<三>
〔婀娜奈ほどの武の練達の持ち主にボールをぶつけた・・・そのことにジルも『ナゼに―――』と、思ってしまうのですが、
今はとりあえず保健室へと直行したようでございます。〕
慈:はぁ〜〜っ・・・一時はど〜〜なることかと。
でも、師範も言いますよね、『受け損なった』―――って。
綺:・・・いや―――あれはワシが故意にぶつけたのだ。
慈:はあ゛?? なんでまた―――
綺:その前に・・・おい―――いつまでそうしているつもりだ・・・
婀:てへ♡ バレちゃった ・・・
慈:あ゛・・・って、二人とも芝居ですかぁ??!
婀:いや―――私はマヂだったんよ・・・ジルちゃん。
綺:この阿呆が・・・ナゼにのこのこと、人の集まる場所に出てきおった、
今日は 死合い の当日だろうが―――・・・
慈:そぉうですよう―――今日は、青木清秀って男の人と闘りあうんでしょ?
なのにどうして―――
それに・・・師範も“死合い”だ、なんて・・・言い過ぎじゃあないんです??
綺:(フ・・・)莫迦めが―――
慈:はあ??
〔そこで語られた真実とは、愉しげに生徒達とじゃれあっている、
本日の“死合い”の当事者を戒めるために、故意にボールをぶつけたとした綺璃惠なのでした。
しかも―――婀娜奈よろしく、彼女ものびたフリをしていたようで・・・
この両者の芝居にまんまと乗せられた象(かたち)のジル―――・・・
ですが、そこにはもう一つの思惑―――『どうして死合いの当日に、雑念の多い群集の中に出てくるのか』・・・と、いう、
戒めもそこにはあったのですが・・・・〕
婀:だって〜〜―――今日敗れちゃって、明日がないかもしれないのに・・・
だったとしたら、今やっときたいことをやっとかないと、後悔することになるじゃない?
慈:(え・・・)ちよっ――――やだなぁ〜〜〜
婀娜奈さんも、『明日がないかもしれない』――――って、縁起でもない・・・
綺:どうも判っておらんようだな―――
今、こやつがここに来ておる事自体が考えられんのだ―――
慈:(え・・・っ)どうして――――
綺:今日は『死合い当日』、いうなれば殺気を漲(みなぎ)らせても不思議ではない日だ。
ひと昔前なら、その者と眼を合わす事―――況してや、触れる事すら“忌み”であるのに・・・な。
慈:じ・・・じゃあ―――と、いうことは・・・
綺:師範代―――お前、今こやつの身からは殺気が感じ取れるか?
慈:(あ・・・)い―――いえ・・・
綺:だからこそ―――だ。
だからあのとき、何気なしにはなったワシのボールに、なんら反応することなく、マヂにぶつかったこやつがおった―――・・・
慈:あ―――・・・
綺:・・・どうやら、ようやく判ったようだな――――
もうよい、お前はいったん下がれ、あとこやつには言っておくことが二・三あるからな。
慈:・・・・はい―――
〔そう・・・それこそ、ひと昔前では考えられないことだった―――
その名称の通り、『死合い』とは、明日の己の生を賭けて太刀合うことであり――――
敗北ければ即“死”がそこにはある・・・
だからこそ〜〜――――なのに、婀娜奈は自らその禁忌を犯し、群衆と交じり合おうとしていた、
それも『悔いの残さぬように』――――と・・・
その彼女の弁に、一瞬何を感じたか、綺璃惠はジルにその場から席を外すように説いたのです。
そう―――・・・これから、あることを確かめるために・・・・〕
綺:・・・なあ、黒江崎―――お前、よもやとは思うが・・・
婀:は? な、なんですか―――
綺:・・・あの坊やに、わざと敗けるのではなかろうな・・・
婀:な―――なんですかぁ?? どうして私がそんなことを・・・・
綺:・・・いや、悪かったな、ふとそういう気がしただけだ、他意はない。
婀:・・・イヤですよ?本当に―――
〔ケド、そうはいったものの・・・ほんの一瞬、見透かされたような気がした―――
そう、婀娜奈は思うのでした。〕