<五>
〔さてさて―――場面を一時変えまして・・・
ここは、隣り街の、とある高校――――その名も『白雉高校』で、あります。
さてここで、賢明なる読者諸兄には思い出していただけるだろうか??
そう―――『第一話』で、“剣道”の試合の決勝・・・≪大将戦≫において、ジルと壮絶なまでの死闘を演じた“ある者”の事を―――
この高校は、その彼女が通うところ・・・なのです。
そして、今―――剣道場にて・・・今日の稽古が終わったようです。〕
顧:今日の稽古はこれまでっ―――!
部:ありがとうございましたぁっ――――
小:ぶふぅっ―――
翔:(滝川翔子;17歳・白雉高剣道部主将)
おつかれ―――小夜。
小:ああ、おつかれ―――翔子・・・。
翔:ねぇ―――小夜・・・
小:・・・ナニ?
翔:―――最近何があったの?
あんたの最近の練習、鬼気迫るものがある―――って、誰もが言ってるよ。
小:・・・・何もないよ、いつもの通り―――
翔:そう―――でも・・・ね。
そりゃ―――確かに、前(さき)の大会で、鷹翼に負けたのは悔しいわよ?
でも・・・もう済んだ話じゃない、新しく気持ちを切り替えないと―――
小:(鷹翼・・・)――――すまない・・・。
翔:えっ・・・??な、なんで謝るの―――?
小:日頃・・・練習を怠ってた―――その報いがきたんだ・・・
あたしが、示現の伎を体得して・・・いい気になってた―――本当は、それで満足してちゃいけなかったのに・・・!!
翔:さ、小夜―――
〔内容がどうであれ、自称“助っ人”の素人(これは、いまだ小夜の穿った見解)に完敗を喫してしまった、
示現流の体得者でもある、橋川小夜。
あの大会での惜敗を胸に、最近では毎日のように、足しげく剣道場に通う彼女の姿が・・・
でも、彼女にはもう一つ――――〕
翔:でも―――・・・確かにここの部活、あんたはサボっていたかもしれないけど・・・
実家のほうの道場じゃあ―――
小:・・・よしてよ、そんな気休め―――!
そんなことを今言ったって、アタシが負けたことには変わりはないんだ!!
そのことは、翔子―――あんたが一番よく知ってることじゃないか!!
あたしだって・・・最初、鷹翼に見えない顔がいて―――ああ、これでこの大会貰った・・・って、つい思ってしまって・・・
でも、それがそもそもの間違いだった―――
翔:―――――・・・。
小:一皮剥いてみれば―――相手のほうが一枚も二枚も上だったんだ。
―――あのときの、最初の一撃を受けた事でさえ、わざとだった・・・そうに違いはないんだ。
それに・・・あいつのあの諸動作にしろ―――むしろその時に気付いておくべきだったんだ・・・
翔:・・・・小夜―――
小:・・・・それに――――
翔:えっ?どうしたの・・・小夜。
小:・・・いや、なんでもない――――
〔ですが―――今の彼女の心の隅に巣食うわだかまりは、むしろそのあと・・・大会の後にあったのです。
そう―――顔の見えない何者か(正体は綺璃惠)に諭されたこと―――・・・
斬れない刀で人が斬れる者がいるとしたなら
その言葉に、内心肝を冷やしながらも、自分自身に自問自答していたようです。〕