<六>

 

慈:いい――― 一瞬だけど・・よく見といて。

  婀娜那さん、お願いします・・・。

 

婀:はぁ―――っ!!

ス・・・          ス―――                                           ・・・ドォォン!

 

陣:(え―――・・・?)ぇえ―――っ??

  い・・・今、どうして―――技を仕掛けたはずの先生が・・・高坂さんに投げられ―――?

 

慈:(フフ・・・)その秘密はね―――今、掛けられた技を・・・私が“空中”で、投げ“返した”からなの。

陣:く・・・・空中で???

 

慈:そう・・・そして、これから一週間かけて、君に習得してもらうわけなの、この“伎”を・・・ね。

 

  そらッ―――まだ遅い! ほら、立って! この技はね・・・身体でタイミングを覚えなきゃダメなのよ!!

  ワンテンポでも遅れてしまえば、君の負けは確定なんだからねッ―――!!

 

 

〔『燕返し』―――又を“足払い返し”と付けられたこの技は・・・

かつて―――『全日本学生柔道大会』“決勝”にて、圧倒的優位といわれていた『足払いの名人』の投げを―――

一瞬にして、対戦相手が『投げ返した』―――

 

その時の観客は、その『名人』の投げが極まったであろう瞬間に・・・逆に『名人』が投げ返された、

その瞬間を、“目にも留まらぬ返し伎”ということで『燕返し』と呼んだという・・・。

 

 

 

それはそれとして―――試合は・・・?〕

 

 

陣:・・・・・。

竜:・・・・・。

 

婀:・・・・・両者、中央線に―――、どうしたの、まだ試合は終わってはいないわよ。

 

竜:・・・・ああ、判っている。

 

婀:(ふふ・・・そろそろ―――かな?)始めぇ―――!

 

 

竜:(こいつ―――まぐれかどうかはわからないが・・・このオレを投げた!?

  しかも・・・“投げ”を打つ瞬間を狙ってのこれは・・・もしや“燕”か?!!

 

  だが―――・・・こんな高度な技をこいつが・・・はっ!!ま―――まさか・・・この伎、あの女先生が!?)

 

婀:(ふふふ―――どうやら、うすうす感付き始めた頃合のようね、でも―――次ので、『ジ・エンド』よ・・・。)

 

 

〔あのとき―――・・・確かに手応えがあった気がした・・・でも、その瞬間に、自分の体が宙に浮き、

次の瞬間には、自分の目は部室の天井を見つめていた・・・。

 

そう―――竜次は、初めて自分が“投げられた”という感覚を、その時身をもって知ったのですが・・・

それは何かの『間違い』では―――?と、思いたかったのです。

 

 

けれど・・・今の“タイミング”に、“教えた人間”ということに・・・竜次はうすうすながら感付き始めたのです。

 

しかし―――今、もっと気になるのは婀娜那のあの言葉・・・『次ので、ジ・エンド』―――とは??

 

そう・・・今回慈瑠華が、陣に教えた“真”の『切り札』は、この燕返しではなかったのです。

その証拠として、この試合の一週間前を切った頃―――〕

 

 

慈:いい?この『燕返し』・・・これはあくまで奇襲―――囮とおもっていいから。

陣:ええっ?!この燕返しが―――ですか??でも、どうして・・・

 

婀:(フフフ・・・)つまり、“燕”で奴さんをまぐれと思わせといて、本気になったところを“叩く”・・・ってことね。

慈:(クス)ええ―――・・・上手くいけば・・・ですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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