<三>
―――と、ところが・・・―――
慈:(あ、あれ??)あの―――これ一体・・・なんなんですか?
婀:え?やっだなぁ〜ジルちゃんも♡
羊羹だよ、羊羹、それも『神無月』の・・・
慈:ああ〜〜―――隣り街にある“甘味処”ですよねぇ・・・
陣:でも―――これ・・・ほとんど原形とどめてない―――つか・・・
婀:いっやぁ〜〜―――それがね?
余りに急いでたもんで、つい腕が大振りになっちゃってさぁ―――
慈:あ゛〜〜・・・で、でもそういう事情とかは分かりますけど―――
現物がこれじゃあ、ちょっと―――
婀:え゛え゛〜っ、贅沢言わないでよぅ。
〔そう、そこにあったのは“原形”をとどめていない『羊羹』だったのです。
しかも、婀娜那画弁明するには、時間のロスを埋めるために、形振(なりふ)り構わず走って帰ってきた―――
と、いうのですが・・・?〕
陣:あの―――高坂さん!(ヒソ)
慈:どうしたの、陣君・・・急に小声になっちゃって―――
陣:(チラ)あの―――・・・(チラ)
慈:へ??(チラ・・・)
(ひぃ゛―――・・・)し・・・師範―――!!
婀:えっ?(師範?)(クル)
ぅい゛っ!!(びっくぅ!)
〔なんと、ここで陣がある人の異変に気付き、そのことを慈瑠華に知らせたところ・・・
慈瑠華もまた―――
しかも、慈瑠華が声を出したことにより、婀娜那も振り向いてみれば、あの婀娜那でも―――
そう・・・なんと、この三人の視線の向こうには、まさに鬼のような形相をしていた、綺璃惠がいたわけであり・・・
でも、ではどうして彼女が、こんな形相になったか―――と、いうのも、偏(ひと)えには・・・〕
綺:黒江崎〜〜―――・・・
婀:はっ―――はぃい〜!!
綺:なんだね・・・これはぁ〜・・・(注;声・・・震えてまつ)
婀:えぇ〜〜っとぉ―――あのぉ〜〜〜―――
よ、羊羹でッス、『神無月』の・・・
綺:これが―――(ぷるぷる)羊羹??しかも、神無月の??!
わ―――ワシの知っておる、あそこの羊羹といえば・・・(ピクピク)
婀:あぁ゛っ―――・・・(や・・やばぃ)
綺:それに――――黒江崎・・・
これは、ワシに対する挑戦かっ!!#
婀:ええっ?!な・・・ナニが―――です?
綺:入っておらんでわないか―――『抹茶あずき』が・・・#
慈:あっ―――そか、何か足りないなぁ〜と思ってたら、それが足りなかったんだ。
陣:(えっ?)それ―――って・・・どういう事です?
慈:うん―――師範はね?神無月・・・ってとこの羊羹に眼がないのは確かなんだけど・・・
その中でも、特に『抹茶あずき』というのがそうなのよ。
陣:へぇ〜〜―――ソウナンスか・・・
〔そう・・・特にやってはいけないこと―――
あの美しいまでの長方形をしていたモノが、いつの間にかその原形をとどめていない―――と、いう風なのはいざ知らず、
その人の一番の好物を、その時に限って―――購入していない事に・・・腹を立てていたのです。〕