<十>
〔そして―――陣が向かった先は、この町にある、見晴らしのいい丘にある公園・・・
そこで、意外な人物とであったのです、では、その“意外な人物”とは――――〕
陣:ううっ・・・うううっ―――(じわっ)
(折角・・・折角、高坂さんや、婀陀那先生に“伎”を教えてもらったのに・・・相手が変わっただけでこんなッ―――)
ボクは・・・ボクはぁっ――――(ポロポロ)
声:あの―――・・・大丈夫でいらっしゃいますか?
陣:(えっ??)(拭いッ!)あ・・・あれ?君は―――・・・?(いつの間に??)
綺:(ニコ・・・)
〔そう―――その“意外な人物”こそ、塚原綺璃惠その人だったのです。
でも・・・今まででも、本編中に登場してこなかったこの御仁が、どうして今ここに―――?〕
陣:た―――・・・確か〜・・・高坂さんの道場にもいたよね?
綺:ああ―――あの節はどうも・・・。
それより、泣いていらっしゃった様で、どうしたものかと・・・
陣:えっ―――?い・・・いや、べ、別に―――
綺:・・・あの、よろしければ、わたくしに相談していただけませんか?お役に立てれば―――なんですけれど。
陣:いや――――あの・・・実は――――
〔ここで陣は、綺璃惠に今までの事の顛末を話してみたのです。
柔道部で、『代表戦』を執り行うため、そのことであの高坂家の道場に来た事―――・・・
二週間の時間を掛けて、そこの師範代、他流派の師範とともに技の習得を行ったこと―――
そして、そのことにより、もう一方の“代表”である、柔道部のエースを自分が投げた事―――
そのごの、自分に降りかかった災厄などを・・・・
すると―――〕
綺:ふふふ―――なるほど、そういうことが・・・
陣:おかしい?・・・そうだよね―――
綺:あら、ごめんなさい―――別にそういうつもりでは・・・
陣:いや、いいんだ―――確かに、竜次さんには勝てたのに、他の部員達には、何の抵抗もなくやられちゃって―――・・・
やっぱ、ボクみたいに弱くて才能のないの・・・武道をしないほうがよかったのかなぁ―――それに・・・
綺:(うん―――?)
陣:それに・・・高坂さんも同じような事、いってたし―――・・・
綺:(なんだと―――?!)・・・あの、今なんと??
陣:えっ?!ああ・・・―――ボクみたいな弱くて才能のない―――
綺:いいえ―――そこではなく、後のほうでおっしゃったことです・・・
陣:えっ?!―――高坂さんも同じようなことをいってた―――の、ところ??
綺:・・・・そう―――師範代の方が、そのようなことをいわれたのですか・・・・。
全くもって、見当違いも甚だしいですわね。
陣:えっ―――ど、どうして・・・?
綺:(フフフ・・・)今までのその言い様ですと、まるで『強者のみに武道をやる資格がある』と、いっておりますわね。
まぁ・・・わたくしも、未だ修練を積んでいる身なので、あまり偉そうなことは申せませんが―――
わたくしの師の言葉を借りるなら、『元々“武”とは、非力なる者や、体格の小さな者が、強者(つわもの)に立ち向かうために編み出されたもの』
と、そう聞き及んでいます。
ですから、まるで正反対の事なのですよ。
陣:あ―――あの・・・やはり君も、あの道場で武道を??
綺:ええ―――まあ・・・ほんのたしなみ程度ですけれど・・・。
それにしても、随分と手酷くやられたようですね。
陣:あっ・・・ああ、うん―――
綺:それで・・・あなたは―――?
陣:えっ?
綺:あなたは―――どうしたいのです?
今・・・自分が合わされたことを、そっくりそのまま“仕返し”をしたい・・・とか?
〔このとき綺璃惠は、一種のいじめにも似た仕打ちに、打ちひしがれている陣に対し、ある問いかけをしたのです。
元々の“武”とは何たるか―――を・・・そして、陣の“これから”を・・・・
しかし、陣はこう応えたのです―――・・・〕
陣:・・・・いや―――そのつもりも、もうないよ―――
確かに、最初はそうは思っていたけど、なんだか君に話を聞いてる間に、急にバカらしくなってきちゃって―――
それに・・・もしそれをしたところで、悪循環になっちゃって・・・結局ボクも、あいつらと同じになっちゃうんじゃないか―――・・・って
綺:まあッ―――(クス)
―――けど・・・やっぱり―――
綺:(ぅん?!)
陣:間違ってる事は『間違ってる』と言いたい・・・けれど、それをただ口にしただけじゃ、ナニも変わらない。
だから、自分が正しいと思ったことを実際にしようとすれば・・・やはり『力』が要るんだ。
綺:―――――・・・。
陣:『力』と『勇気』が要るんだ・・・! ボクにはまだどちらもないけれど―――・・・
綺:(フフフ―――・・・『信じた正義を貫くための“力”』か・・・まさか、ワシが師に言ったことが、時を隔ててワシが聞くこととなろうとは・・・)
それに―――“理論”の方も中々しっかりとしておる・・・こやつ―――『師』次第では大化けするやもな・・・(ボソ)
陣:えっ?今・・・なんか言った?
綺:・・・いえ―――風のそよぐ音でしょう・・・
あっ、そうでしたわ、まだ自己紹介のほうがまだでしたわよね、お互い。
では、まづわたくしから・・・名は、塚原綺璃惠と申す者です、鷹翼学園・中等部の三年に籍をおいております。
陣:へぇ・・・塚原――――綺璃惠ちゃんていうのか・・・に、しても、“鷹翼”・・・って――――ボクと同じとこだったんだね。
綺:あら・・・ではあなた様も??
陣:うん・・・あ、ボクは那須野陣、高等部の一年さ。
でね、こんなんだからナスビって仇名がついちゃって・・・
キ:まァっ―――(クスクス)ナスビ・・・だなんて、存外に面白い方ですのね。
陣:い、いやぁ―――・・・(照照)
〔陣くん―――ナニ照れちゃってんだか・・・それにしても綺璃惠ちゃんも猫被るの上手いよねぇ〜〜―――
(だってよ?今までに出てきた中でも、一番にお強い人が・・・ ^^;;)
それはさておいて―――どうやら陽もくれかけたようなので、互いの家に帰る―――の、かと思い・・・きや??〕