第五話;きっかけ
<一>
―――武術とは・・・相手を攻撃したり、相手の攻撃より、己の身を護るための“術”(すべ)なり。
―――武道とは・・・己の持てる考え方、矜持を信じ、それを邁進する事なり。
〔この二つは・・・一見して同じように思える言葉ですが、大意は全く違うのです。
そして―――ここに・・・高校生ながらも、一つの武道の流派に身を投ずる者がいる・・・
その名を――― 高坂慈瑠華 ・・・。〕
慈:せぃりゃぁ―――っ!!
〔ここは、彼女の実家でもある『高坂家』、その武道場の『練武館』。
今―――彼女は、自分の流派でもある『刻焉xの腕を磨くため、
自分たちと同じような教義を持つ流派、『真蔭流』の継承者でもある 黒江崎婀娜那 と、
実戦さながらの稽古をしているようです。〕
慈:ハッ!叭ッ―――! せやぁぁ〜〜―――っ!!
婀:――――・・・。(ぱし・ぱし・ぱし――☆)
慈:まだまだ―――っ ! えい!鋭ッ!てりゃぁ〜っ!
婀:――――・・・。(ぱし・ぱし・ぱし――☆)
(ふん・・・む)そら―――(バシッ―――☆)
慈:え・・・?う、うわッ―――!(どて☆)
あ〜〜〜・・・あいたた―――
婀:足元が・・・お留守だったよぉ〜ん♡ジルちゃん。
慈:は・・・はぁ―――
陣:・・・・・。(呆)
綺:・・・・・。
〔―――が、イカンにせよ、ジルのお相手は、彼女よりも数段上の実力の持ち主であるため、
繰り出す攻撃を片手で払われたほか、手痛い反撃を貰ったようです。
この二人の組み手を温かく(?)見守る二つの視線―――
その一つは、全くの他人ながらも、『刻焉xの門戸を叩く事になった 那須野陣。
もう一つは・・・『刻焉xの師範であり、あの婀娜那をして、頭の上がらない唯一の人物――― 塚原綺璃惠。
そして―――・・・?〕
婀:さあ、立って―――! 休むのには、まだまだ早いわよッ!?
慈:は、はいっ―――もう一本、お願いしますッ!!
陣:・・・・し、しかし―――凄い組み手ですよね・・・お二人の・・・
綺:ぅん?!そうか?? この程度で―――
陣:(ぇえっ?!)こ、この程度―――?!!
綺:ああ―――まあな。
それに・・・どうやらあやつら、君がいることで、まともにやりあえんらしい。
陣:ぼ―――僕がいるから??
綺:うむ、君のような ずぶの素人 が見ているから・・・と、いうのもあるが、
どうやらあやつら、随分と手を抜いてやっておるようだ・・・。
陣:(ず・・・ずぶの素人―――って・・・)
でも、アレで手を抜いているんです?日頃・・・部活での部長や竜次さんの乱取り見てても、
足がすくみそうなのに・・・それを―――高坂さんや先生のは、それをも上回って見えるのに?!
綺:(フ・・・)ほれほれ―――!何を手を抜いてやっておる!! ビシッといかんか!ビシッと―――!!
〔どうやら上段者から、“手を抜いている”旨の事をいわれたようですが、
それは仕方のない事―――
それというのも、同い年である陣がそこにいるのだから・・・
しかも自分は、学校内では『大人しい方』で見られている所為もあるので、中々本気では打ち合えないようです。〕