん??
婀:お圭―――あんたそうやって、抱きついた人間・・・何人病院送りにしてきたんだい。
圭:・・・なんやん、いやですわァ! いきなりナニ云い出したりしますのん?!!感じ悪いわぁ―――
婀:ははっ―――悪い悪い・・・ところでここで立ち話もなんだから、奥、上がらせてもらうよ。
〔やはり―――と申すべきか、残りの二人から白眼視されているようで・・・
すると―――?この女将、ようやくにしてジルと陣の存在に気付きましたようで、
でもその確認を取ってからの行動のなんと素早いこと―――あっ!という間に彼女達の間合いにつめより、
二人を代わる代わるまじまじと見つめ・・・
そしてついには―――なんと陣クンのほうに抱きついてしまったようです。
でも・・・?ここで陣はちょっとした違和感に―――
なんとこの女将、自分に抱きついたはいいけれど、そのたび毎にどうも“絞め”の方がきつくなってくるような感じがしたのです。
そう―――見るからに痩身のこの女性からは、考えられないほどの力で・・・
それを見ていた婀娜奈は、本来のお圭の恐るべき力を知っているからか、途中でそれをやめさせてしまったのです。〕