<四>
〔それはそれとして―――その日より、高坂家の『練武館』にて、婀娜奈に手取り足取り稽古をつけてもらい、
幾分か実も力も着実についてきた清秀・・・・
これは、そんなある日の事―――・・・〕
清:あの〜〜―――婀娜奈さん?
婀:ん―――?なに・・・
清:婀娜奈さんの流派・・・って、一体なんなんです?
ボクも今までにいろんな人たちと闘りあってきたけれど・・・婀娜奈さんの流派は、どれも当てはまらなくって―――
婀:ああ―――そのこと・・・
いいのいいの―――そんなこと君が気にしなくっても。
君は、私のいってることをやってれば、それだけで強くなれるんだからぁ〜♡
清:は――――あ・・・・
〔清秀は―――自分の示現の師よりも、自分でさえ知らない伎を操る、
この女性のほうが遥かに強いと感じ、改めてその武を認めたうえで、彼女の修めている流派の名を知ろうとした―――・・・
しかし、それは彼女の口から決して語られる事はなかった・・・のではあるが、それでも清秀は知ってしまう事となるのです。
彼女の―――黒江崎婀娜奈の修めている武道の流派を・・・
そして―――この道場が、本当はどんな処か―――と、言う事も・・・・〕
清:―――――・・・・(プルプルカタカタ)
婀:―――――これ・・・清秀・・・精神の統一・・・出来ていないわよ。
清:は――――はい・・・(カタカタカタ・・・)
〔彼らは―――いつも通りの鍛錬を・・・その時は互いに差し向かい、竹刀同士の切っ先を合わせて小一時間が経とうとしていたのです。
しかも・・・このとき、清秀のほうは少し奮えが来ているようですが、それでも婀娜奈のほうは、構えたまま微動だにしていない様子・・・
その―――静寂を破るかのような声が・・・・〕
―――ごめん!―――
婀:ん〜〜? 誰だろうね、こんな時分―――
清:(はぁ〜・・・助かった―――)
武:ここを―――『刻焉xの道場とお見受けいたす!
故あって看板を戴きに参った!!
婀:ははぁ〜〜ん、なぁる・・・あんた、『道場破り』だね?
武:いかにも―――!!
〔そこで・・・もののふは言いました―――ここを・・・『刻烽フ道場か・・・』と――――
そのことに婀娜奈は、迷うことなく、彼の事を『道場破り』と申していたようですが、
それに対し、清秀は・・・・・〕
清:えっ――― 刻焉@って・・・あの??!
じ―――じゃあ・・・婀娜奈さんは・・・
婀:ふぅん―――・・・清秀も知ってたか・・・刻烽ェなんなのか―――って・・・
けど―――残念なことに、私はその流派じゃあないよ・・・・
武:なに―――? ではそなた・・・ナゼにこんなところに??!
〔清秀は・・・なぜかこの流派『、刻焉xの名を知っていました。
それでも、よもやここがその流派の道場だとは思いもよらなかった・・・。
の、ですが―――そも、清秀が『刻焉xの名を知るきっかけが、彼自身よく購読していた『剣の道』という雑誌であり、
いつしかの特集記事に、少しだけこの流派の事が取り上げられていたのを、目にした事があったからなのです。
そしてここで一つ―――清秀が剣道の全国大会で優勝したときに、インタビューを受けたのも、この雑誌の記者・・・。
しかも、この特集の記事を書いた記者の名は――――“筧”だと、いうのだそうで・・・・
そこで―――このとき婀娜奈自身の口から語られた、ある事実・・・・〕
婀:――――私・・・かい。
私はね、いつか―――ここの・・・刻烽ノ打ち勝つ、それだけを求めに、ここに入り浸っている者さ・・・
清:(え・・・)刻烽ノ―――打ち勝つため??
婀:ああ―――そうさ・・・(ニャリ)
長くここにいつかさせてもらって、色々な観点・視点から弱点を―――・・・粗を探してるってことなのよ。
だけどねぇ、あんたみたいな雑魚に邪魔をしてもらいたくないんだわ。
あんたが思っているほど―――ここの主は甘かないんだよ・・・。
武:なにをぉう―――! それがしの武は、ぬしみたいな女ごときに敗れるものではないわぁ!!
婀:ふふ――――・・・云ってくれるわねぇ〜〜・・・・。
だけど・・・最低限、私の屍を踏み越えて征ってもらわなくちゃあ―――・・・
そうでなければ―――ここの主・・・・
泰 山 府 君
―――は、おがめやしないよ・・・。
〔そう―――彼女はそういった・・・ここの主が・・・『泰山府君』で、あると・・・。
泰山府君とは―――元はといえば道教の神々の一人で、“泰山”と言う山に棲まう者の意味とされており、
だが・・・・仏教などと融合し、ある一つの畏るべき者と融合する事により、そのある者と同一視される事になると伝う・・・
では―――そのある者とは・・・・・
――地獄の冥府を司ると云う――
=閻魔大王=
―――・・・。〕