<五>
〔時間を溯る事――― 一週間とちょいまえ・・・高坂家の武道場にて・・・〕
慈:ねぇ―――ちゃんと判ってる?那須野君・・・
陣:は・・・はぁ―――
慈:(全く・・・“はぁ”じゃないわよ、“はぁ”じゃ・・・)
キミ・・・一応柔道やってるわけだし、判ってるわよね、“投げ方”。
婀:ん゛〜〜〜まあ、実際無理だと思うよ?
慈:あ゛・・・婀娜那さん??!
婀:だってさぁ〜『モノの崩れ方』だって知らなかったんだよ?この子・・・
慈:(う゛・・・・)で・・・でも―――ですねぇ・・・
き、基本的なことぐらい〜・・・だったら、判るわよね? ね??
陣:えっ?!基本? あの――― 一本取ったらそれまで・・・っていう、アレの事ですか?
慈:い・・・いや、それはルールなんだけどね・・・(はは・・・)
そうねぇ――― じゃさ、『一本背負い』『大外刈り』『小外刈り』『内股』に“共通”しているものって何。
陣:えっ・・・それ―――って、“投げ技”ですよねぇ・・・。
慈:・・・・・・もしかして、陣君が認識してるの、それだけ?
陣:えッ―――・・・?・・・・って、ボ、ボク、そんな技掛けた事も、見たこともないし―――
慈:あら―――・・・(ずる)
(こ・・・これは、相当てこづりそうだわはぁ〜〜・・・)どぉ――――しよ・・・
婀:(ふふぅ〜ん☆)まァ・・・・ここは、陣君の向上心のために、一つ―――ジルちゃんが、投げられてみんといかんねェ?
慈:で――――ええっ??! わ・・・私が―――ですかぁ??
婀:そりゃもぉ――――!♡
〔さて・・・これから、柔道部・エースの守崎竜次、打倒のために特訓の開始―――な・・・ハズなのですが、
その前に、ジルが陣に対して、“どうやったら人が投げられるか”―――と、いう、柔道において最も“基本的”なことをきいてみたら、
なんと驚いたことに、陣は・・・『技が一本極まったら、試合はそれまで』、『ジルから言われた技の名称が“投げ技”』だけしか知らなかったようなのです。
そのことに、先行きが不透明すぎて、思わず“困ったさん”になってしまったジルがいたのですが―――
それをみた婀娜那は、『格好の好餌を得た』とばかりに、陣の代わりに投げられる事を提案したようです。〕
婀:―――・・・と、いうわけでぇ〜〜♡ まづは―――“一本背負い!!”
――――ズバン!
続いてぇ〜〜“内股”ぁ!“大外”“小外”“大内”“小内”に・・・“撥ね腰”ぃ〜〜!
バン バン バンッ―――!!!
どう・・・判った?
陣:え―――・・・いや、あの・・・その・・・・
婀:(う゛ぅ〜ン・・・こりゃ人選間違えたか??)
慈:はぁ・・・(ヤレヤレ、仕方ない―――)つまりね―――今の“投げ”に共通している事はただ一つ・・・・
それはね、“投げ”る時、『(どちらかの)足が一本になっている』という事なの。
陣:(あ―――・・・)あっ!!そう、いわれてみれば!!
―――で、でも・・・それとこれと、どういう関係が??
婀:つまりだね―――こういうこと・・・
ちょっと立ってみて――――
陣:あ・・・はい。
す・・・ トンっ―――☆
陣:う・・・うわっ?!い、いきなり何をするんですか?!!
婀:・・・・ふゥん〜、踏ん張れたみたいね・・・。
それじゃあ―――片足で立ってごらん。
陣:え?は―――はい・・・
す・・・ トンっ―――☆
ヨロ・・・
ズデ―――☆
陣:う・・・うわッ!(って・・・)えぇ??
婀:どう―――・・・? 今、君を押した力・・・そう変わりはないのに、どうして“片足”のときは、簡単に“倒れた”の―――?
陣:――――!!!
慈:(ふぅ〜・・・)どうやら、ようやく判ったようね―――。
そう・・・柔道の、ほとんどの技は、“一瞬”だけど“片足”になるときが多いの・・・
そして、片足になれば、体重差はそう関係はない・・・
どんなに重量級の人でも、残った足に―――これから私が教える“伎”を見舞えば・・・
陣:い―――今から・・・高坂さんが教える・・・伎?!
慈:そう・・・・その伎は――――『燕返し』、またの名を“足払い返し”!!
陣:えッ―――・・・つ、燕??
〔そこで仕方なく、ジルは婀娜那に投げられたのですが・・・陣のなんとも歯切れの悪い答え―――
そのことに、『今回の試合は人選間違い??』と、婀娜那を公開させたようデス。
でも、それでは都合上悪いので、ジルが教えてやったのです。
柔道の技は、多かれ少なかれ、片足になる技が多い―――と・・・
しかし、陣には、そこの関係がどうもまだわからないようで、そこで今度は婀娜那が実践で見せたのです。
『両足』の時と『片足』の時と・・・一体どちらが踏ん張りが利くか―――を・・・
そして、そのことを身をもって知った陣に―――これから、ようやく“伎”の伝授が始まったのです。〕