<五>
婀:じゃ――ンじゃじゃ――――ン! お待ちどう。
慈:あ・・・・っ。(黒の道着に、白の袴・・・)
綺:それじゃあ―――相手は・・・師範代、お前にやってもらおう。
婀:(にや・・・)
慈:え・・・っ?! わ、私??でも・・・なんだか悪いよ。
婀:あ――ら、私がそう簡単にやられるとでも? 言ったでしょう?この私を負かした事があるのは、二人だけ・・・だって。
慈:え・・・って、じゃあ・・・と、言うことは?
綺:302戦中、目下のところ、土が付いたのは、わしと昌幸のヤツだけ・・・だ、と言う事だよ。
慈:ええ・・・っ、そ、それじゃあ・・・
婀:(ニッ)私を・・・外見だけで、判断した罰よ・・・報いを受けなさい。
慈:う・・・・っ、ぐっ!!
綺:おい―――あいつと当たる前に、一つだけアドバイスをしておこう・・・
慈:え・・・・?
綺:決して、あいつの“突きの間合い”には入らないことだ。
慈:ど・・・どういう事です?
綺:始めえぇィ!!
〔綺璃惠の『始め!』の合図で向き合う両者。
この時慈瑠華は、半身に構え素早く攻撃に移れる体制に入っているのですが・・・
一方の婀娜奈の方は・・・と、いうと〕
慈:(え・・・?た、ただ・・・真正面を向いて、左手の甲を、こっちに見せているだけ・・・・?
でも―――それだけなのに・・・なんだか、懐に入りづらい・・・)
婀:フフ―――ン、成る程ねぇ・・・。
この構えで、頭に血が上って、攻めかからないでこなかったのは、あなたで丁度、三人目よ・・・・。
慈:ええ―――?じ、じゃあ、後の二人は・・・・
婀:言わずもがな。
さぁ―――て・・・そっちからかかってこないっていうんじゃあ、こっちから、動くしかないよねぇ・・・。
綺:(ふ――――終わった・・・な)
〔まるで、突っ立って、相手を挑発するかのように、手の甲を見せるだけの婀娜奈に、その真意を悟ったかのように、こちらもまるで動かないでいる慈瑠華。
これでは、埒があかない・・・と、踏んだのか、婀娜奈、自ら“動く”・・・と、宣言したのです。(でも・・・その後の、綺璃惠ちゃんのセリフ・・・って・・・)〕
婀:(ス―――・・・くわっ!!) 哈ッ!!
た ん ッ !――☆
〔婀娜奈、差し出していた左手をゆっくりと下ろすと、同時に、半目のままの目を、見開いた・・・か、と思う刹那、
鋭い掛け声とともに、猛然とダッシュし、瞬く間に慈瑠華に詰め寄ったのです。
その、あまりの迅さに、声も出ないでいる慈瑠華。〕
慈:(は・・・っ、迅いっ!! この私や、師範よりも・・・!!)
婀:(ふ・・・まづは、小手調べ!) はあぁぁっ!!
ババババ・・・ッ
〔そして、そのまま、素早いまでの、突きの応酬・・・〕
バッ・・・・ バ・・・・ッ
慈:(はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・っ)
婀:ふふ・・・中々、どうして、やるようじゃあないの。
さすがは、綺璃惠さんに教えてもらっているだけの事はあるようね・・・。
綺:フフ―――どうした、今日は、中々決めに行かないようじゃあないか?
婀:なぁに―――お愉しみは、これからさ・・・・
慈:え?(な・・・ナニ?この二人・・・何を話しているの・・・?)
〔慈瑠華は、今の突きの応酬で息が上がっているようですが・・・婀娜奈の方は、汗一つかいていないのです。
(これだけでも、いかに彼女が、無駄な動きをしていないのかが、分かるというものです。)
それにしても、今の綺璃惠ちゃんと、婀娜奈の会話、
中々決めに行かない
お愉しみはこれから・・・
とは・・・? それと、綺璃惠ちゃんの言った、婀娜奈の“突きの間合いに入るな”・・・とは?
それは、次の瞬間、何もかも、明らかとなってきたのです。
そう・・・昨晩の、あの・・・浴室での、ノゾキの一件も・・・・〕