<三>
慈:ま・・・・まァ―――そんなことより。
いい、那須野君、審判の婀娜那さんが、“始め!”の合図をしたら―――・・・
陣:先生が・・・合図をしたら―――?(ゴク・・・リ)
慈:まづ―――君がしなくちゃならない事は、とにかくあいつとの『間合い』―――距離をとって。
陣:えっ?!『間合い』?『距離』―――?
慈:そう―――。
でも・・・開きすぎると、逆に相手から変に思われるから―――そうねぇ・・・
“蹴り”と“パンチ”の間(ま)の間(あいだ)・・・ってとこかしら?
陣:“蹴り”・・・と、“パンチ”の間の・・・間??
慈:そ―――・・・まあ、これは言ってみても、ピン! と来ないだろうから・・・ちょっと見てて。
婀娜那さん、お願いします。
婀:よし、キタ―――
〔その時、陣が聞かされたこととは、『とにかく最初は、相手との<間合い>に気をつけること』だったのです。
そして、そのことをもう少し掘り下げて、ジルが説明しようにも、“ド素人”の陣には判らないだろうから〜〜―――・・・
と、いうことで、実際に自分が手本として見せるようです。
でも・・・・?〕
陣:(あっ・・・あれ??高坂さんと・・・先生との間―――なんか、微妙に離れてるようだけど・・・?)
慈:いい―――ようく見といて・・・・これから『蹴りの間』に入るわよ・・・。
ス――――・・・・ッ
婀:ほっ―――!
バシィ―――ン☆
陣:えぇ―――っ??!(ち・・・ちょっと、前に進んだだけで・・・先生の鋭い“蹴り”が??!)
慈:次―――『パンチの間』・・・・。
ス――――・・・っ
婀:ふっ―――!
パシィ〜〜ン☆
陣:(こ・・・っ、今度も・・・少し漸進しただけで、先生の“拳”が・・・)
慈:そして―――『間接の間』・・・。
ス――――・・・っ
婀:はい―――っ!!
す・・・ たあぁ――――ン!☆
慈:ぷふぅ〜〜――。
これで、判った?!
陣:(今度も・・・少し前に行っただけで、“投げ”られた―――)
慈:ねぇ?!那須野くん―――??
陣:えっ―――あっ、ああ・・・す、少しだけ・・・少しだけ、高坂さんが前に行くだけで、
先生からの“蹴り”や“パンチ”が、とんでくる・・・・なんて。
慈:(ふぅ〜〜―――ま、こんなもんよね。)
そこだけ判っただけでも・・・よしとするか。
そう―――私のこの立ち位置では、婀娜那さんの『蹴り』が、そして、次にこの距離では『パンチ』が・・・
それから、最短のこの距離では『投げ』・・・と、あと『寝技』とかがくる―――ってコトなのよ。
婀:つ・ま・り―――君は、相手の・・・この“蹴り”と“パンチ”の中間くらいを、うろちょろしてればいいのよ。
慈:そうすれば―――今のルールでは、『注意・指導・警告』とかが与えられるから。
ここは一つ、『指導』あたりで、“あの伎”―――仕掛けてみて。
陣:えッ―――・・・あ、“あの”・・・“伎”を・・・ですか?!!
慈:そッ―――あの伎。
陣:で・・・でも―――この技、守崎君に通用するんでしょうか―――?
慈:・・・・私も、正直通用するとは思っていないわ―――
もちろん、正面きって―――はね、だから、あいつを焦らせる為に、『間合い』を“取る”<作戦>なのよ。
陣:(な―――成る程・・・)
婀:(フフッ・・・)ようやく理解できたようね。
それに―――頭に血が上ってしまったら、たとえどんな強者でも、我武者羅(がむしゃら)に攻めてくるというもの・・・
つまりこれは、相手の、そこの心理を利用してやろう―――ってハラなのよ。
〔当初、彼女達は、ナニをするにも離れすぎていた―――と、そこへ・・・
ジルが少し前進したとき、いきなり婀娜那からは鋭い『蹴り』が―――
そして、陣が呆ッ気に取られる間もなく、またもジルが前進すれば、今度は『拳』が―――
それに、最終的に、ジルが婀娜那に一番近付いたときは、その『投げ』―――で、手厚い洗礼を受けさせたのです。
そう・・・ここで一番重要なのは、その“距離”であり・・・それが<間合い>だというのです。
そのことを、判らないなりに、頭に覚えこませさせ、陣はこの試合に臨んだのです・・・。〕