第九話;死合い当日
<一>
〔自分の流派とは異なる流派との仕合い―――いわゆるところの『他流試合』・・・
その当日の日となり、両者の間では、さぞかし闘気を高ぶらせている――――
もの、と、そう思われるのですが・・・〕
小:(清秀・・・今朝の稽古は中止―――って言ってたけれど・・・
正直言って近づけなかった・・・
だって―――あんなにも闘気を、剣気を出している清秀は初めてだから・・・
それに、無理して稽古をつけてもらって、あたしを―――・・・)
清秀・・・なんだってこんなに――――
〔こちらは白雉高の橋川小夜、自分の剣の師が、他流派と対決するのを聞いて、居ても立ってもいられなくなり、
その当日には自分もその試合に立ち合わせてほしい――――・・・と、懇願してしまったのです。
しかも、この仕合いの裏の背景には、現時点から遡る事一週間も前―――
剣道の県大会・決勝において、自分を上回るハイ・レベルの者に敗北を喫した―――・・・
確かに、自分は周囲りの者達のとは違う・・・実戦に近い『示現流』を修めている、だから敗けを拾うはずなどない―――
そう、多寡を括っていた・・・事実、準決勝までは 向かうところ敵無し の状態だったのに、
その決勝の相手は、明らかに今までの者とは違っていた・・・・
そう―――今までの対戦相手達とは明らかに・・・
町で教えている“道場剣法”や、自分の修めている 実戦“的” なものなどではなく・・・
それはまさに 実戦 そのもの―――・・・
小夜は見た・・・・剣道防具の『面』より、覘いて見えた対戦相手の表情・・・・
口は不敵なまでの笑みをたたえているのに―――そのまなざしは鬼気迫るもの・・・・
今までは、自分が対戦相手達に与えていた剣気<プレッシャー>を、今度は自分が味わう事となった・・・・
途端―――まるで自分の気が萎縮してしまったのを感じてしまった・・・
と、同時に、全身に迸(ほとばし)るあの感覚・・・・
そう―――あのとき、小夜は 斬られた のを実感してしまったのです。
そして、その日のあったことを師に話してみた――――
しかし・・・・師は、清秀は余りそのことに関して深くは触れなかったのです。
まあ―――それは、彼自身『いい薬になった』程度の事にしか感じていなかったのだろうが・・・
それもそうは行かなくなった背景には、その後日に自分の愛弟子が体験してしまったあること―――
“ある者”に、暴漢たちから助けてもらったということ―――・・・それなのですが。
実は、今回の仕合いの相手こそ、その愛弟子を助けてもらった者なのです。
しかし、それでは、まるで恩を仇で返すのでは・・・? と、思ってしまうのですが―――
ところが、これまた不思議な 縁 のあるもので、彼自身この町で燻(くすぶ)っていたというのも、
八年前という過去に、この同じ存在の者に敗北を喫していたからなのです。〕