<六>
〔ついに―――賽は投げられた。
決して、あとに退くことの出来ないものが―――・・・
片や―――実戦に近い剣術『示現流』を修め、奇しくも八年前に、この同じ対戦相手に屈してしまった―――青木清秀。
彼は・・・このときのために、八年間を無為には過ごさなかった・・・
かつて故郷では、他に並ぶべき者なし―――と、まで讃えられ、もてはやされる嫌いはあったものの、
逆にそのことを戒めとして、決して奢ることはなかった―――・・・
その彼が取る構えは“示現一刀の構え”・・・・
片や――― 一時的に絶えはしたものの、その類希なる才能と努力により、見事その流派を復活させた『真蔭流』の―――黒江崎婀娜奈。
その流派は、かつてないすさまじいものであり、“多子相伝”ではなく“一子相伝”により伝授されたもの・・・
その鍛錬の厳しさにより、挫折―――あるいは断念した者は、数知れず・・・とか。
しかし―――彼女は、どういった経緯(いきさつ)であれ、その武道を修める事が出来た・・・
その彼女が取る構えは――――〕
慈:(ああっ――――)あれは・・・『二刀流』!!
陣:ええっ―――? 二刀・・・って、あの宮本武蔵の『二天一流』なんですか??
綺:・・・イヤ―――違うな・・・
あれは、宮本武蔵の流派であって、あやつの取っておる型とは、また違った解釈のものだよ―――・・・
まあ、少し見ていたまえ・・・
小:(清秀―――・・・)
〔そう―――彼女の取っていた構えの型こそ、あの『二天一流』との違いはあれ、“二刀流”だったのです。
でも、しかしこの型こそは―――・・・〕
清:・・・・またその型か――――
このオレが、以前と同じ弐の轍を踏むとでも思ったのか―――!! なめるな―――!!
ガ☆ ガキィィ――――ン・・・
清:・・・・あのときは・・・あんたに教えてもらったこともあるから――――
総ての手の内は判っていた・・・その慢心が、このオレの油断を誘ってしまったのは事実。
だが―――・・・同様の手口が、同じものに通用すると思った・・・それがお前の慢心だ!!
敗北の苦い味を思い知るがいい―――黒江崎婀娜奈!!
〔その“構え”の型こそ、自分が八年前という過去の時間に、辛酸を嘗めさせられた死合いでの、そのものだった・・・
しかも―――今度もその型で挑んでくるという・・・辛酸を嘗めさせてくれた相手に、
静かなる闘志を燃やしていく清秀――――・・・・〕
―― だ が ――
婀:(フ―――)・・・フフフフ・・・・・
よくもまぁ―――・・・舌の根の廻るヤツだこと・・・・
いいから、さっさと来な―――
清秀・・・・
慈:うぐっ―――(びくっ!)
小:(こ――――これは??)(びくっ!)
〔その者は・・・恐ろしいまでに落ち着いていた―――・・・・
数時間前までは、いつも通りの朗らかな彼女を見ていたのに――――・・・・
それが・・・
それが―――・・・完全に切り離されてしまった今、自分たちの目の前にいる者は・・・何者??〕
清:お前に言われるまでもない―――積年の無念・・・今ここで晴らしてくれる!!
ぉぉおおあああ―――――!!!